「あちらにいる鬼」
の完成披露試写会に行ってきました。公開は11月11日です。
アネモサイトさんで当たりました。
ストーリーは、
人気作家の長内みはるは戦後派を代表する作家・白木篤郎と講演旅行をきっかけに知り合い、男女の仲になる。一方、白木の妻・笙子は夫の奔放な女性関係を黙認することで平穏な夫婦生活を続けていた。しかしみはるにとって白木は体だけの関係にとどまらず、「書くこと」を通してつながることで、かけがえのない存在となっていく。
というお話です。
1966年、講演旅行をきっかけに出会った長内みはると白木篤郎は、それぞれに妻子やパートナーがありながら、お互いにシンパシーを感じ、男女の仲となる。
この時、みはるは、20歳で見合い結婚をした男性の教え子と不倫をし、4歳の子供を置いて家を飛び出し、いくつもの恋愛遍歴を重ねて、小説家として成功をしていた。一方、白木は左翼的思想に傾いてはいたが組織に入ることは無く、戦後文学の旗手として小説を書き、後進の育成の為に沢山の講演を引き受けていた。
白木は、もうすぐ第二子が誕生するという時にもみはるの元へ通い、妻には平気で見え透いた嘘をつく。しかし、自宅では幼い娘を可愛がり、妻・笙子の手料理を絶賛するのだった。みはるの前でも家族の事を隠そうとはせず、「爽子はきっと僕の事が無ければ、みはると良い友達になったと思う。」とまで言う始末。かと思えば、平気で飲み屋の女性や自分の受講生に手を出し、修羅場になることも。
そんな奔放で嘘つきな篤郎にのめり込むみはると、全てを承知しながらも心乱すことのない笙子。緊張をはらむ共犯とも連帯ともいうべき3人の関係性が生まれ、事態は停滞していくかに見えた。
すると、みはるが突然、篤郎に告げた。
「わたし、出家しようと思うの」。
篤郎との関係に疲れたみはるは、全てを捨てて仏門へ入る道を選んだのだった。そして・・・。後は、映画を観てくださいね。
いやぁ、この映画、凄いお話でした。瀬戸内寂聴さんの半生を、不倫相手の娘さんが描いているんです。どこがどうなったら、父親の不倫相手を許すことが出来るんだろうか。不思議な関係だと思いました。もう、そこらのゲスな不倫とかってレベルじゃないんでしょうね。あまりにも才能がある3人だったので、その心情を読んだり読まれたりで、戦うというよりも、共感に近くなっちゃったのかなと思いました。
それにしても、このみはるさんの人生は凄いと思います。だって、戦争の時代から令和まで生きてきたんでしょ。産まれたのが大正時代だそうで、古いしきたりに縛られた時代に生まれた人が、20歳で結婚、不倫をして子供を置いて家を出たのが25歳ごろって、凄い激しい性格だったんだろうな。その後、何人もの男性と付き合って、小説家としての地位も確立して、順風満帆だった頃の44歳で、井上(この映画では白木の元となっている人。)と出会います。
ちょっと、瀬戸内寂聴さんの本当の歴史を辿りましたが、映画の中でも、ほぼ同じように描かれていました。但し、この映画は、伝記映画ではないので、フィクションです。もちろん、取材はして、本人のお話は沢山聞いていたとは思いますが、一応、お話を元にしたフィクションですので、勘違いしないでください。ま、本当の事もあるとは思うんですけどね。
みはるは、既に凄い人生を歩んでいて、そんな時に白木と出会うんです。白木は、口が上手くて、女性なら誰にでも手を出す感じの人だったように思いました。結婚していようが、恋人がいようが、関係無いんですから。観ていると、美人でもなく、スタイルが良い訳でもないような女性もくっついていたので、本当に手あたり次第だったんじゃないかな。そんな人だったので、奥さんの爽子さんも本気じゃないことが解っていたんでしょうね。スタバに入るくらいの気持ちで、女性と寝ていたんじゃないかな。
