『源氏物語』第4帖「夕顔」~第7章~ | 【受験古文速読法】源氏物語イラスト訳

『源氏物語』第4帖「夕顔」~第7章~

夕顔⑦【夕顔の喪に服する光源氏】

これより以前の「夕顔」第6章はこちら

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 苦しき御心地にも、かの右近を召し寄せて、局など近くたまひて、さぶらはせたまふ。惟光、心地も騒ぎ惑へど、思ひのどめて、この人のたづきなしと思ひたるを、もてなし助けつつさぶらはす。

 君は、いささか隙ありて思さるる時は、召し出でて使ひなどすれば、ほどなく交じらひつきたり。服、いと黒くして、容貌などよからねど、かたはに見苦しからぬ若人なり。

「あやしう短かかりける御契りにひかされて、我も世にえあるまじじきなめり。年ごろの頼み失ひて、心細く思ふらむ慰めにも、もしながらへば、よろづに育まむとこそ思ひしか、ほどなくまたたち添ひぬべきが、口惜しくもあるべきかな」

と、忍びやかにのたまひて、弱げに泣きたまへば、言ふかひなきことをばおきて、「いみじく惜し」と思ひきこゆ。

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夕顔319-1】苦しき御心地にも

夕顔319-2

夕顔319-3

 

夕顔320-1】惟光、心地も騒ぎ惑へど

夕顔320-2

夕顔320-3

 

夕顔321-1】君はいささか

夕顔321-2

夕顔321-3

 

夕顔322-1】服いと黒くして

夕顔322-2

夕顔322-3

 

夕顔323-1】あやしう短かりける

夕顔323-2

夕顔323-3

 

夕顔324-1】ほどなくまた

夕顔324-2

夕顔324-3

 

夕顔325-1】弱げに泣きたまへば

夕顔325-2

夕顔325-3

 

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 殿のうちの人、足を空にて思ひ惑ふ。内裏より、御使、雨の脚よりもけにしげし。思し嘆きおはしますを聞きたまふに、いとかたじけなくて、せめて強く思しなる。大殿も経営したまひて、大臣、日々に渡りたまひつつ、さまざまのことをせさせたまふ、しるしにや、二十余日、いと重くわづらひたまひつれど、ことなる名残のこらず、おこたるさまに見えたまふ。

 穢らひ忌みたまひしも、一つに満ちぬる夜なれば、おぼつかながらせたまふ御心、わりなくて、内裏の御宿直所に参りたまひなどす。大殿、我が御車にて迎へたてまつりたまひて、御物忌なにやと、むつかしう慎ませたてまつりたまふ。我にもあらず、あらぬ世によみがへりたるやうに、しばしはおぼえたまふ。

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夕顔326-1】殿のうちの人

夕顔326-2

夕顔326-3

 

夕顔327-1】大殿も経営したまひて

夕顔327-2

夕顔327-3

 

夕顔328-1】二十余日

夕顔328-2

夕顔328-3

 

夕顔329-1】穢らひ忌み給ひしも

夕顔329-2

夕顔329-3

 

夕顔330-1】大殿、わが御車にて

夕顔330-2

夕顔330-3

 

夕顔331-1】我にもあらず

夕顔331-2

夕顔331-3

 

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 九月二十日のほどにぞ、おこたり果てたまひて、いといたく面痩せたまへれど、なかなか、いみじくなまめかしくて、ながめがちに、ねをのみ泣きたまふ。見たてまつりとがむる人もありて、「御物の怪なめり」など言ふもあり。

 右近を召し出でて、のどやかなる夕暮に、物語などしたまひて、

「なほ、いとなむあやしき。などてその人と知られじとは、隠いたまへりしぞ。まことに海人の子なりとも、さばかりに思ふを知らで、隔てたまひしかばなむ、つらかりし」とのたまへば、

「などてか、深く隠しきこえたまふことははべらむ。いつのほどにてかは、何ならぬ御名のりを聞こえたまはむ。初めより、あやしうおぼえぬさまなりし御ことなれば、『現ともおぼえずなむある』とのたまひて、『御名隠しも、さばかりにこそは』と聞こえたまひながら、『なほざりにこそ紛らはしたまふらめ』となむ、憂きことに思したりし」と聞こゆれば、

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夕顔332-1】九月二十日のほど

夕顔332-2

夕顔332-3

 

