カインの冒険日記 -155ページ目

カインの冒険日記

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13章  団長の策謀



「レディース、エンド、ジェントルメン!」

 オルフェアはサーカスの町。ナブナブ大サーカスの団長ナブレットが、珊瑚色のシルクハットと珊瑚色のタキシードに身を包み、ステージの上で両手を広げている。その広げた手を鮮やかに振り上げながら「エーンド、オルフェアのチルドレン!」と続けた。サーカスの会場がわっと沸いた。

 その会場の端に、どう見ても不釣り合いの凸凹のふたり組がいた。ワインレッドの体とワインレッドの長髪を持つオーガと、サフランローブに身を包むプクリポ。身長差は2倍ではきかない。オーガのほうがプクリポに話しかけた。

「新しい名前はザーンバルフって言うんだ。見てのとおり、オーガだ。」と、炎の目のザーンバルフが自分の体を示した。

「そうだったのですね。しかし、ワタクシが体を奪うような形になって申し訳ない。」と言うのは、炎の目ではないパルポス。

「エイドスのじいさんとはじめて会ったときに、パルポスというプクリポと似てるって言われたんだ。今思えば当然だな。中身が違えど、俺がパルポスだったんだからな。きっと、体と魂は離れても通ずるものがあるんだろうな。」

「ワタクシも不思議に思っておりました。パルポスのこの体が、妙に居心地がよいのです。でも、その正体は、エテーネの血だったのですね。あなたも時渡りの術者なのでしょう?」

「そう。俺にも術者の血が流れている。つまり、その体だな、パルポスの体だ。ソイル、だったか?ソイルの魂が、同じエテーネの血を持つパルポスの体にフィットしたというのも、頷ける話だ。」

「あなたは、本来なら自分の体に戻るべき魂だったのでしょう。しかし、ワタクシが先に入ってしまったために、玉突き方式で追い出されてしまった。そして、そのオーガに転生したのですね。」

「まあ、そういうことなんだろうな。そのせいかどうか、俺は記憶を失い、お前に会ったときにその記憶が戻った。記憶だけが体に残っていたのかもな。不思議なこともあるものだが、そもそも生き返し自体が不思議な話だ。なにが起こっても驚きはしないさ。」

「しかし、あなたは人間ではない。それなのに時渡りの血を引いている。」

「そう。だから、俺のエテーネの血は人間たちよりもずっと薄い。他の種族と交わった血だからな。だが、プクリポは、人間よりもずっと薄い血脈さえも継ぎ残すことができるんだ。ただ、別にエテーネの祖先がレンダーシアの外にも血を残そうとしたわけじゃない。本来あってはならないことだった。俺はあってはならない子の子孫ってわけだ。」

「もしかして、炎の目のパルポスの強い志は、その罪の意識から、なのですか?いえ、罪なんてものはそもそもない。もしあなたがそう思っているのなら、その必要などないとワタクシは申し上げる。」

「買いかぶらないでくれ。俺は別にそんなつもりでやってたんじゃない。とはいえ、記憶を取り戻すという俺の旅は、ひとまず終結だ。記憶が戻った今、もとの俺の目的、つまり今お前が為そうとしている目的が、俺の目的でもあるってことさ。」

「ということであれば、ワタクシたちは運命共同体。ともに参りましょう。」

「もちろんそのつもりだ。それから、俺たちには他にも仲間がいる。アディールっていう生き返しのウェディだ。」

「そのかたは今はどこに?」

「俺も今探してるところさ。魔瘴にやられたのは同じだが、俺は別に冥王に復讐する理由はない。しかし、俺はアディールに協力すると決めたんだ。」

「ワタクシもパルポス、つまりあなたに協力すると決めています。」

「アディールは魔瘴を追っている。俺たちは人々の心の闇を払おうとしている。いずれ交点がやってくる。いや、その前に、キーエンブレムを探していればぶち当たるかもしれん。」

「そうですね。しかし」プクリポのパルポスは、ナブレット団長のいるステージを指差した。「今日はプディンの勇姿を楽しみましょう。プディンはあなたに感謝していましたよ。」

「俺はプディンを助けられなかったんだ。プディンが感謝してるのはお前さ。」



 プディンは、オルフェアの親戚に引き取られた後、ナブレット団長の誘いでナブナブ大サーカスの一員となっていた。しかし、まだサーカス団の見習い程度のことしかできてはいない。団長のもとに来てから、まだ数日も経っていないのだから、無理もないことである。

 そのプディンが、今日は初舞台に立つことになっている。ザーンバルフもパルポスも、笑顔を取り戻したプディンの芸を楽しみにして、サーカス会場でその出番を待っていた。ザーンバルフがステージ袖に目をやると、少しだけ開いたカーテンからプディンの姿が見え隠れしている。どうやら、プディンは5つの玉を使ったジャグリングに挑戦しようとしているようだった。ザーンバルフがパルポスの肩を叩いて、プディンのほうをあごで差す。

「あぁあぁ、玉をひとつもキャッチできていないではないですか。3つぐらいからはじめればよさそうなものですがね。」ため息混じりのパルポスに「まあ、温かく見守ってやろうじゃないか。」とザーンバルフが言った。

