先頭にニコロイが立ち、アグシュナがそれに続く。キュウスケがアグシュナに続き、ザーンバルフたちは、さらにその後を追う形となった。
しばらく廊下を進むと「母上、姉上の部屋に寄ってもよろしいでしょうか?」とニコロイが振り返る。「実は姉上がチカラを求めた理由、心当たりがあるのです。」
「リタの部屋は、確か2階。遠回りになるのではないですか?」
「はい。ですがお時間は取らせません。」
「何を探すというのです?」
「姉上が日記をつけていたことを思い出したのです。乱心してしまったとはいえ、姉上も母上の回復を願っておりました。それゆえにチカラを求めてしまったのではないか、と思うのです。」
「私も、リタがなぜ聖地のチカラを我がものにしようとしていたのか、ずっとわからずにいました。もしニコロイ、あなたの言うとおりだとしたら、なんと皮肉なことなのでしょう。リタの日記を探してみましょう。」そう言ってアグシュナは、ニコロイよりも先に階段を昇って行った。
2階に上がり、リタの部屋の本棚を探していたアグシュナは、やがて「ありました。これです。」と1冊の手帳を取り出した。アグシュナは手帳をパラパラとめくっていく。
「母上、なんと書いてあるのですか?」
「ニコロイ・・・あなたの考えていたことが正しいようです。」そう言ってアグシュナはニコロイに手帳を差し出した。
手帳を受け取ったニコロイは、そこに書かれていた文章を読む。「母上が病に苦しむ姿が私にはつらい。私は白き者。私にもっとチカラがあれば、母上の病も治すことができるのに。」そして手帳をぱたりと閉じた。「やはり・・・」
「ああ、リタ。なんということでしょう。私のために求めたチカラが、結果的に暴走し、王家を破滅に導くなんて・・・。これが白き者の定めなのでしょうか。これが白き者の宿命なのでしょうか。」
天を見上げるアグシュナに「これではっきりしました。姉上は、邪心からチカラを求めたのではなかった。姉上は母上や私たちのことを考えてのことだった。」とニコロイが言った。
「しかし、リタが聖地を奪おうとしたのは事実。聖地がそのせいでどのようになっているのか、私たちは見に行かねばなりません。ニコロイ、それが私たち王家の者の宿命なのです。」
「わかっております、母上。」話しながらニコロイとアグシュナは王家の庭の泉の前まで来ていた。
「さあ、ニコロイ。黄金の指輪を泉に。」
ニコロイは、アグシュナの言葉のとおりに左手の人差し指から指輪を抜き、そのまま泉に放り込んだ。
すると、あたりが白い光に包まれる。
「こ、これは!?」と言うニコロイに「これは旅の扉。聖地へと続く次元の扉なのです。」と、アグシュナ。
旅の扉のチカラによって、やがてふたりは白い水晶の林へと運ばれた。そして、それに続いてキュウスケとザーンバルフ、キサラギ、パルポスが運ばれてきた。
旅の扉のチカラによって、やがてふたりは白い水晶の林へと運ばれた。そして、それに続いてキュウスケとザーンバルフ、キサラギ、パルポスが運ばれてきた。
「なんと美しい!」と、水晶の林を目にしたニコロイが感嘆の声を上げた。「聖なるチカラが失われているとは到底思えません。そうですよね、母上?」アグシュナが返事をしなかったので、ニコロイは母親を振り返った。「母上?」
「くっくっく。」
アグシュナが笑っていた。さっきまでの声とは別人のように低い声。「かわいそうなニコロイ坊や。騙されやすいのは父親譲りなのかねぇ。」
アグシュナが笑っていた。さっきまでの声とは別人のように低い声。「かわいそうなニコロイ坊や。騙されやすいのは父親譲りなのかねぇ。」
「母上!?どうしたというのです!?」ニコロイがアグシュナに駆け寄った。
「この50年。なんと長かったことだろう。リタのおかげでずいぶん時間がかかってしまったが、今こそエルトナは私のもの。」
「あなたは・・・あなたは何者だ!?」ニコロイが狼狽の声を上げた。
「私は怪蟲アラグネ。暗黒大樹より生み出でた者。」
そう言うアグシュナは、もう王妃の姿ではない。ツノと牙を持つ8本の足の巨大な蜘蛛の姿へと変貌を遂げていた。
「ふふふ。お前の病弱な母なら、とっくの昔に殺したよ。成りすましてこの城に入り込み、聖地の扉を開く指輪を手にするためにな。だが、リタに気付かれてしまった。さすが白き者よ。リタは、突然に私の病が治ってしまったことを不思議に思ったのだ。そして、成りすましに気付いたあの娘はひとりで私を追い出そうとした。母が殺されたことさえ誰にも告げず。」