夕顔333-1】ながめがちに

夕顔333-2

夕顔333-3

 

夕顔334-1】右近を召し出でて

夕顔334-2

夕顔334-3

 

夕顔335-1】まことに海人の子

夕顔335-2

夕顔335-3

 

夕顔336-1】などてか

夕顔336-2

夕顔336-3

 

夕顔337-1】初めより

夕顔337-2

夕顔337-3

 

夕顔338-1】なほざりに

夕顔338-2

夕顔338-3

 

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「あいなかりける心比べどもかな。我は、しか隔つる心もなかりき。ただ、かやうに人に許されぬ振る舞ひをなむ、まだ慣らはぬことなる。内裏に諌めのたまはするをはじめ、つつむこと多かる身にて、はかなく人にたはぶれごとを言ふも、所狭う、取りなしうるさき身のありさまになむあるを、はかなかりし夕べより、あやしう心にかかりて、あながちに見たてまつりしも、かかるべき契りこそはものしたまひけめと思ふも、あはれになむ。またうち返し、つらうおぼゆる。かう長かるまじきにては、など、さしも心に染みて、あはれとおぼえたまひけむ。なほ詳しく語れ。今は、何ごとを隠すべきぞ。七日七日に仏描かせても、誰が為とか、心のうちにも思はむ」とのたまへば、

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夕顔339-1】あいなかりける

夕顔339-2

夕顔339-3

 

夕顔340-1】内裏に諫め

夕顔340-2

夕顔340-3

 

夕顔341-1】はかなかりし夕べ

夕顔341-2

夕顔341-3

 

夕顔342-1】またうち返し

夕顔342-2

夕顔342-3

 

夕顔343-1】なほ詳しく語れ

夕顔343-2

夕顔343-3

 

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「何か、隔てきこえさせはべらむ。自ら、忍び過ぐしたまひしことを、亡き御うしろに、口さがなくやは、と思うたまふばかりになむ。

親たちは、はや亡せたまひにき。三位中将となむ聞こえし。いとらうたきものに思ひきこえたまへりしかど、我が身のほどの心もとなさを思すめりしに、命さへ堪へたまはずなりにしのち、はかなきもののたよりにて、頭中将なむ、まだ少将にものしたまひし時、見初めたてまつらせたまひて、三年ばかりは、志あるさまに通ひたまひしを、去年の秋ごろ、かの右の大殿より、いと恐ろしきことの聞こえ参で来しに、物怖ぢをわりなくしたまひし御心に、せむかたなく思し怖ぢて、西の京に、御乳母住みはべる所になむ、はひ隠れたまへりし。それもいと見苦しきに、住みわびたまひて、山里に移ろひなむと思したりしを、今年よりは塞がりける方にはべりければ、違ふとて、あやしき所にものしたまひしを、見あらはされたてまつりぬることと、思し嘆くめりし。世の人に似ず、ものづつみをしたまひて人に物思ふ気色を見えむを、恥づかしきものにしたまひて、つれなくのみもてなして、御覧ぜられたてまつりたまふめりしか」

と、語り出づるに、「さればよ」と、思しあはせて、いよいよあはれまさりぬ。

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夕顔344-1】何か、隔てきこえ

夕顔344-2

夕顔344-3

 

夕顔345-1】親たちは

夕顔345-2

夕顔345-3

 

夕顔346-1】我が身のほどの

夕顔346-2

夕顔346-3

 

夕顔347-1】三年ばかりは

夕顔347-2

夕顔347-3

 

夕顔348-1】物怖ぢを

夕顔348-2

夕顔348-3

 

夕顔349-1】それもいと見苦しき

夕顔349-2

夕顔349-3

 

夕顔350-1】違ふとて

夕顔350-2

夕顔350-3

 

夕顔351-1】世の人に似ず

夕顔351-2

夕顔351-3

 

夕顔352-1】と語り出づるに

夕顔352-2

夕顔352-3

 

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「幼き人惑はしたりと、中将の愁へしは、さる人や」と問ひたまふ。

「しか。一昨年の春ぞ、ものしたまへりし。女にて、いとらうたげになむ」と語る。

「さて、いづこにぞ。人にさとは知らせで、我に得させよ。あとはかなく、いみじと思ふ御形見に、いとうれしかるべくなむ」とのたまふ。「かの中将にも伝ふべけれど、言ふかひなきかこと負ひなむ。とざまかうざまにつけて、育まむに咎あるまじきを。そのあらむ乳母などにも、ことざまに言ひなして、ものせよかし」など語らひたまふ。

