贖罪 (ミステリ・フロンティア)/湊 かなえ

¥1,470
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☆☆
誇るべきところは空気のきれいさ、夕方六時にはグリーンスリーブスの音色。そんな穏やかな田舎町で起きた、惨たらしい美少女殺人事件。犯人と目される男の顔をどうしても思い出せない四人の少女たちに投げつけられた激情の言葉が、彼女たちの運命を大きく狂わせることになる――これで、私の罪は、償えたのでしょうか? 衝撃のベストセラー『告白』の著者が贈る、新たな傑作。 (amazonより)

「告白」を読んで湊かなえの本を他にも読んでみたくなったのですが、2作目の「少女」の評判が悪いので、3作目にして最新作「贖罪」に手を出してみました。作品の構造は「告白」と全く同じです。連作短編で1章ごと違う人物のモノローグで展開していきます。

さて書評なのですが、「告白」の体裁をそのまま活用しているのですが、物語そのものには「告白」のような衝撃とプロットの巧妙さはありません。「告白」の書評では1章のみが特化した出来栄えで、それ以降の章は蛇足にすぎないと書きました。しかし、それでも「告白」にはある種の巧妙さがありました。それは「善意の否定」と「悪意の連鎖」です。ある章を読んでいた時は、善人に思えていた人間が次の章を読むと、その彼すら悪意を持って行動していたことが分かり、そして彼の悪意によってまた別の善人も悪意に染められていく、という読めば読むほど救いのない物語でした。

で!今作なんですが(ネタばれを避けて書くのが中々難しいのですが)、要約すると同級生の殺人事件現場(厳密に言えば近く)に居合わせた4人の少女と、その少女の母で事件直後4人に怒りをぶつけた被害者の母のその後の人生を追った物語です。「告白」をお読みの方ならお分かりいただけると思いますが、今作もあのダークなトーンです。当然4人の少女たち、もしくはその周辺で、その後何らかの不幸な事件や事故が起こります。それを少女たちは殺人事件と結び付けて考えています。(具体的に考えているというよりは感覚的にです)
当然、このあらすじを読めば、被害者の母親、もしくは身内や当時の事件の犯人の関与を想像するわけですが、はっきり言って彼らは現在進行形で起きている事件とは何の関係もありません。つまり過去の事件とはなんの関係もなく、彼女たちには不幸が訪れているわけです。ネタばれになるので詳細には書けませんが、部分部分で殺人事件との関わりはあります。でもそれは物凄く間接的なもので、あの事件があったからどうのこうのってことではないんですね。もっと言うと母親は殺人犯の顔を覚えていない少女たちのことを逆恨みして、事件直後にとんでもない暴言を吐くわけです。(最後まで読めば、気持はわからんでもないんですが)今度はそれを少女たちが恨むわけです。私たちが今不幸なのは、「あの人にあんなことを言われたからだ」ってなもんです。でも何度も言いますが、彼女たちに訪れた不幸は過去の事件も母親の言葉も関係ないのです。母親の言葉がずっと残ってそれが彼女たちの性格や情緒には影響を及ぼしたのかもしれません、でも!でも!今起きている事件には関係ないのです。

つまりですね。この作品、偶然の不幸と逆恨みのし合いだけで成り立った物語なんですね。しかも彼女たちを不幸に陥れる事件を起こす人たちは、いずれも超がつくほど異常です。こんな人たちが次々事件の関係者4人の前に現れるのを、誰かや何かのせいにするって無理がありすぎるでしょう。あまりに異常者ばかりが登場するので、この世はどうにも出来ないほど悪人だらけだって書きたいのか、と感じたほどです。この作品を読む限り、どの時世においても悪魔のよう人間が登場しすぎます。

散々書きましたがこの作品、読んでいる時は、それなりに楽しめます。というのも新人離れした文章の上手さと、各章ごとは一体どんな展開を見せるのだろうって期待させられるからです。そして章の終りには愕然とさせられるのです。ただし、ただの不幸の羅列を楽しんで読めるのは、この不幸の裏には何らかの必然性があると信じているからです。仮に必然性がなかったとしても何らかのテーマがあるのだろうと期待します。しかし実際読み終わると、逆恨みと偶然の不幸の羅列だったと気づかされるわけです。その辺の落ちが書けなかったとしても、上手くテーマを持たせてくれればまだ良いのですが、ところどころに見える閉鎖空間(田舎町)の排他性と閉塞感といったものも活かしきれてないんですよね。田舎のどろどろした感じをテーマに書いてくれればそれはそれで面白かったと思うのですが。挙句エンディングは散々、異常な人間を描いてきておきながら安息に向かってしまうのでなおのこと中途半端です。

正直文章は上手いし、プロットそのものの作り方にもセンスを感じます。あとは全体を包括するテーマ、もしくはミステリー的な落とし所を作れれば非常に良い作家になれると思うんですよね。実際「告白」ではそれが出来ていたわけだし。出版社の意向かもしれませんが、そろそろ連作短編+モノローグっていう書き方を脱皮して、安易にい不気味なだけの作品でなくしっかりした作品を書いてもらいたいですね。

告白/湊 かなえ

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