グレンに戻ったエルジュは、シオドーアのもとへと駆け込んだ。
「この城はオーガのものだ!」
しかし詰め寄るエルジュをシオドーアは振り払う。
「それがどうした?」
「今すぐ返還しろ!でなければ彼らはここへ攻めてくる!」
「フン。」シオドーアは鼻で笑う。「それを伝えに戻ったのか。ご苦労なことだな。そのときはそれを振り払うまでのこと。」
「バカな!今は戦っているときではない!」
「戦おうとしているのはオーガたちの方だろう?戦いを止めたくば、オーガたちを説得するのだな。」
「しかし、その戦いの原因を作ったのは人間だ!レイダメテスが迫ってるんだ!すぐに城を開放するんだ!」
「お前が私に説教か?フン。ベルンハルトのようなことを言う。確かに私は武力でこの城を奪った。水を独占し、人間以外の多くの者を死に至らしめたのも私だ。しかし、お前たちが私を責めれるのか?何もせずにいれば、共倒れになることはわかっていたのだ。私は、人間の指導者として、人間を守ることを優先したまでだ。」
「ここは人間の城じゃないんだ!オーガたちに返すんだ!」エルジュは叫び続ける。
「ものの頼み方も知らんのだな。要求があるのなら、まず頭を下げよ。」
ぐ、とエルジュの声が詰まった。
「どうした?返せ返せの一点張りで、頭を下げることもできんのか?」
「そ・・・そんなことするもんか・・・」エルジュは悔しさにぶるぶると震えながら、両の拳をぐっと握る。
「もうよいのか?用がないなら下がれ。」
シオドーアにそう言われ、歯を食いしばるエルジュ。
そんなとき。
「シオドーア様!レイダメテスの下降が止まりません!」という報が入った。「光の防壁も、もう限界です!」
それを聞いてエルジュが吐き捨てるように「見たことか!だから言ったんだ!光の防壁なんて何の役にも立たないと!」と言って、そのまま走って部屋を出て、自室へと戻っていった。
そんなエルジュを追いながら、アディールは言う。「今の、僕たちの時代のグレンがオーガの城になったのは、戦争で人間に勝利して奪い返したものなのかな。」
「そうなのかもしれませんねぇ。」長身のパルポスが苦しげに頷く。
「生前のベルンハルトの言動に、だんだん賛同する気持ちが出てきましたわ。」とキサラギ。「オーガや、他の種族を裏切った人間が、今度は自分も裏切った。そう思うと・・・。」
「さっきの口ぶりからすると、ベルンハルトもシオドーアのやり方に反対だったんだ。」とアディール。「グレンを開放することを提案していたんだ、きっと。」
「他種族を追放するシオドーアのやり方に反発しながらも、他種族と人間を守るためにベルンハルトはレイダメテスに立ち向かったのですねぇ。」
「エルジュはあんな奴だけど、エルジュの悔しい気持ちはおいらにもわかるぞ。」
「それに、500年後の世界で目覚めて、過去を知ってしまったベルンハルトの気持ちも、ですわ。」
アディールは、ラッカランでのベルンハルトの言葉を思い出していた。「破邪舟の術が途絶えた無念さが、お前などにわかろうはずがないんだ!」と言ったベルンハルトの心情が、今なら理解できる。ベルンハルトが、もう人間たちに協力したくないという気持ちが、痛いほどによくわかる。
「みんな。」アディールが3人に向かって言った。「時渡りの一族と破邪舟の一族との運命の線路は、いま交差しているのかもしれない。」
「不思議なものですねぇ。」
「運命を変えるために来たはずの私たちが、今また運命の繋がりを感じているのですものね。」
「おいら、難しいことはわかんないけど、エルジュをひとりで行かせちゃダメだぞ!」
アディールたちがエルジュの部屋に着くと、それを待っていたようにエルジュが言った。
「シオドーアを説得するなんてできない!だから、僕たちだけでレイダメテスに乗り込む!」
「だけど、最後の継承の儀がまだ終わってないじゃないか。」とアディール。
「しょうがない。シオドーアを説得できない以上、ガミルゴを説得することもできないんだ。だから、ガミルゴの儀式は諦めて、今のチカラのまま飛ぶ。もう時間がないんだ。」
「でも、そんなことをしたら、あなただって命が危ないのですわよ?」
「そんなことわかってる!だけど・・・だけど、誰かがやらなくちゃいけないんだ!父さんが・・・偉大な破邪舟師ベルンハルトがそうしたように、僕もそうしなければならないんだ!それに、破邪舟の術は、もう僕にしか使えない。たとえ完全じゃなくても、僕にしかこの世界を守ることができないんだ!」エルジュは突然頭を下げた。「お願いだ!チカラを貸してくれ!」それに驚くアディールに構うことなくエルジュは続ける。「僕は弱い。父さんみたいに、ひとりでは戦えない。だから・・・だからチカラを貸してほしい!頼む!」
今までのエルジュからは考えられないことだった。頭を下げて助けを求めることは、エルジュが最もやりたくないことであるはず。
「・・・わかった。行こう、エルジュ。」アディールは頷いた。
「アディール!危険ですわ!」キサラギはアディールを引き止めようとする。
「今のエルジュのチカラでは、舟はレイダメテスには届きませんよ!」とパルポスも。
しかしアディールは首を横に振って言った。
「今、このときがまさに運命の分岐点だという気がするんだ。きっと、みんな、安全な決断を続けて行くんだと思う。そうすべきなんだと思う。でも、その決断の積み重なりの結果が、僕たちのいた世界なんだ。同じように安全な決断しかしなければ、僕たちの新しい運命も、また前の運命と同じ方向に分岐してしまうんじゃないかと思うんだ。」
「そう・・・でしたわね・・・」
「ワタクシたちは、未来を変えようとやって来たのでしたねぇ。忘れておりました。」
「おいらはアディールについていくぞ!」
「みんな、行こう。僕たちのチカラで、運命を変えよう。運命は決められてなんかいない。運命は分岐するのだと、僕たちが証明しよう!」
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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