 ナブナブ大サーカスは、今年が設立15周年だという。そして、今日がその設立記念日。ナブレット団長の計らいで、記念日は子供入場無料で、自由に公演を見ることができるようになっていた。オルフェアの子供たちは、こぞってサーカステントに集まった。ナブナブ大サーカスを見て育った大人たちも、自分の子供や町の子供たちに記念日の公演見物を勧め、そして自分たちも会場に足を運ぶ。今、オルフェアの子供たちはすべてサーカステントに集まり、大人たちの多くも同じく会場に参集していた。

 最初の演目は、ナブレット団長による人体消失マジック、と書かれていた。子供たちは目を輝かせ、大人たちも興味深々に、ステージ上の団長に視線を集中させている。十分に視線を感じてから、団長が口を開いた。

「本日は当サーカス団の15周年記念日。その記念として世紀の大奇術をご覧にいれましょう!」拍手喝采が収まるのを待ってから、団長はこう言った。「ただし、それにはちょっとお手伝いが必要です。オルフェアのちびっ子のみんな、ステージの上にあがってきてくれるかな?」

 それほど広くない会場は、子供たちの押し合いで混雑してしまう。僕が私がと、子供たちは競うようにステージを駆け上がった。

「みんなありがとう!」子供たちが集まると、団長はそう言い「それではみなさん、この会場の子供たちを消失させてご覧に入れます!」と両手を広げた。

 会場にまた喝采が響いた。ゴクリ、と唾を飲むような音が、ザーンバルフの隣りの席から聞こえた。黒いハットをかぶった口髭のプクリポ。団長の奇術によほど集中しているのだろう、ザーンバルフの視線を全く気付く様子もない。

「それではみっつ数えます。3・・・」

 団長が指を3本立てると、会場からざわつきが消えた。

「2・・・」

 団長の指が2本になった。静まりすぎて、観客たちの呼吸の音さえ聞こえてくる。

「1・・・ハイ!」

 パンッと団長が手を叩いたのと同時に、すべての照明が消えた。会場が一気にざわめく。しばらくの後、照明がもとに戻り、会場が明るくなると、団長の宣言どおり、子供たちがみんな消えていた。ステージの上には、団長だけが変わらないポーズで立っている。

「おー!」「なんでー!?」「いいぞー!」「団長ステキー!」

 会場はまたまた団長に喝采を浴びせた。団長が帽子をとって観客に頭を下げると「それで子供たちはどこに行ったの?」という当然の疑問が会場から沸き上がる。そのとき、団長のつり上がった目がギラリと光った。

「見てのとおりです。消えてしまいました。残念ながら子供たちはもう戻っては来ません。今日限りオルフェアの町から消え去るのです。」凍りついたような静寂の会場で団長はもう一度紳士のように一礼した。「では、これにて。ごきげんよう。」ドロンという音とともに、団長は煙のように消え去ってしまった。

 何かにつままれたように、あっけにとられたままの会場で、最初に声を上げたのは、ザーンバルフの隣りにいた黒いハットの男だった。

「これは、誘拐事件・・・」黒ハットの男はわなわなとふるえて小声で言う。「苦節30年、ワガハイことパクレ警部の優秀な頭脳を知らしめるビッグチャンス。」そして、今度は会場全体に聞こえるように叫んだ。「みなさん、私にお任せください!」

「みんな!違うんです!!」パクレ警部の声とは別の叫び声が聞こえた。

 すると今度はザーンバルフとパルポスが同時に叫ぶ。「プディン!」

「これは何かの間違いです。団長はいい人だよ。親戚に引き取られたボクを団員にしてくれたいい人なんだ。子供をさらうなんて・・・何かの間違いだよ。」

 プディンの言いたいことはわかるが、ザーンバルフの目から見ても、間違いだと思える要素はひとつもない。プディンの様子が痛々しくさえ見える。

「ワガハイの目は騙されんぞ。」パクレ警部はプディンに詰め寄り「悪漢ナブレットはどこへ行った!?吐け!」と、プディンの胸ぐらを掴み上げた。

 そのとき、どこへ行ったと言われるまでもなく、ドロンとナブレット団長が煙の中から再登場した。「うっかりしてたぜ。ひとり残してた。プディン、おめえも今じゃあオルフェアの子供。おめえを忘れちゃ意味ねえな。さあ来るんだ。」ナブレットはプディンの腕を握り、警部の手から引き剥がした。そして腕を掴んだまま「今度こそオルフェアの子供は全員さらった。さらばだ!」と言って、プディンとともにドロンと煙のように消えた。

 パクレ警部は足を踏み鳴らして悔しがった。「おのれナブレット!ワガハイの目の前で2度も姿をくらますとは。許さんぞ!おまえはワガハイが必ず逮捕する!」警部は走ってテントの外へと行ってしまった。

 ザーンバルフもパルポスも、気分はパクレ警部と同じだった。昨日今日来たばかりの町であるから、団長のこともオルフェアの子供たちのことも、それほどよくは知らない。しかしプディンは違う。プディンの笑顔のために命をかけたザーンバルフと、その志を継いでプディンに笑顔を取り戻したパルポス。団長は、パクレ警部のみならず、ふたりの見ている中で堂々と犯行を成し遂げたのだ。ザーンバルフは唇を噛み、パルポスは拳で自分の太ももを叩いた。

 プディンは助けなければならない。しかし、プディンは最後まで団長のことを信じていた。プディンの見る目が正しいのならば、団長の行動には意味があるはず。そう思いたいザーンバルフではあるが、子供たちを誘拐するのに一体どんな正しい理由があるのか。ザーンバルフにもパルポスにも、その理由を見つけることができなかった。




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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】


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