デモクラシーの冒険 (集英社新書)/姜 尚中

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最近は「悩む力」のヒットで何かと話題な姜尚中教授と日本経済史、思想史を専攻するオーストラリア在住、テッサ教授の対談本です。イラク戦争を話の契機としながら民主主義について語り合うわけですが、両者の政治的な立ち位置が非常に近いため、議論というよりは民主主義に関する手ほどきをされているような印象を受ける内容です。
思想的な偏りが感じられなくもないので、敬遠される方もいらっしゃると思いますが、基本的にリベラルな2人なので、読んでいて不快になったり、(思想的な意味で)特定の層にしか届かない言葉で喋っているという印象は受けにくいと思います。

内容に関しては、「二大政党制」「グローバル化」「監視社会」「マスメディア」「外国人」「劇場型政治」といったキーワードに触れながら時事問題を語っていきます。
ただ私が考える本書の売りは時事問題以上に、大学の教科書で学ぶような政治学の基礎的な部分を、楽しみながら分かりやすく学べる、という点にあります。産業化革命以降、どのような形で経済が発展したか。そのような流れの中で登場する、サッチャーやレーガンがとった新自由主義と呼ばれる経済政策はどのような理由から生まれ、そしてどこに問題があったのか。といったことから、ルソーやロックの社会契約論とはどのような意味を持つのか、といったことまで、経済を学ぶにせよ政治を学ぶにせよ、根幹となる知識をここから得ることが出来ます。
またニュース番組でも「新自由主義」「ネオリベ」と言った言葉を使った議論が行われる昨今では、文系理系問わず当然知っておいた方が良い概念でもあります。
作者のお2人は個人名義で専門書も書いておられますから、他の書籍でも学ぶことは出来ますが、初学者にはかなりハードルの高い内容となっていますし、また姜尚中名義で出されている新書版の政治学入門などと比較しても、非常に重要な点を押さえられていますので、類似の書籍の中でも特にお奨めしたいです。
本書を読んだ後は、彼らの書籍を更に読んでみるのも良いですが、ネオリベラリズム側に立つ論者の本を読んでみると本書とのコントラストがはっきりして、よりいっそう議論のポイントが見えるかと思います。
またニュース番組でも「新自由主義」「ネオリベ」と言った言葉を使った議論が行われる昨今では、文系理系問わず当然知っておいた方が良い概念でもあります。