驚愕するニコロイを鼻で笑うようにアラグネは続けた。
「しかし、それを軽視したのが私の過ちだった。私がナシュロイを殺してようやく指輪を手に入れたのに、自分の命と引き換えにして、この私を50年もの間この地に封じ込めるとは。だが、それももう過去の話。私はついにエルトナを手に入れた。今この瞬間に!」
巨蜘蛛はなおも挑発するかのごとくニコロイに追い打ちをかける。
「お前が馬鹿で助かったよ、ニコロイ。リタの日記を探そうなどと言うのでヒヤリとしたのだがな。そのようなどうでもよい物を探すなど無意味なことではあったが、リタがもし私のことを書いていたりしたら、また私の野望がリタに阻まれることになってしまう。指輪を持っているお前にそれを気付かれるわけにはいかんからな。それとなくお前よりも先にリタの日記を探して確認したよ。リタが私のことを書いていなかったのは好都合だった。無論、書いていたらお前には見せないつもりだったがな。お前はそれに気付かないばかりか、真のアグシュナに向けたリタの気持ちを私への気持ちだと思ってしまった。猿芝居をするのにも笑いをこらえるのが大変だったぞ。」
そう言うアグシュナは、もう王妃の姿ではない。ツノと牙を持つ8本の足の巨大な蜘蛛の姿へと変貌を遂げていた。
「ふふふ。お前の病弱な母なら、とっくの昔に殺したよ。成りすましてこの城に入り込み、聖地の扉を開く指輪を手にするためにな。だが、リタに気付かれてしまった。さすが白き者よ。リタは、突然に私の病が治ってしまったことを不思議に思ったのだ。そして、成りすましに気付いたあの娘はひとりで私を追い出そうとした。母が殺されたことさえ誰にも告げず。」
驚愕するニコロイを鼻で笑うようにアラグネは続けた。
「しかし、それを軽視したのが私の過ちだった。私がナシュロイを殺してようやく指輪を手に入れたのに、自分の命と引き換えにして、この私を50年もの間この地に封じ込めるとは。だが、それももう過去の話。私はついにエルトナを手に入れた。今この瞬間に!」
巨蜘蛛はなおも挑発するかのごとくニコロイに追い打ちをかける。
「お前が馬鹿で助かったよ、ニコロイ。リタの日記を探そうなどと言うのでヒヤリとしたのだがな。そのようなどうでもよい物を探すなど無意味なことではあったが、リタがもし私のことを書いていたりしたら、また私の野望がリタに阻まれることになってしまう。指輪を持っているお前にそれを気付かれるわけにはいかんからな。それとなくお前よりも先にリタの日記を探して確認したよ。リタが私のことを書いていなかったのは好都合だった。無論、書いていたらお前には見せないつもりだったがな。お前はそれに気付かないばかりか、真のアグシュナに向けたリタの気持ちを私への気持ちだと思ってしまった。猿芝居をするのにも笑いをこらえるのが大変だったぞ。」
「そ、それでは・・・父ナシュロイを殺めたのは姉上ではなく、お前だったと。姉上がおかしくなっていったと思っていたのは、お前のことに気付いていたからだと。姉上がお前を討ったのは・・・私を守るためだったのか・・・。父上と母上亡きあと、姉上が命をかけて守るのは私しかいない・・・。なのに、私は・・・私は姉上がすべての元凶だと思っていたのか・・・。姉上・・・申し訳ありません。どうかこの愚かな私を許してください、姉上。申し訳ありません。申し訳ありません。」
ニコロイは、見えない姉に向けて何度も何度も頭を下げた。
「私が・・・愚かだったばかりに・・・申し訳ありません。」地面に這いつくばるニコロイには、もう貫禄は感じられなかった。
ニコロイは、見えない姉に向けて何度も何度も頭を下げた。
「私が・・・愚かだったばかりに・・・申し訳ありません。」地面に這いつくばるニコロイには、もう貫禄は感じられなかった。
「ニコロイよ。お前は許される。」アラグネがにやつきながら言った。
「なぜなら、私をここまで連れてきてくれたのだからな。感謝の証として、お前には名誉ある死を与えよう。」
「なぜなら、私をここまで連れてきてくれたのだからな。感謝の証として、お前には名誉ある死を与えよう。」
「私の・・・わしの50年は・・・いったいなんだったのだろう・・・。」
