運命の人(一)/山崎 豊子

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☆☆☆☆☆
ん~、はずれがない作家…というより傑作しかない作家のようですね。
本作は昨今ニュース新聞紙上でも話題に上ることの多い西山事件(外務省機密漏洩事件)を取り上げた半ノンフィクションです。

この作品の他の山崎作品との違いは今まさに動いている事件を取り扱っていることと、ストーリーの枠組みが小さいことです。
後者について少し説明します。山崎豊子作品の多くはある人物の生涯を描いた大河ドラマ的作品が大半です。基本的には本作においてもそれは同様なのですが、スポットライトが当てられているポイントが「外務省機密を得るにいたった過程」と「その違憲性を巡る裁判」に終始しているのです。そのためこの作品では一般的な小説同様、起こった事件にのみ集中して読み進めることが出来るのです。つまり「人」ではなく「事件」を主題として取り扱った作品ということです。
実は最終巻に入ると(作者が)沖縄の現状を訴えたいがためか沖縄で起こる様々な悲惨な事件(ほぼ実話)を連続して主人公の間近で体験させるのですが、最終巻を除いては一貫して事件にスポットライトが当てられた作品です。
これまで大河的な山崎作品を読み、感動してきたわけですが物語として非常にコンパクトなサイズにまとまった本作にもまた違った魅力があり、ぐいぐい引き込ませます。

個人的には最終巻で描かれる沖縄事情は作者一流の複雑な事態を非常に分かりやすく伝える技術でとても勉強にはなりましたが、物語的には蛇足に近いパートだと思います。しかしそれ以外に関してはまたも文句のつけえようのない傑作です。事件自体が動いている今読むとより楽しめる作品だと思いますので、読む気がある方は今読んでおくことをお薦めします。

蛇足ですが、本作には主人公弓成亮太と親しい記者としてナベツネ(渡邉恒雄)をモデルとした人物が登場します。果たして山崎豊子はあのナベツネにも取材したのだろうか?と思い巻末の取材協力者一覧を覗くとしっかりと渡邉恒雄の名がありました。山崎豊子クラスになると御大も取材に対応してくれるんですね。

沖縄密約―「情報犯罪」と日米同盟 (岩波新書)/西山 太吉

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