小説ドラクエ10－18章(1)

18章　　恵みの歌

　アディールとドドルは、装備を新調した。旅芸人の衣装を纏ったアディールが「どう？旅芸人っぽいかな？」とくるりと1周回ると「おいらの盗賊のチュニックも盗賊っぽいだろ？」とドドルがその裾を開いて見せた。アディールの手には、長らく使った愛剣の代わりにソードブレイカ―が握られ、盾もぴかぴかのホワイトバックラーへと変わっていた。
「なんだかはじめて冒険に出るような風だね。」
　まだ着こなせていない装備に違和感を覚えながらぎこちなく歩くアディールと、その衣装がすぐに馴染んで、すでに熟練の盗賊のように俊敏に歩くドドル。
「おいらのはがねの鞭は軽くて使いやすそうだぞ。」と、鞭を軽く振って手応えを確かめながらドドルは言った。

　ドルワームから列車に乗ったアディールとドドルは、海を越えてエルトナ大陸アズラン駅で下車した。

「ザーンバルフたちに加勢に行かないと。カミハルムイはどっちだろう？」

　アディールがそう言ったちょうどそのとき。
　アディールたちが乗っていたのとは逆向きの列車が止まった。ちらりと列車の中に目をやると、窓際の座席に座っているキサラギの姿が見える。
　アディールは窓に寄って「おーい！」と手を振ると、中にいたキサラギが「あっ！」っと気付いた。ひょこりとパルポスも顔を出す。

　発車ギリギリにキサラギとパルポスが列車から飛び降りると、列車はそのままドワチャッカ方面へと走って行った。

「アディール！」と、キサラギ。「ベルンハルトは強いってピュージュが言ってましたの。無事でしたのね。よかったですわ。」

「うん。ベルンハルトは強かった。だけど、僕たちが倒したわけじゃないんだ。僕たちを守って死んだんだ。」

「そうだったのですか。」と言うのはパルポス。「ベルンハルトはワタクシたちに敵対しているわけではなかった。それは、最後までそうだったのですね。」

「うん。そっちは？ピュージュを止めることはできたのかい？」

「ピュージュはワタクシたちが倒しました。ですが、ザーンバルフさんが。」

「そうだ！ザーンバルフがいないね。どうしたんだい？」

「ザーンバルフは、ピュージュとの戦いで負傷して・・・今はカミハルムイの宿で安静にしていますわ。」

「えっ！？ザーンバルフが！？それで容態は！？」アディールの表情が一気に険しくなった。

「命に別状はありませんが、もしかしたらもう・・・」下を向くパルポスの声は、最後のほうはもう聞こえない。

「そ、そんな！？もう戦えないなんて、そんなことがあるのかい！？」アディールが声を荒げた。

「いえ・・・そうとは申し上げませんが・・・」またパルポスの言葉が途切れる。

「でも私たちはザーンバルフが戻って来ると信じていますの。」キサラギはまどろみの棍をアディールの前に差し出して見せた。「ザーンバルフが戻るまで、私がこれで戦いますわ。」

「そう・・・か。うん。わかった。僕も信じるよ、ザーンバルフが戻って来ることを。」

「アディール、おいらたちもカミハルムイに行ったほうがいいんじゃないか？」とドドルが心配そうに言う。

「いいえ、ドドル。」と言うのはパルポス。「ザーンバルフさんはヴェリナードのことを気にしています。」

「ヴェリナード？ヴェリナードがどうしたの？」と、今度はアディール。

「はい。ピュージュが戦いの最中に悪魔神官と交信をしていたのですが、どうやらヴェリナードを攻めているようだったのです。ですので、ワタクシたちもそれを追うべきだと。ザーンバルフさんはそう言いたかったみたいなのです。」

「そうか。・・・わかった。」アディールはひとつ頷き「僕たちはヴェリナードへ行こう。」と言い、4人は再び列車へと乗り込んだ。

カインの冒険日記

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