骸骨ビルの庭(上)/宮本 輝

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☆☆☆☆
住人たちを立ち退かせるため、八木沢省三郎は管理人として骸骨ビルに着任する。そこは、戦後、二人の青年が子供たちを育てた場所だった。食料にも事欠き、庭で野菜を作りながら、彼らは命を賭して子供たちと生きた。成人してもなおビルに住み続けるかつての子供たちと、老いた育ての親、それぞれの人生の軌跡と断ち切れぬ絆が八木沢の心を動かす。すべての日本人が忘れられない記憶。現代人が失った純粋な生き方が、今、鮮やかに甦る。 (amazonより)

宮本輝最新作を読んでみました。
昭和と大阪を感じさせる本でしたね。街の匂いや生温かさが伝わってくる文体で、平成6年という時代設定以上に隔絶された時間と場所であるように感じました。それに重ねて大阪のある街(地域)で生きる、骸骨ビルの住人たちとの会話が何とも心地よく、それの心地よさだけで、ある種の満足感を得ることが出来る小説だと思います。

物語としては、ラスト間際まで引っ張る謎のようなものが存在しますが、それはあくまで文学的、あるいは人生訓的な幕引きがなされるのみですので、ストーリー的な起伏や面白みを求める方には合わないかもしれません。ただし結末で描かれるエピソードに象徴される本作のテーマは、先ほど述べた作品全体を流れる空気感同様、非常に心地の良いものであり、多くの方が満足感を得られると思います。

気になった点を1つ挙げれば、ごく一部の例外を除き全編通して人の優しさを描いた本作ですが、街の空気感も人の優しさもあまりに調和が取れすぎているために、回顧主義的な印象を受けることですね。この作品で描かれる現在は、あまりに現在らしくなく、つまるところあの頃は良かった、あの頃は良かったと繰り返され続けているようです。とは言えこの作品に登場するキャラクター達はあくまで前向きであり、時間を止めることは望んでいません。作者が本当のところ、どう思っているのかは少々疑わしい部分もありますが、作品としては過去を顧みつつそれでも前に進んで行く物語です。私個人としては本作のテーマに感心はできても、感動や共感までをも持つには至らなかったので5つ星までには至りませんでしたが、この作品世界には心地よく浸ることができました。

骸骨ビルの庭(下)/宮本 輝

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