「さらば、いとうれしくなむはべるべき。かの西の京にて生ひ出でたまはむは、心苦しくなむ。はかばかしく扱ふ人なしとて、かしこに」など聞こゆ。

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夕顔353-1】幼き人惑はしたり

夕顔353-2

夕顔353-3

 

夕顔354-1】さていづこにぞ

夕顔354-2

夕顔354-3

 

夕顔355-1】かの中将にも

夕顔355-2

夕顔355-3

 

夕顔356-1】そのあらむ乳母など

夕顔356-2

夕顔356-3

 

夕顔357-1】かの西の京にて

夕顔357-2

夕顔357-3

 

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 夕暮の静かなるに、空の気色いとあはれに、御前の前栽枯れ枯れに、虫の音も鳴きかれて、紅葉のやうやう色づくほど、絵に描きたるやうにおもしろきを見わたして、心よりほかにをかしき交じらひかなと、かの夕顔の宿りを思ひ出づるも恥づかし。竹の中に家鳩といふ鳥の、ふつつかに鳴くを聞きたまひて、かのありし院にこの鳥の鳴きしを、いと恐ろしと思ひたりしさまの、面影にらうたく思し出でらるれば、

「年はいくつにかものしたまひし。あやしく世の人に似ず、あえかに見えたまひしも、かく長かるまじくてなりけり」とのたまふ。

「十九にやなりたまひけむ。右近は、亡くなりにける御乳母の捨て置きてはべりければ、三位の君のらうたがりたまひて、かの御あたり去らず、生ほしたてたまひしを思ひたまへ出づれば、いかでか世にはべらむずらむ。いとしも人にと、悔しくなむ。ものはかなげにものしたまひし人の御心を、頼もしき人にて、年ごろならひはべりけること」と聞こゆ。

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夕顔358-1】夕暮れの静かなるに

夕顔358-2

夕顔358-3

 

夕顔359-1】紅葉のやうやう

夕顔359-2

夕顔359-3

 

夕顔360-1】竹の中に

夕顔360-2

夕顔360-3

 

夕顔361-1】年はいくつ

夕顔361-2

夕顔361-3

 

夕顔362-1】十九になり

夕顔362-2

夕顔362-3

 

夕顔363-1】かの御あたり

夕顔363-2

夕顔363-3

 

夕顔364-1】ものはかなげに

夕顔364-2

夕顔364-3

 

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「はかなびたるこそは、らうたけれ。かしこく人になびかぬ、いと心づきなきわざなり。自らはかばかしくすくよかならぬ心ならひに、女はただやはらかに、とりはづして人に欺かれぬべきが、さすがにものづつみし、見む人の心には従はむなむ、あはれにて、我が心のままにとり直して見むに、なつかしくおぼゆべき」などのたまへば、

「この方の御好みには、もて離れたまはざりけり、と思ひたまふるにも、口惜しくはべるわざかな」とて泣く。

 空のうち曇りて、風冷やかなるに、いといたく眺めたまひて、

 「見し人の煙を雲と眺むれば
  夕べの空もむつましきかな」

と、独りごちたまへど、えさし答へも聞こえず。かやうにて、おはせましかば、と思ふにも、胸塞がりておぼゆ。耳かしかましかりし砧の音を、思し出づるさへ恋しくて、「正に長き夜」とうち誦じて、臥したまへり。

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夕顔365-1】はかなびたるこそは

夕顔365-2

夕顔365-3

 

夕顔366-1】自らはかばかしく

夕顔366-2

夕顔366-3

 

夕顔367-1】我が心のままに

夕顔367-2

夕顔367-3】

 

夕顔368-1】この方の御好み

夕顔368-2

夕顔368-3

 

夕顔369-1】空のうち曇りて

夕顔369-2

夕顔369-3

 

夕顔370-1】見し人の煙

夕顔370-2

夕顔370-3

 

夕顔371-1】かやうにて

夕顔371-2

夕顔371-3

 

夕顔372-1】耳かしがまし

夕顔372-2

夕顔372-3

 

 

 

 

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登場人物一覧

 

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