「や・・・やった!」
仰向けに倒れたバルザックにもう息はなく、だらしなく長い舌は、しおれた草花のように力なく地面まで垂れ下がっている。
「やった・・・けど、でも・・・」
勝利したリリーネの顔は、しかし喜びの表情ではない。
「私・・・ここに宝があるんだと思って・・・。修行して強くなって、自分でここまで辿り着いたんだって。ジャネットさんやミミナさんやモモナさんのおかげでここまで来れたんだって思ってた・・・。でも・・・」
うつむくリリーネに「それを気にする必要はない。」と男勝りのジャネット。「意図的に育てられたのだとしても、その錬金の主を倒したのだ。それはつまり、これを計画したバルザックの意図をも上回っていたということだ。」
「そう・・・かな?でも、宝持って戻るって、イッショウさんに言っちゃったし・・・。」
「いいえ、リリーネさん。」と、今度はモモナ。「まだ終わりじゃないですよ。」とバルザックの倒れる奥を指差した。暗くて気付かなかったが、そこにはナルビアの町とは反対の方向へと続く道が見える。
「そっか!まだ奥があったんだね!うん。行こう!」
リリーネは走り出した。この奥へと進まなければならない。この先へと行かなければならない。そうしないと、今まで自分たちがやってきたことは、外界を知らない井戸の中のカエルとも同じなのだから。
そうなれば、イッショウもリリオルもカエル。このバルザックの用意した巨大な錬金釜から出なければ、リリーネもイッショウもリリオルも、そして旅の仲間たちも、みんながカエルだということになってしまう。自分のことをカエルだと気付かないカエル。それだけは、リリーネには我慢ができない。イッショウもリリオルも仲間たちも、そしてもちろん自分も、カエルなんかじゃない。その思いがリリーネの足を速めた。
早く・・・早くこの井戸から、この錬金釜から出ないと!私たちがカエルにならたいために!素材にならないために!自分の意思でここまで来たんだと胸を張るために!
リリーネは走り出した。この奥へと進まなければならない。この先へと行かなければならない。そうしないと、今まで自分たちがやってきたことは、外界を知らない井戸の中のカエルとも同じなのだから。
そうなれば、イッショウもリリオルもカエル。このバルザックの用意した巨大な錬金釜から出なければ、リリーネもイッショウもリリオルも、そして旅の仲間たちも、みんながカエルだということになってしまう。自分のことをカエルだと気付かないカエル。それだけは、リリーネには我慢ができない。イッショウもリリオルも仲間たちも、そしてもちろん自分も、カエルなんかじゃない。その思いがリリーネの足を速めた。
早く・・・早くこの井戸から、この錬金釜から出ないと!私たちがカエルにならたいために!素材にならないために!自分の意思でここまで来たんだと胸を張るために!
金の祠から続く細く曲がりくねった道を進むと、そこには唖然とする風景が広がっていた。
「・・・ここが・・・錬金釜の外・・・?・・・そんな・・・そんな・・・」
リリーネはその風景に絶句した。
リリーネは、その風景を知っていた。
そこは、リリーネが探し求めていた場所だった。
そこは、リリーネが探し求めていた場所だった。
名もなき草原。エテーネの村の、ほんのちょっと北にある草原だった。
ついさっき、テンスの花を探しに行くときに通った場所。ついさっき、轟く雷鳴を聞いて急いでエテーネの村に駆け戻った場所。それがここ、名もなき草原。
「こんな・・・こんな近くにあったんだ・・・。」
リリーネはがくんと膝をつき、両手をついた。安心とも喜びともつかない涙がポロリとこぼれる。
「でも・・・それじゃエテーネの村は!?お兄ちゃんは!?アバ様は!?」
リリーネはばっと立ち上がり、急に走り出した。後ろに続くジャネットとミミナとモモナを振り切ってしまうほどに。
「冥王が・・・ネルゲルが来てから何日経っちゃったんだろ!?私・・・ナルビアでのんびり冒険してたけど、その間にエテーネはどうなっちゃったんだろ!?」
リリーネの速度はどんどん上がっていく。が、近いとは言っても、慎重に歩くと一昼夜かかる距離がある。走ったからといって、すぐに辿り着ける距離ではない。足を止めてぜえぜえと肩を上下させるリリーネに、後ろの3人が追いついてきた。
「どうしたの?急に走って。」と言うのはモモナ。
そう言えば、ジャネットにもミミナにもモモナにも、エテーネのことを話したことはなかった。
「私・・・ここで生まれて育ったの。」肩で息をしながらリリーネが言う。「でも、冥王っていう恐ろしい悪魔に村が襲われて、お兄ちゃんが私だけ逃がしてくれたの。どうやったのかわからないんだけど、私はいつの間にかナルビアの前にいた。それで、ずっとここに帰る方法を探してたんだけど、まさかこんなに近くにあるって思ってなくて。絶海の孤島ナルビアから陸続きだったなんて思ってなくて。ナルビアの人は、誰もこのことを知らなかったんだ・・・。」
「錬金釜の中・・・にいたからでしょうね。」ミミナが少しうつむき加減に言う。
「うん・・・。」とリリーネもうつむく。
「しかし」ジャネットが鋼の剣を構えて突き出して見せる。「その錬金釜には穴が開いた。」そして、穴から引き抜くように剣を引いて、また鞘に戻した。「これで釜の中と外が繋がった。」
「リリーネさんのチカラだもんね。」と、モモナは笑顔でリリーネを見ている。
「・・・ありがとう。みんな。」
こくりと頷いて、リリーネたちは、またエテーネの方角へと足を進めた。
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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