グレンに戻ったアディールたちは、その井戸から水を汲み出す。しかし、グレン自体も水が豊富だとは言えない状況であるようで、井戸の前にもひとり兵士を置いていた。
「シオドーア様のおかげで、我々人間たちはこの井戸の水で生活できているのだ。」と兵士は言った。「私は他種族が水を汲みに来ないかをここで見張っているのだ。」
「人間だけが・・・水を独占していますの?」キサラギの言葉にはトゲがある。しかし、兵士は、そもそもそれを不思議だとも思っていないようで「そう。これもシオドーア様のおかげだ。もちろん、そなたたちも人間。この井戸の水を自由に使ってもらって結構だ。」と井戸を示す。「必要であれば、このツボで水を運ぶとよい。」とツボも指し示した。
4つのツボで、アディールたち4人は水をエルフたちの集落まで運ぶ。アディールのツボよりも、キサラギやドドルの水の量は少ない。今までならば、それよりもさらに軽いものしか運べなかったパルポスが、今ではアディールよりもたくさんの水を運べるという違和感にも、だんだんと慣れてきていた。
「あの兵士、人間だけが水を独占するのが当然だと思っていたみたいだね。」ツボを運びながらアディールが言う。
「そうですわね。決して不親切な人ではなかったのですけれども。」とキサラギ。
「僕たちも・・・ウェディやエルフでの経験がなかったならば、同じような考えになっていたのかな・・・。」アディールの言葉が力なく響く。
「考える機会が与えられただけでも、生き返しを受けてよかったと思うべきでしょうかしらね。」
それから4人は黙ったまま歩き、そして集落に水が届いた。
「このツボはもしや!?」半ば諦めかけていたであろうヤクルがアディールたちに駆け寄った。
「はい。グレンの水です。使ってください。」
そう言うアディールにヤクルは感激した様子だった。
「ありがとう、親切な人間のかた。この水で、集落のどれだけの人が救われるのか。ありがとう。」ヤクルはアディールに頭を下げた。そして下げた頭を戻しながら問う。「でも、なぜあなた方はこのような親切なことをしてくれるのですか?」
アディールやキサラギには、もちろんウェディやエルフに対する愛着が湧いている。おそらく、エルジュのことがなくても、この状況を目の当たりにしたならば、同じことをしていただろうとも思う。しかし、やはりそれを説明することもできない。生き返しを説明することができないのだから。
「僕たちは・・・エルジュの破邪舟の術の継承を手伝っているんです。」とアディールは言った。
ヤクルはアディールの目を見つめた。しばらく見つめ、そして頷く。「わかりました。継承の儀を行いましょう。」そう言って、ヤクルはエルジュの待つ宿へと足を向けた。
「やっと気が変わったか。」とエルジュは言う。「僕は急いでるんだ。こんな村だけじゃなく、世界を救おうとしてるんだ。」
「・・・エルジュ。」ヤクルは取り乱すことなく静かに、そして冷たい声で言った。「今から継承の儀を行いますが、それはあなたのためではありません。この方たちのためです。」と、アディールたちのほうを見た。
儀式が終わると、エルジュは言う。「これでひとつ。・・・あとふたつか。それで?次の術師はどこにいるんだ?」
「・・・まずは南のゲルト海峡にいるプクリポの術師を訪ねるとよいでしょう。」ヤクルはそう答えた。
エルジュの態度や言動に不満を抱きながらも、アディールたちに協力したいというヤクルの気持ち。それが伝わり、アディールは心苦しく思う。ありがとう、とも、ごめん、とも言えず、アディールは集落を出た。先に走って出て行ったエルジュを追わなければならない。
【続きを読む】
【前に戻る】
【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】

