『源氏物語』第4帖「夕顔」~第6章~
夕顔⑥【光源氏、二条院へ帰る】
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からうして、惟光朝臣参れり。夜中、暁といはず、御心に従へる者の、今宵しもさぶらはで、召しにさへおこたりつるを、憎しと思すものから、召し入れて、のたまひ出でむことのあへなきに、ふとも物言はれたまはず。右近、大夫のけはひ聞くに、初めよりのこと、うち思ひ出でられて泣くを、君もえ堪へたまはで、我一人さかしがり抱き持たまへりけるに、この人に息をのべたまひてぞ、悲しきことも思されける、とばかり、いといたく、えもとどめず泣きたまふ。
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【夕顔239-1】からうして
【夕顔239-2】
【夕顔239-3】
【夕顔240-1】召し入れて
【夕顔240-2】
【夕顔240-3】
【夕顔241-1】右近、大夫の
【夕顔241-2】
【夕顔241-3】
【夕顔242-1】我一人さかし
【夕顔242-2】
【夕顔242-3】
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ややためらひて、「ここに、いとあやしきことのあるを、あさましと言ふにもあまりてなむある。かかるとみの事には、誦経などをこそはすなれとて、その事どももせさせむ。願なども立てさせむとて、阿闍梨ものせよ、と言ひつるは」とのたまふに、
「昨日、山へまかり上りにけり。まづ、いとめづらかなることにもはべるかな。かねて、例ならず御心地ものせさせたまふことやはべりつらむ」
「さることもなかりつ」とて、泣きたまふさま、いとをかしげにらうたく、見たてまつる人もいと悲しくて、おのれもよよと泣きぬ。
さいへど、年うちねび、世の中のとあることと、しほじみぬる人こそ、もののをりふしは頼もしかりけれ、いづれもいづれも若きどちにて、言はむ方もなけれど、
「この院守などに聞かせむことは、いと便なかるべし。この人一人こそ睦しくもあらめ、おのづから物言ひ漏らしつべき眷属も立ちまじりたらむ。まづ、この院を出でおはしましね」と言ふ。
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【夕顔243-1】ややためらひて
【夕顔243-2】
【夕顔243-3】
【夕顔244-1】かかるとみの事
【夕顔244-2】
【夕顔244-3】
【夕顔245-1】昨日、山へ
【夕顔245-2】
【夕顔245-3】
【夕顔246-1】さることもなかりつ
【夕顔246-2】
【夕顔246-3】
【夕顔247-1】さいへど
【夕顔247-2】
【夕顔247-3】
【夕顔248-1】この院守の
【夕顔248-2】
【夕顔248-3】
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「さて、これより人少ななる所はいかでかあらむ」とのたまふ。
「げに、さぞはべらむ。かの故里は、女房などの、悲しびに堪へず、泣き惑ひはべらむに、隣しげく、とがむる里人多くはべらむに、おのづから聞こえはべらむを、山寺こそ、なほかやうのこと、おのづから行きまじり、物紛るることはべらめ」と、思ひまはして、「昔、見たまへし女房の、尼にてはべる東山の辺に、移したてまつらむ。惟光が父の朝臣の乳母にはべりし者の、みづはぐみて住みはべるなり。辺りは、人しげきやうにはべれど、いとかごかにはべり」
と聞こえて、明けはなるるほどの紛れに、御車寄す。
この人をえ抱きたまふまじければ、上蓆におしくくみて、惟光乗せたてまつる。いとささやかにて、疎ましげもなく、らうたげなり。したたかにしもえせねば、髪はこぼれ出でたるも、目くれ惑ひて、あさましう悲し、と思せば、なり果てむさまを見むと思せど、
「はや、御馬にて、二条院へおはしまさむ。人騒がしくなりはべらぬほどに」
とて、右近を添へて乗すれば、徒歩より、君に馬はたてまつりて、くくり引き上げなどして、かつは、いとあやしく、おぼえぬ送りなれど、御気色のいみじきを見たてまつれば、身を捨てて行くに、君は物もおぼえたまはず、我かのさまにて、おはし着きたり。
