「哀れなるものたち」
を観てきました。
ストーリーは、
不幸な若い女性ベラは自ら命を絶つが、風変わりな天才外科医ゴッドウィン・バクスターによって自らの胎児の脳を移植され、奇跡的に蘇生する。世界を見たいという欲望にかられた彼女は、弁護士ダンカンに誘われて大陸横断の旅に出る。大人の体を持ちながら新生児の目線で世界を見つめるベラは時代の偏見から解放され、平等や自由を知り、驚くべき成長を遂げていく。
というお話です。
ヴィクトリア朝のロンドンで、医学生のマックス・マッキャンドルズは異端的な外科医ゴッドウィン・バクスターに指示し、彼の助手になる。彼はゴッドウィンが後見人となっている、ベラという子供のような若い女性の世話を任され、ベラに惹かれていきます。
ゴッドウィンは橋から飛び降り自殺をした女性を連れ帰り、彼女が妊娠していたことを知り、死んだ彼女の脳に生きていた胎児の脳を置き換えて生き返らせ、ベラと名付けたとマックスに明かし、その結果、ベラは幼児の心をもった大人となってしまっていることを説明します。そんな話を聞いてもマックスの思いは変わらず、ベラに結婚を申し込み、ベラもゴッドウィン教授も了承します。
但し、結婚のためにゴッドウィン教授が特殊な契約書を作成し、その契約書の作成に当たり頼んだ弁護士ダンカン・ウェダーバーンの登場により、事態が変わって行きます。ベラの知能はどんどん発達しますが、まだ幼いままなんです。ベラはダンカンにたぶらかされ、世界を見たいと言い始めてしまい、結婚はお預け。ダンカンとポルトガルの首都リスボンに向けて旅立ってしまいます。
ベラはダンカンとの出会いでセックスの快楽に目覚め頻繁にせがむ様になり、ダンカンは退屈させないためにリスボンを出て船にに乗ります。しかし彼では物足りなくなったベラは、船の乗客と仲良くなり本を読み始め哲学に興味を持ちます。子供のようで自分の思い通りになる女性と思っていたベラが手に負えなくなり、酒とギャンブルにおぼれ始めたダンカンは、ある日、ベラのせいで破産することに。
ダンカンは残りの旅費を捻出することが出来なくなり、マルセイユで船を降り、その後パリに向かいます。パリで無一文になった二人。ベラはよく解らずに売春宿で働くことになり、ダンカンはそれを聞いて精神崩壊をし、どこかへ行ってしまいます。ベラは一人で生きることになり…。後は、映画を観てくださいね。
この映画、面白かったし、雰囲気が好きだったなぁ。まるでルネ・マグリットの絵画を見ているような雰囲気で、素敵な映画でした。この夢のような世界は、やはりヨルゴス・ランティモス監督ならではなのかな。ベラの成長は、まるで世界の女性全体の成長のようで、とても共感が出来ました。
ベラ(本名は違います。)は人生に絶望して、橋から身を投げた女性です。水死体となって引き上げられた彼女を、ゴッドウィンが貰い受け、自宅の研究所で生き返らせるんです。彼女の脳は既に死んでいたので、彼女のお腹の中にいた胎児を取り出し、胎児の脳を彼女の脳に移植するんです。胎児は死んでいなかったので、上手くベラの身体に適合し、大人の身体の生まれたての子供が出来上がりました。
この内容、「攻殻機動隊」の草薙素子と同じですよね。草薙少佐は母親が事故で死に、生きていた胎児の脳を義体に移して成長させたんですよね。少佐は、子供の頃は子供の義体を用意されていたけど、このベラは赤ちゃんなのに大人の身体に入ってしまい、とても動きにくそうでした。そりゃそうですよ。手足の動かし方も、目の開き方も、トイレでのやり方も、何もかもが初めてなんですから。
ベラをゴッドウィンと助手の女性が世話をして、しばらくしてからはマックスが引き受けて、彼女を成長させていきます。身体が大きい分、色々な行動も覚えやすく、大人としての意識も芽生えていったように思います。自慰を覚えて、その後SEXを覚えた時は、まるでサルのように何度も何度もせがんでいました。
沢山の人と出会い成長していくベラ。良い事も悪い事もすべて吸収し、自由に行動していくベラに周りは振り回されますが、それによって、周りの意識も変わって行きます。ゴッドウィンは、ただ男に従う女性を作りたかったのではなく、自由な女性を作りたかったんだろうと思うんです。そして彼の思い通りベラはどんどん成長し、自由を手に入れ自分で歩き出すんです。
この時代に、女性が医学・科学・化学を勉強し、ゴッドウィンの後を継ぐなんて普通なら考えないと思うけど、彼女は自分が見てきた世界で、男に左右されず強く自立する女性を見て、従うのではなく、自分で考えて行動することを覚えたのだと思います。
胎児の脳だから吸収は速かったんでしょう。それにゴッドウィンが何か特別な教育法も施したのかもしれません。よちよち歩きの時点から、歩いて食事をして言葉を話し、人に対しての愛を感じ始めるまで、普通の人間なら何年もかかるのに、ベラはあっという間に覚えたようでしたから。個々の特性もあると思うけど、ベラの元の身体の女性も、その胎児も、優秀な遺伝子を持っていたんでしょう。
もちろんまだまだ子供なので、純粋なままの大人なんです。沢山のことを学び、頭は良くなっているけど、嘘をついたり、人を騙すことを学んでいません。たまたまですが、よい人たちと出会ったからだと思います。でも純粋であればあるほど、現実社会で生きている人間にとっては天使となるか悪魔となるか、騙せないし買収も出来ないので、難しい存在になるのでしょう。
ベラの周りにいる人々は、彼女の成長を見ながら何も出来ない哀れな人々でした。手に入れたと思ったら、彼女は成長して先に行ってしまう。誰も手に入れられず、誰もが彼女のモノになってしまう。そんな気がしました。
私は、この映画、超!超!超!お薦めしたいと思います。本当に面白かったです。どこまでもベラが自由で、純粋な心で生きていく姿にうらやましさを覚えました。あんな風に生きられたら、どんなに幸せなんだろう。周りの目を気にせず、自分が思ったことを口にして、自分から行動していく。これこそ人間だとでも言うように。素敵でした。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「哀れなるものたち」