フィッシュストーリー/伊坂 幸太郎

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☆☆☆
4つの短編からなる短編集です。
来月には映画公開もされるようですね。伊坂さん絶好調です。

「動物園のエンジン」
ちょっとファンタジーテイストの作品です。キャラクター造詣なんかは非常に伊坂幸太郎らしさが出ているんですが、諸々含めて今一歩盛りきれていない感じでしたね。キャラも複線も雰囲気も全体的に物足りない感じがしました。

「サクリファイス」
ラッシュライフ重力ピエロで存在感を見せた黒澤が主役として登場します。ある集落に残る生贄の風習をモチーフにしたミステリーテイストの作品。通常の伊坂作品よりも殺伐としていて、ミステリー色も強かったです。モチーフは面白いですがこういう作品であるなら伊坂幸太郎よりも上手い作家は大勢居ます。つまらない訳ではないですが、あまり価値を見出せませんね。

「フィッシュストーリー」
過去が現在につながり、今が未来につながる。複数の時代を非常に気持ち良くつないでいる作品。これぞ伊坂幸太郎というテイストの作品ですね。ただ、もう少し膨らませて長編で書いて欲しかったですね。それに耐えうる作品だと思いますし、短編だと少し消化不良な感じがしてしまいました。

「ポテチ」
4つの短編では一押しです。以前ラッシュライフで黒澤と共演したマヌケな泥棒今村忠司が再び黒澤と共演を果たします。ラッシュライフでは自力で万有引力法則を見つけ出した彼が、今作ではピタゴラスの定理を導き出します。ストーリーはそんな今村君のちょっぴり悲しくも感動的なストーリーです。伊坂作品の中でも泣ける作品ベスト3に入るでしょう。ありがちな言い方ですがこういう本は確かに心の栄養になるなって思えます。

さて作品間リンクがファンを喜ばせる1つの要素となっている伊坂作品。本作はそれが特に多くなっています。中でもラッシュライフとのリンクが非常に多いです。(重力ピエロとのリンクもそこそこ重要かも?)森博嗣の作品などと違って読んでないと分からない、楽しめない、ということはありませんが、出来るならラッシュライフは読んでいたほうが楽しめることは間違いないと思います。あくまで付加価値ではありますが、ラッシュライフ読後に読むことをお奨めします。

これまでにご紹介した伊坂幸太郎作品
「ゴールデンスランバー」☆☆☆☆☆
「チルドレン」☆☆☆
「死神の精度」☆☆☆☆☆
「ラッシュライフ」☆☆☆☆
「重力ピエロ」☆☆☆☆
「オーデュボンの祈り」☆☆☆☆
「アヒルと鴨のコインロッカー」☆☆☆☆
「グラスホッパー」☆☆☆☆☆
「陽気なギャングが地球を回す」☆☆☆
「陽気なギャングの日常と襲撃」☆☆☆
「砂漠」☆☆☆