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【夕顔249-1】さてこれより
【夕顔249-2】
【夕顔249-3】
【夕顔250-1】隣しげく
【夕顔250-2】
【夕顔250-3】
【夕顔251-1】昔見たまへし
【夕顔251-2】
【夕顔251-3】
【夕顔252-1】この人を
【夕顔252-2】
【夕顔252-3】
【夕顔253-1】したたかに
【夕顔253-2】
【夕顔253-3】
【夕顔254-1】なり果てむ
【夕顔254-2】
【夕顔254-3】
【夕顔255-1】右近を添へて
【夕顔255-2】
【夕顔255-3】
【夕顔256-1】かつは
【夕顔256-2】
【夕顔256-3】
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人びと、「いづこより、おはしますにか。なやましげに見えさせたまふ」など言へど、御帳の内に入りたまひて、胸をおさへて思ふに、いといみじければ、「などて、乗り添ひて行かざりつらむ。生き返りたらむ時、いかなる心地せむ。見捨てて行きあかれにけりと、つらくや思はむ」と、心惑ひのなかにも、思ほすに、御胸せきあぐる心地したまふ。御頭も痛く、身も熱き心地して、いと苦しく、惑はれたまへば、「かくはかなくて、我もいたづらになりぬるなめり」と思す。
日高くなれど、起き上がりたまはねば、人びとあやしがりて、御粥などそそのかしきこゆれど、苦しくて、いと心細く思さるるに、内裏より御使あり。昨日、え尋ね出でたてまつらざりしより、おぼつかながらせたまふ。大殿の君達参りたまへど、頭中将ばかりを、「立ちながら、こなたに入りたまへ」とのたまひて、御簾の内ながらのたまふ。
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【夕顔257-1】人びと
【夕顔257-2】
【夕顔257-3】
【夕顔258-1】心惑ひの中にも
【夕顔258-2】
【夕顔258-3】
【夕顔259-1】心惑ひの中に
【夕顔259-2】
【夕顔259-3】
【夕顔260-1】日高くなれど
【夕顔260-2】
【夕顔260-3】
【夕顔261-1】苦しくて
【夕顔261-2】
【夕顔261-3】
【夕顔262-1】大殿の君
【夕顔262-2】
【夕顔262-3】
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「乳母にてはべる者の、この五月のころほひより、重くわづらひはべりしが、頭剃り忌むこと受けなどして、そのしるしにや、よみがへりたりしを、このごろ、またおこりて、弱くなむなりにたる、『今一度、とぶらひ見よ』と申したりしかば、いときなきよりなづさひし者の、今はのきざみに、つらしとや思はむ、と思うたまへてまかれりしに、その家なりける下人の、病しけるが、にはかに出であへで亡くなりにけるを、怖ぢ憚りて、日を暮らしてなむ取り出ではべりけるを、聞きつけはべりしかば、神事なるころ、いと不便なること、と思うたまへかしこまりて、え参らぬなり。この暁より、しはぶき病みにやはべらむ、頭いと痛くて苦しくはべれば、いと無礼にて聞こゆること」
などのたまふ。中将、
「さらば、さるよしをこそ奏しはべらめ。昨夜も、御遊びに、かしこく求めたてまつらせたまひて、御気色悪しくはべりき」と聞こえたまひて、立ち返り、「いかなる行き触れにかからせたまふぞや。述べやらせたまふことこそ、まことと思うたまへられね」
と言ふに、胸つぶれたまひて、
「かく、こまかにはあらで、ただ、おぼえぬ穢らひに触れたるよしを、奏したまへ。いとこそたいだいしくはべれ」
と、つれなくのたまへど、心のうちには、言ふかひなく悲しきことを思すに、御心地も悩ましければ、人に目も見合せたまはず。蔵人弁を召し寄せて、まめやかにかかるよしを奏せさせたまふ。大殿などにも、かかることありて、え参らぬ御消息など聞こえたまふ。
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【夕顔263-1】乳母にて