だけど、みはるとだけは違いました。みはるには、奥さんや家族の事も話すし、文学の話や、小説の話も、対等に話せる相手だったのではないかと思います。同志という感じかしら。爽子も、文章を書く女性だったようで、白木のゴーストのような事もしていたようでした。なので、同じ文章を書く者同士で、みはると爽子には、どこか通じるものがあったのかもしれません。みはると爽子は、相手の存在を白木の中に感じながらも、知らない振りをして、ずっと過ごしていたのだと思います。
しばらくはそんな状態で過ごしてきていたのですが、みはるも年をとってきて、少し更年期という時期に差し掛かったところで、女として、白木や爽子と向き合うのが辛くなってきたのかなと思いました。それで、女としてではなく、全く別の次元から、男女の関係を見なおしてみようと思ったのかもしれない。だから、出家だったのかなと思いました。でも、出家しようなんて所に辿り着くのが、常人じゃないなって思いました。やっぱり凄い人だなぁ。
このみはるさん、人の夫と平気で不倫をして、他にも恋人を作ったりなどなど、とんでもない人生を歩んできたのですが、出家という出来事を経て、全ての煩悩を捨てて、新しい一歩を踏み出すことになりますが、それを聞いた時、白木はやはり悲しそうでした。やはり出家というのは、人として接することが出来なくなる、一度死んで、生まれ変わるという意識なのですかね。この衝撃は、彼にとってもショックだったのではないかと思います。
もちろん、死ぬわけではないので、お話は続きます。それぞれの人生、それぞれの考え方で、人生は進んで行き、みはるは、新しい作家としての人生を歩み始めたのだと思います。出家しても、白木と爽子との関係が途切れることはありません。それは、映画でも描かれているので、そちらを観てくださいね。
最後に一つ。少しネタバレになるかもしれませんが、出家する前に、白木とみはるが一緒にお風呂に入り、みはるの髪を白木が洗うんです。それが、何とも美しくて、悲しくて、永遠の別れを意味するようで、泣けました。「愛と哀しみの果て」という映画で、メリルストリープの髪をロバート・レッドフォードがアフリカの大草原の中で洗うのですが、それも素晴らしくて愛が詰まっている場面だったけど、それに匹敵するくらい、失くしていくモノを愛おしむ二人の関係が描かれていて、良かったです。
みはるを演じた寺島さん、やっぱりオーラが凄いんです。特に、出家する時の映像なんて、もう、本当に美しくて、女優さんって、まるでその役が憑依しているように変わるんだなと、改めて思いました。嫌な女の部分を出している時は、本当に嫌な女だなぁと思うんだけど、可愛い時はマジでかわいくて、人って怖いと思うほどでした。
爽子を演じた広末さんは、今回はあまり感情を表に出さない、ひっそりとした役だったので、その静かな美しさに惚れました。白木役の豊川さん、男の色気が凄いっす。もう、これはモテますよ。こんなフェロモンを振りまいている男性なんて、絶対に外に出しちゃいけません。接触禁止で、檻に入れておいてくれないと、女性がみんな付いて行ってしまいます。(笑) これは、好きになりますよ。(笑)
そんな3人の関係が、とても鮮やかに描かれていて、私は楽しめました。私は、超!超!お薦めしたいと思います。昭和の時代に、こんな風に、精一杯恋愛をして、燃やし尽くして、昇華した人達がいたということが羨ましいなと思いました。現代は、ドライになり過ぎていて、少し面白くないですよね。そんな事を思いながら、映画を観ました。もう一度、ゆっくりと3人の関係を中心に観てみたいなと思っているので、公開したら、また観に行こうかな。ぜひ、観に行ってみてください。
ぜひ、楽しんできてくださいね。
P.S : 瀬戸内寂聴さんのドキュメンタリー映画もありますので、そちらも観てみると良いと思います。私の感想はこちら ↓
「瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと」寂聴さんの生き方は最後まで真っ直ぐでした。 | ゆきがめのシネマ。劇場に映画を観に行こっ!! (ameblo.jp)
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