文庫版 陰摩羅鬼の瑕 (講談社文庫)/京極 夏彦

¥1,260
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☆☆☆☆☆
シリーズ第7弾です。
このシリーズは前作「塗仏の宴」で一端の区切りがされたので、今作が折り返し点です。
今作以降はこれまでの1作目からそれぞれテーマが対応関係になっていくようです。
つまり
姑獲鳥の夏 ― 陰摩羅鬼の瑕
魍魎の匣  ― 邪魅の雫
狂骨の夢  ― 鵼の碑(発売日未定)

ってことは、対応関係が塗仏の宴までいったら終わってしまうのだろうか…。
という不安が胸から消えない今日この頃ですが、とりあえずそれはおいときましょう。

ちなみに対応関係についてのお話もおいときます。
ネタばれになりかねないので。ちなみに対応関係というのはテーマについてで、ストーリー的な対応ではありません。

今作は白樺湖畔にそびえ立つ、通称「鳥の城」で起きた20年にも及ぶ連続密室殺人事件。事件はいずれも当主由良昂允伯爵の新婚初夜に花嫁達が殺されてきた。
姑獲鳥の夏と共通する1つの外的要因は、極めて閉塞的な空間で起きている事件、だということです。

さて、今作は今まで少々趣向が違います。
まず極めて場面展開が少ないです。ストーリーはほぼ「鳥の城」で進んでいきます。勿論、中野古書店の場面はところどころ登場しますけどね。
もう1つは、登場キャラクターがほぼ関口君と榎さんに限定されている、ということです。いやいや「鳥の城」に乗り込んだのが神と下僕とは、何とも危険な組み合わせで。しかも冒頭からなんでか神は通常の視力が失われています。(恐らくサイドストーリーを読めば理由は分かるのでしょうが、通常のシリーズのみ読んでいると理由は分かりません)

動きのない作品が苦手な方にはもしかしたら合わないかもしれません。
ただ、個人的には「姑獲鳥の夏」に続いて好きな作品です。単純だけど壮大で、哀しいトリック。冒頭からトリックのヒントも与えられており、推理をすることも出来ます。私は後半に差し掛かったあたりで気づきました。つまりストーリーの流れを追っていくと、関君と同じ心境に達せられる作品である、ということです。
そしてこのトリック、並みの作家がやれば確実に非難の雨あられでしょう。京極夏彦がやるからこそ傑作として成立するトリックです。

そして今作での関君、1作目から見ていくと随分成長しましたね。そのあたりもシリーズを追っている人間からすると嬉しい限りです。


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