【夕顔263-2】
【夕顔263-3】
【夕顔264-1】このごろ
【夕顔264-2】
【夕顔264-3】
【夕顔265-1】その家なりける
【夕顔265-2】
【夕顔265-3】
【夕顔266-1】聞きつけ
【夕顔266-2】
【夕顔266-3】
【夕顔267-1】この暁より
【夕顔267-2】
【夕顔267-3】
【夕顔268-1】中将、さらば
【夕顔268-2】
【夕顔268-3】
【夕顔269-1】立ち返り
【夕顔269-2】
【夕顔269-3】
【夕顔270-1】胸つぶれたまひて
【夕顔270-2】
【夕顔270-3】
【夕顔271-1】心のうちには
【夕顔271-2】
【夕顔271-3】
【夕顔272-1】蔵人弁を召し寄せて
【夕顔272-2】
【夕顔272-3】
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日暮れて、惟光参れり。かかる穢らひありとのたまひて、参る人びとも、皆立ちながらまかづれば、人しげからず。召し寄せて、
「いかにぞ。今はと見果てつや」
とのたまふままに、袖を御顔に押しあてて泣きたまふ。惟光も泣く泣く、
「今は限りにこそはものしたまふめれ。長々と籠もりはべらむも便なきを、明日なむ、日よろしくはべれば、とかくの事、いと尊き老僧の、あひ知りてはべるに、言ひ語らひつけはべりぬる」と聞こゆ。
「添ひたりつる女はいかに」とのたまへば、
「それなむ、また、え生くまじくはべるめる。我も後れじと惑ひはべりて、今朝は谷に落ち入りぬとなむ見たまへつる。『かの故里人に告げやらむ』と申せど、『しばし、思ひしづめよ、と。ことのさま思ひめぐらして』となむ、こしらへおきはべりつる」
と、語りきこゆるままに、いといみじと思して、
「我も、いと心地悩ましく、いかなるべきにかとなむおぼゆる」とのたまふ。
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【夕顔273-1】日暮れて
【夕顔273-2】
【夕顔273-3】
【夕顔274-1】召し寄せて
【夕顔274-2】
【夕顔274-3】
【夕顔275-1】惟光も泣く泣く
【夕顔275-2】
【夕顔275-3】
【夕顔276-1】明日なむ
【夕顔276-2】
【夕顔276-3】
【夕顔277-1】添ひたりつる女
【夕顔277-2】
【夕顔277-3】
【夕顔278-1】かの故里人に
【夕顔278-2】
【夕顔278-3】
【夕顔279-1】いといみじと
【夕顔279-2】
【夕顔279-3】
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「何か、さらに思ほしものせさせたまふ。さるべきにこそ、よろづのことはべらめ。人にも漏らさじと思うたまふれば、惟光おり立ちて、よろづはものしはべる」など申す。
「さかし。さ皆思ひなせど、浮かびたる心のすさびに、人をいたづらになしつるかごと負ひぬべきが、いとからきなり。少将の命婦などにも聞かすな。尼君ましてかやうのことなど、諌めらるるを、心恥づかしくなむおぼゆべき」と、口かためたまふ。
「さらぬ法師ばらなどにも、皆、言ひなすさま異にはべる」
と聞こゆるにぞ、かかりたまへる。
ほの聞く女房など、「あやしく、何ごとならむ、穢らひのよしのたまひて、内裏にも参りたまはず、また、かくささめき嘆きたまふ」と、ほのぼのあやしがる。
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【夕顔280-1】何か、さらに
【夕顔280-2】
【夕顔280-3】
【夕顔281-1】さかし
【夕顔281-2】
【夕顔281-3】
【夕顔282-1】少将の命婦
【夕顔282-2】
【夕顔282-3】
【夕顔283-1】さらぬ法師
【夕顔283-2】
【夕顔283-3】
【夕顔284-1】ほの聞く女房
【夕顔284-2】
【夕顔284-3】
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「さらに事なくしなせ」と、そのほどの作法のたまへど、
「何か、ことことしくすべきにもはべらず」
