1Q84 BOOK 3/村上春樹

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☆☆☆☆☆
遂に出ましたBOOK3。
事前にBOOK1と2を読んでおくはずが結局読まずだったので内容が把握できているか不安だったのですが、その辺は考慮してくれたのかこれまでのあらすじを暗に語ってくれているパートが結構多く、それほど混乱せずに読めました。

さて書評ですが、BOOK1、2で感じた以上に現実との接地面が大きい作品だなと感じました。
1つにはヤマギシ会、エホバの証人、オウム真理教、連合赤軍などモチーフとなったテーマがあからさまに見え、それを村上文学の中で取り込み評価をしていることから社会へのコミットメントが伺えます。
もう1点はBOOK3の構造がある種分かりやすいエンタメ作品となっていることです。ごく身近な距離にあり、そばにいることすらも分かっているのに出会うことのできない愛し合う2人。これなんてギリシャ悲劇やシャークスピア作品から連綿と続く恋愛モノ悲劇の王道です。また冒頭からの展開も追う者と追われる者両者の視点が交互に展開される追跡モノの基本的な構造ですし、ストーリーラインが読みやすい構造になっています。
村上文学一流の特異な比喩表現もこれまでの作品と比べれば少な目で、らしくない要素も見え隠れします。

とは言え解決されない伏線や形而上学的な意味を想像させる様々な物語要素は相変わらず健在で村上作品的アイコンが消えたわけではありません。しかしながら全体の印象としてはやはりらしからぬ作品といえるだろうと思います。これが一時的な変化であるのか、これまでの流れから想像できるように村上春樹なりの意図的な進化であるのかは何とも言えませんが、やはりストーリーラインのしっかりとした物語を書くのは村上春樹に求めるモノとは少し違う気がします。

むろん5つ星をつけているわけですから、彼の作り出す世界に夢中になったのも事実でファンの方には絶対にお勧めしたい作品ではあります。

さて、今ネットで話題になっているのはBOOK4、あるいはBOOK0、1Q85の存在の噂です。
確かにBOOK3終了時点では解決していない、あるいは真相が明らかになっていないいくつかのイシューがあります。しかしながら主役である天悟君と青豆さんの物語は完結し(勿論予期すべきその先に展開する物語はあるでしょうが)、他のテーマが彼らを彩る形而上的な存在とするならこの物語についてこれ以上語ることはないと思います。そもそも村上の作品はミステリーやエンタメ作品ではないのですからそんなに親切なものではあり得ません。

村上さんの80Pに及ぶロングインタビューが入った本です。
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1Q84 1-2巻セット/村上 春樹

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