小説ドラクエ10-22章(6) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

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 ガラトアとベリアルの取っている陣形には隙がなかった。位置取りとしては、ベリアルがほんの少しガラトアの右前方に立っているだけのシンプルなものであったが、それを取り囲んでいるはずのアディールたちのどこからも、それを切り崩せそうな点が見当たらない。背後からでさえも。
「どうした?先の戦いで見極めたのではないのか?」ガラトアがやや挑発気味に言った。
 確かに、ガラトアの手は読めてはいる。しかし、ベリアルの戦い方がわからないことには手を出せない。だが、だからと言っていつまでも睨み合いを続けていても始まらない。
「バイシオン!」アディールの唱えたその呪文は、ベリアルとガラトアの頭上を越えて、対角線にいたドドルへと飛んだ。ドドルの位置はベルアルとガラトアの背後。そして最もガラトアに近い位置。
「当然そう来ると思ったぞ。」ガラトアに斬り込むのに最も適した位置にいるのがドドルであることは、ガラトアも承知のことである。しかし、ガラトアがドドルの攻撃に備えて振り向こうかとした瞬間に「今のはフェイクだ!」とアディールが一気に跳躍して詰め寄ろうとする。
「何!?」とわずかに反応が遅れたガラトアであったが、それでもメラガイアーの詠唱はアディールが踏み込むまでには十分間に合った。地獄の業火に自ら飛び込む形となったアディールがゴオォーと炎上する。「裏の裏とはよく考えたものだ。まさか正面から飛び込んで来るとは思いもよらなかったぞ。しかし、少しばかり遅かったな!」
 フハハと笑い声を上げるガラトアの声は、しかし次の瞬間にはまた驚きの声へと変わっていた。ガラトアの眼前で、アディールを取り巻く業火がシュウと消え失せたのだ。
「裏の裏は布石!」アディールは、もうガラトアの懐まで踏み込んでいた。「本命はこっちだ!」
「そ、それは!?」ガラトアの目はアディールの左手、紫に輝く盾にくぎ付けにされた。「魔法の盾か!?」
「僕にはメラガイアーの対策ができていた!終わりだ、ガラトアッ!!」アディールが王家のナイフで下から斬り上げた。
 ガキンッ!!と、金属音。
 アディールの目算とは違い、それで終わりにはならなかった。
「何!?」と、今度はアディールのほうが声を上げる。
 王家のナイフがガラトアに触れるよりも前に、ベリアルの三つ又の槍がガラトアの懐を守っていた。アディールの短剣の鍔がベリアルの槍の又にかかって、それ以上斬り込めない。
 キンっと、アディールがその槍を斬り払いながら後ろへと退いた。「くっ!そう簡単にはいかないか!」
「先の戦いの教訓が活かされていたということか。」とガラトア。「先日の、いや、先の歴史の、ヴェリナードの王子の鎧。確かに私はアレに敗れたのだからな。しかし、こちらも無防備で懐を開けたわけではない。いま私の懐と背中は、私が自分で守るよりも安全なのだ。」
 ガラトアの声に、グフフとベリアルが笑う。そして、笑いながらベリアルは三つ又の槍を握り直し、アディールに相対した。


 戦局はややこう着した状態となった。ガラトアの詠唱の速さに阻まれて、アディールたちは全く呪文での攻撃ができない。パルポスのメラミやヒャダルコは、ことごとくガラトアの唱えるマホステやマホカンタによって防がれている。逆に、アディールやドドルがガラトアに踏み込もうとすると、今度はベリアルがそこに割って入り、アディールたちはガラトアに近付けないでいる。ならば裏からキサラギが打撃を加えたいところではあったが、冥王に裂かれたまどろみの棍はもう使えない。ベリアルのイボのある堅い皮膚の前に、アディールやドドルは、まだ致命打を与えられていない。ベリアルに呪文をかけようとしてもガラトアがそれを守り、ガラトアに刃を突き付けようにもベリアルがその前に立ちはだかる。完全なコンビネーションに、アディールたちの打つ手は徐々になくなっていく。

 一方で、ガラトアたちも戦局を決定するような攻撃ができたわけではない。アディールが魔法の盾を持っているとわかった以上、ガラトアはアディールに呪文を使うわけにもいかなくなった。残り3人の誰かを狙おうとすると、今度はパルポスのマホカンタで跳ね返される。はじめはガラトアの詠唱速度に後れを取っていたパルポスのマホカンタも、狙いを3人に絞られたことと、ガラトアの詠唱の癖を盗んだことで、ガラトアの攻撃に先んじて詠唱することができるようになっていた。それならば、とベリアルが突出しようとするも、キサラギのスクルトによって身を守られたアディールたちに、パルポスのヘナトスによって切れ味を奪われたベリアルの槍が通じることもなくなった。さらには、突出してガラトアと離れすぎることを気にしているようでもある。皮膚の堅いベリアルとは違い、薄いローブの下のガラトアの体は、アディールの短剣にはとても耐えられそうにない。
「なんとかベリアルの動きを止めることができれば・・・」ベリアルの動きを止めることができれば、ガラトアを一撃のもとに伏すことができる。魔法の盾を持つアディールには、ガラトアの反撃も通用しないのだから。
「もし魔法陣や結界などで動きを止めようとしているのなら無駄だぞ?」とガラトア。まるでアディールの考えを読むようなタイミングだった。そう、ヴェリナードの戦いで、それはすでにわかっている。ガラトアにクモノやジバリアは通用しない。術者にしか見えないはずの魔法陣が、ガラトアの目には見えているのかもしれない。



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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】




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