とて立つが、いと悲しく思さるれば、
「便なしと思ふべけれど、今一度、かの亡骸を見ざらむが、いといぶせかるべきを、馬にてものせむ」
とのたまふを、いとたいだいしきこととは思へど、
「さ思されむは、いかがせむ。はや、おはしまして、夜更けぬ先に帰らせおはしませ」
と申せば、このごろの御やつれにまうけたまへる、狩の御装束着替へなどして出でたまふ。
御心地かきくらし、いみじく堪へがたければ、かくあやしき道に出で立ちても、危かりし物懲りに、いかにせむと思しわづらへど、なほ悲しさのやる方なく、「ただ今の骸を見では、またいつの世にかありし容貌をも見む」と、思し念じて、例の大夫、随身を具して出でたまふ。
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【夕顔285-1】さらに事なく
【夕顔285-2】
【夕顔285-3】
【夕顔286-1】便なしと
【夕顔286-2】
【夕顔286-3】
【夕顔287-1】いとたいだいしき
【夕顔287-2】
【夕顔287-3】
【夕顔288-1】このごろの御やつれ
【夕顔288-2】
【夕顔288-3】
【夕顔289-1】御心地かきくらし
【夕顔289-2】
【夕顔289-3】
【夕顔290-1】なほ悲しさの
【夕顔290-2】
【夕顔290-3】
【夕顔291-1】例の大夫
【夕顔291-2】
【夕顔291-3】
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道遠くおぼゆ。十七日の月さし出でて、河原のほど、御前駆の火もほのかなるに、鳥辺野の方など見やりたるほどなど、ものむつかしきも、何ともおぼえたまはず、かき乱る心地したまひて、おはし着きぬ。
辺りさへすごきに、板屋のかたはらに堂建てて行へる尼の住まひ、いとあはれなり。御燈明の影、ほのかに透きて見ゆ。その屋には、女一人泣く声のみして、外の方に、法師ばら二、三人物語しつつ、わざとの声立てぬ念仏ぞする。寺々の初夜も、みな行ひ果てて、いとしめやかなり。清水の方ぞ、光多く見え、人のけはひもしげかりける。この尼君の子なる大徳の声尊くて、経うち読みたるに、涙の残りなく思さる。
入りたまへれば、火取り背けて、右近は屏風隔てて臥したり。いかにわびしからむと、見たまふ。恐ろしきけもおぼえず、いとらうたげなるさまして、まだいささか変りたるところなし。手をとらへて、
「我に、今一度、声をだに聞かせたまへ。いかなる昔の契りにかありけむ、しばしのほどに、心を尽くしてあはれに思ほえしを、うち捨てて、惑はしたまふが、いみじきこと」
と、声も惜しまず、泣きたまふこと、限りなし。
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【夕顔292-1】道遠くおぼゆ
【夕顔292-2】
【夕顔292-3】
【夕顔293-1】鳥辺野の方
【夕顔293-2】
【夕顔293-3】
【夕顔294-1】辺りさへすごきに
【夕顔294-2】
【夕顔294-3】
【夕顔295-1】御燈明の影
【夕顔295-2】
【夕顔295-3】
【夕顔296-1】寺々の初夜も
【夕顔296-2】
【夕顔296-3】
【夕顔297-1】この尼の子
【夕顔297-2】
【夕顔297-3】
【夕顔298-1】入りたまへれば
【夕顔298-2】
【夕顔298-3】
【夕顔299-1】いかにわびしからむ
【夕顔299-2】
【夕顔299-3】
【夕顔300-1】手をとらへて
【夕顔300-2】
【夕顔300-3】
【夕顔301-1】しばしの
【夕顔301-2】
【夕顔301-3】
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大徳たちも、誰とは知らぬに、あやしと思ひて、皆、涙落としけり。
右近を、「いざ、二条へ」とのたまへど、
「年ごろ、幼くはべりしより、片時たち離れたてまつらず、馴れきこえつる人に、にはかに別れたてまつりて、いづこにか帰りはべらむ。いかになりたまひにきとか、人にも言ひはべらむ。悲しきことをばさるものにて、人に言ひ騒がれはべらむが、いみじきこと」と言ひて、泣き惑ひて、「煙にたぐひて、慕ひ参りなむ」と言ふ。
