センセイの鞄 (文春文庫)/川上 弘美

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☆☆☆☆
駅前の居酒屋で高校の恩師と十数年ぶりに再会したツキコさんは、以来、憎まれ口をたたき合いながらセンセイと肴をつつき、酒をたしなみ、キノコ狩や花見、あるいは島へと出かけた。歳の差を超え、せつない心をたがいにかかえつつ流れてゆく、センセイと私の、ゆったりとした日々。谷崎潤一郎賞を受賞した名作。(amazonより)

この本を読んでまず感じることは、一体いつに書かれた本?というものでした。古めかしい言葉遣いと前時代的な設定は現役の若い作家が書いた本、というよりは既に亡くなられた作家の著作と言った方がしっくりくるような雰囲気だったから。ただそういったテイストに加え、センセイとツキコの間に流れる二人だけの時間は、読み手にとっては非常に居心地の良い時間であるのもまた事実です。

以前にご紹介した川上さんの作品『どこから行っても遠い町』を読んだ際にも感じたことだが、この作者が描く町はこの世のどこかにありそうなリアリティーと、しかしそこにはたどり着けないであろうフィクション性を抱えている。正にどこから行っても遠い町だ。私が好きになる作家は皆、独特の匂いを発する世界を構築するのが上手い。いつもと違う角を曲がって歩き続けると足を踏み入れてしまう世界。一度入ったら二度と戻ってくることが出来ない世界。それは横溝正史のようなおどろおどろしい世界でも、川上弘美のような心地よい町でも同じことだ。

センセイとツキコが自分たちの矜持を持ちながら、ゆったりと彼らなりのペースで時を進ませていく世界は、ここではないどこかへと足を踏み入れさせてくれるというこれぞ読書、という体験をさせてくれるでしょう。

ドラマ化もされているみたいです。
センセイの鞄 [DVD]/小泉今日子,柄本明,豊原功補

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