「千夜、一夜」
の試写会に行ってきました。
Fan's Voice独占試写会に参加させていただきました。(@fansvoicejp)
ストーリーは、
北の離島にある美しい港町。登美子は30年前に突然姿を消した夫の帰りを待ち続けている。そんな登美子の前に、2年前に失踪した夫・洋司を捜す奈美が現れる。奈美は自分の中で折り合いをつけて前に進むため、洋司がいなくなった理由を求めていた。ある日、登美子は街中で偶然にも洋司の姿を見かける。
というお話です。
北の離島の美しい港町。登美⼦の夫・諭が突然姿を消してから30年の時が経った。彼はなぜいなくなったのか。⽣きているのかどうか、それすらわからない。何の手掛かりも無いのだった。
漁師の春男は、幼いころから登美子に想いを寄せ続け、何度も何度も、登美子にプロポーズをするも、彼⼥は愛する⼈とのささやかな思い出を抱きしめながら、その帰りをずっと待っていて、春男の願いを聞く気は無い。
そんな登美⼦のもとを、2年前に失踪した夫を探す奈美が訪ねてくる。「理由が欲しいんです。彼がいなくなった理由。自分の中で何か決着がつけられればって。」彼女は前に進むために、夫が「いなくなった理由」を探していた。
奈美が登美子に問いかける。
「悲しくないですか?待ってるのって」
「帰ってこない理由なんかないと思ってたけど、帰ってくる理由もないのかもしれない」と登美子。しばらくして、看護師である奈美は、同じ職場で新しい恋人ができたため、夫・洋司と離婚したいという。前に進むことを決めたようだった。
ある⽇、登美子は島から内地へと用事で出かけると、街中で偶然、失踪した洋司を⾒かける。まさかと思いながらも声をかけると、振り向いたのだ。驚いた登美子は洋司を捕まえ、まるで自分が諭に問いかけるように、何故失踪をしたのか、何処にいたのかを聞いて行く。そして、自分と一緒に奈美の所に帰るようにと話す。後は、映画を観てくださいね。
とても考えさせられる映画でした。夫が若い頃に失踪してしまい、既に30年経っているという登美子。何故、登美子は30年もの間、夫一筋で、そこから前に進むのを止めてしまったのか。待たされている登美子の気持ちは、何を望んでいるのかということが、とても気になりました。
ま、一般的に言えば、そりゃ、夫が帰って来てくれる事を望んでいるんだろうと言うのでしょうが、最後まで観ていて、私は、登美子は夫が帰ってくる事なんて望んでいないんじゃないかと思いました。待っているんだから、帰ってきて欲しいんだろうと思うだろうけど、彼女の気持ちに同化して考えてみると、本当は、若い頃の自分と夫、そして彼を待っている自分というものが、彼女の中で一番なんです。現在や未来ではなく、過去に生きている。若い頃のしあわせだった生活を想像しているのがしあわせ。今、愛する夫を待つ自分がしあわせなんだと思いました。
別に、ナルシストだからなんていうつもりはありません。そういう感覚ではなく、過去の自分を振り返っている自分がしあわせなんです。年を取って、一人になっているけど、自分の隣には昔、諭がいたし、今だって帰ってくるかもしれないという想像が、彼女を生かしているんだろうと思いました。だから、もし、諭が帰ってきたとしても、嬉しくないし、生活が上手く行くとは思いません。だって、30年ものブランクがあるのだから、登美子が思っている若い頃の諭とは、全く違っているでしょ。容姿だって、考え方だって、まるで別人ですよ。だから、登美子は、今、帰って来てくれる事なんて、望んでいないんです。
そんな登美子とは対照的に描かれるのが奈美です。彼女は、とても素直で現実的な女性です。夫が2年前に失踪し、探しても見つからない。失踪した理由も解らないし、何処にいるのかもわからなくて、もしかしたら北朝鮮に拉致されたのではないかとまで、考えてしまうんです。そんな彼女の相談役になったのが登美子で、お互いの考え方が違うことを認識します。
奈美は、いつまでも夫を待つことは出来ないと考えていて、自分の人生を歩み始めようかと考えているようでした。そりゃ、そうですよ。まだ30代前半で、子供も産みたいし、家族が欲しいと考えているんです。突然にいなくなって、何の連絡もしてこない夫の為に、自分の人生を台無しにするなんて、おかしいですよ。
だけど、登美子は30年も待っているんです。自分の人生を無くしても、諭を待っている。それは、先に進んでいないという事でしょ。若かったころの自分と諭が好きなんです。そこから動きたくない。そのままで居たいという気持ちが強いから、待っていたというか、そこに停滞していただけなんだと思いました。
諭という一人の人間が失踪したことで、登美子は先に進まなくなり、登美子を好きな春男も進めなくなり、春男の母親も息子が心配で前に進めなくなってしまっている。酷いですよね。たった一人が居なくなっただけで、3人もの人が、その後、人生を狂わせてしまっている。これは、やっぱり間違っていると思いました。
誰か一人でも、肩を押して、前に進ませてくれればと思ったけど、死んだかもわからないのでは、踏ん切りがつきませんよね。遺体が出てくるとか、生きていて新しい人生を歩んでいるとか、何か無いと難しいのかもしれません。この失踪という行為は、死ぬよりも酷い行為だと思いました。
だけど、もちろん失踪する側にだって、何か理由があったはずだし、それを上手く言い表すことが出来ないから失踪という行動に出たのでしょ。人間って、本当に難しい。人それぞれ、考え方が違うから、どうしても伝えても伝えきれない事ってありますよね。話してくれればというけど、話しても伝わらない事って、本当に多いんです。言葉で伝わらない事って、どうやって伝えたら良いんでしょう。いつも考えてしまうけど、その手段って、無いんですよ。難しいですね。
凄く考えさせられて、唸る映画でした。自分が登美子の立場だったらどうするかしらと考えましたが、自分なら前に進むだろうな。突然に消えた人の事なんて、どーでもいいと思っちゃう。もし、失踪しようと思っている人がいるなら、必ず、離婚届に判を押しておいて行くべきだと思いました。それか、結婚する時に、離婚届にお互いに判を押して、どちらかが失踪したら、これで離婚しようと決めておくべきですね。あー、私も夫に話して、離婚届、用意しておこうかな。(笑)
この映画、私は、超!超!お薦めしたいと思います。これは、きっと、誰もが自分の身に起きる事かもしれません。だって、夫婦でなくても、突然に親がいなくなったり、子供がいなくなったり、本当に何があるか解りませんから。忘れられない気持ちもわかるし、忘れたい気持ちもわかる。何処までも答えが出ない問題なんです。そんな人々の気持ちを、鮮明に描いた、素晴らしい映画だと思いました。私は、公開されたら、また観に行こうと思っています。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
「千夜、一夜」