「道理なれど、さなむ世の中はある。別れと言ふもの、悲しからぬはなし。とあるもかかるも、同じ命の限りあるものになむある。思ひ慰めて、我を頼め」と、のたまひこしらへて、「かく言ふ我が身こそは、生きとまるまじき心地すれ」
とのたまふも、頼もしげなしや。
惟光、「夜は、明け方になりはべりぬらむ。はや帰らせたまひなむ」
と聞こゆれば、返りみのみせられて、胸もつと塞がりて出でたまふ。
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【夕顔302-1】大徳たちも
【夕顔302-2】
【夕顔302-3】
【夕顔303-1】右近を
【夕顔303-2】
【夕顔303-3】
【夕顔304-1】いかになり
【夕顔304-2】
【夕顔304-3】
【夕顔305-1】泣き惑ひて
【夕顔305-2】
【夕顔305-3】
【夕顔306-1】とあるもかかるも
【夕顔306-2】
【夕顔306-3】
【夕顔307-1】惟光、「夜は
【夕顔307-2】
【夕顔307-3】
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道いと露けきに、いとどしき朝霧に、いづこともなく惑ふ心地したまふ。ありしながらうち臥したりつるさま、うち交はしたまへりしが、我が御紅の御衣の着られたりつるなど、いかなりけむ契りにかと道すがら思さる。御馬にも、はかばかしく乗りたまふまじき御さまなれば、また、惟光添ひ助けておはしまさするに、堤のほどにて、御馬よりすべり下りて、いみじく御心地惑ひければ、
「かかる道の空にて、はふれぬべきにやあらむ。さらに、え行き着くまじき心地なむする」
とのたまふに、惟光心地惑ひて、「我がはかばかしくは、さのたまふとも、かかる道に率て出でたてまつるべきかは」と思ふに、いと心あわたたしければ、川の水に手を洗ひて、清水の観音を念じたてまつりても、すべなく思ひ惑ふ。
君も、しひて御心を起こして、心のうちに仏を念じたまひて、また、とかく助けられたまひてなむ、二条院へ帰りたまひける。
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【夕顔308-1】道いと露けきに
【夕顔308-2】
【夕顔308-3】
【夕顔309-1】ありしながら
【夕顔309-2】
【夕顔309-3】
【夕顔310-1】御馬にもはかばかしく
【夕顔310-2】
【夕顔310-3】
【夕顔311-1】いみじく御心地惑ひ
【夕顔311-2】
【夕顔311-3】
【夕顔312-1】惟光心地惑ひて
【夕顔312-2】
【夕顔312-3】
【夕顔313-1】いと心あわたたし
【夕顔313-2】
【夕顔313-3】
【夕顔314-1】君も、しひて
【夕顔314-2】
【夕顔314-3】
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あやしう夜深き御歩きを、人びと、「見苦しきわざかな。このごろ、例よりも静心なき御忍び歩きの、しきるなかにも、昨日の御気色の、いと悩ましう思したりしに。いかでかく、たどり歩きたまふらむ」と、嘆きあへり。
まことに、臥したまひぬるままに、いといたく苦しがりたまひて、二、三日になりぬるに、むげに弱るやうにしたまふ。内裏にも、聞こしめし、嘆くこと限りなし。御祈り、方々に隙なくののしる。祭、祓、修法など、言ひ尽くすべくもあらず。世にたぐひなくゆゆしき御ありさまなれば、世に長くおはしますまじきにやと、天の下の人の騷ぎなり。
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【夕顔315-1】あやしう夜深き
【夕顔315-2】
【夕顔315-3】
【夕顔316-1】いかでかく
【夕顔316-2】
【夕顔316-3】
【夕顔317-1】内裏にも
【夕顔317-2】
【夕顔317-3】
【夕顔318-1】世にたぐひなく
【夕顔318-2】
【夕顔318-3】
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◇登場人物一覧◇