うずくまったままニコロイが絶望の声を絞り出す。「わしを守ってくれた姉上のことを知らぬまま、この怪蟲がエルトナを手に入れるために50年間カミハルムイを守ってきたということなのか・・・。わしが母上の死に気付かなかったばかりに・・・わしが暗黒大樹の葉を納めたばかりに・・・わしが指輪を泉に投げ込んだばかりに・・・。わしがエルトナを滅ぼすのか・・・。」
うずくまったままニコロイが絶望の声を絞り出す。「わしを守ってくれた姉上のことを知らぬまま、この怪蟲がエルトナを手に入れるために50年間カミハルムイを守ってきたということなのか・・・。わしが母上の死に気付かなかったばかりに・・・わしが暗黒大樹の葉を納めたばかりに・・・わしが指輪を泉に投げ込んだばかりに・・・。わしがエルトナを滅ぼすのか・・・。」
「王様!ニコロイ王!」
キュウスケがニコロイに駆け寄って抱き起こした。「お気を確かに!まだエルトナが奪われるとも滅びるとも決まっておりません!あの蟲をここで倒してしまえば、それでよいことです。」
キュウスケがニコロイに駆け寄って抱き起こした。「お気を確かに!まだエルトナが奪われるとも滅びるとも決まっておりません!あの蟲をここで倒してしまえば、それでよいことです。」
「しかし・・・」ニコロイの声は弱々しい。
「そのために私とザーンバルフたちはついて来たんです。」
キュウスケはザーンバルフを振り返り、キサラギにも目を向ける。「いいだろ?キサラギ。」
キュウスケはザーンバルフを振り返り、キサラギにも目を向ける。「いいだろ?キサラギ。」
「あなたはどうするんですの、キュウスケ?」キサラギはまっすぐにキュウスケを見つめ返した。
「オレが命を張るのは、愛するユーチャーリンのためだけだ。」
「キュウスケ!そんなことを言っているときでは・・・・」
「だが」キュウスケは人差し指を立ててキサラギを制する。「ここで戦わなければユーチャーリンを守れねえ!エルトナを守らなければ、ユーチャーリンを救えねえ。それになにより、ここで逃げたらユーチャーリンに顔向けできない!」そのキュウスケの目は、いつもとは違って力強く、真剣そのものだった。
「キュウスケ・・・」
「キサラギ、援護はできるんだろ?」キュウスケが言う。
「もちろんですわ。」キサラギも強く頷いた。
「待て。」その声に一同が振り向くと、ニコロイが立ち上がっていた。
「わしも戦う。」ニコロイはそう言って、鞘に手をかけ、刀を抜いた。
「わしも戦う。」ニコロイはそう言って、鞘に手をかけ、刀を抜いた。
「ニコロイ王!王になにかあっては、カミハルムイが守れません!どうぞ安全なところまで下がっていてください!」キュウスケが言う。
「キュウスケ。そなたの言葉を聞いて、わしは恥ずかしくなったのだ。守りたい者のために戦う。わしは、それから逃げようとしてしまったのだ。王たるわしが戦わず、誰がカミハルムイを守れようか。わしが逃げて、誰がわしを王と認めようか。」
「ニコロイ王・・・」
「わしは自らの過ちを精算せねばならぬ。そなたたち家臣や旅の者ばかりに精算させては、わしの愚行はどこまでも愚行のままだ。姉上の心の痛みを知った今、その痛みからわしは逃げるわけにはいかんのだ。」
「王・・・まさか死ぬ気でおられるわけではないでしょうな?」
「キュウスケよ。もちろん死ぬ気などない。そして、そなたたちを死なせる気もない。死ぬのは、あの怪蟲だけだ。そのために、わしに力を貸してくれ。頼む。」ニコロイは頭を下げた。
「王さまよ。」ザーンバルフがニコロイに並んだ。
「俺たちは魔瘴を封じる旅をしてるんだ。エルトナを守りたいあんたと魔瘴を封じたい俺たち。いま俺たちは運命共同体になった。」
「俺たちは魔瘴を封じる旅をしてるんだ。エルトナを守りたいあんたと魔瘴を封じたい俺たち。いま俺たちは運命共同体になった。」
「それに、ワタクシたちは王様、あなたの心の闇を払いたい。しかし、あの蜘蛛を倒さないことには、あなたの心が晴れることはないでしょう。ワタクシは、そのために杖を振るいます!」パルポスも力強く言った。
「決まりですわね。準備はよろしいですかしら?」キサラギはそう言って「スクルト!」と唱えた。
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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