1章 エテーネの民
「お兄ちゃん。」
「え?カメ様には乗せてもらえないのですか、アバ様・・・、むにゃむにゃ。」
「ちょっとお兄ちゃん!なに寝ぼけてるの!もう朝だよ。」
ライトブラウンのセミロングヘア。そして、光沢のある黒い瞳。小麦色と呼ぶには少し薄い肌の色。幼さの残るその容貌から、少女があどけなく天真爛漫であることがうかがえる。
「ん?あぁ、リリーネか。おはよう。」
少女に揺すられて、アディールは目を覚ました。
藁ぶきの天井。いつも見ているベッドからの風景。そして、それを覗きこむような妹の顔が見える。
まだ眠い目をこすりながら、アディールはベッドから体を起こす。
「ふぁぁ~。もう朝か。」
あくびをしながら、右手で髪を触る。髪は寝ぐせであちらこちらへと跳ねている。指通りの悪い硬い髪。指で梳くのを諦め、くしゃくしゃと手で髪を薙ぎ払った。
「ねぇねぇお兄ちゃん。」
リ リーネが顔を近寄らせ、少し首をかしげてアディールを見た。話を聞きたがっているしぐさだ。
「カメ様って、何の夢を見てたの?」
「え?オレなんか言ったか?」夢の中身なんて、あんまり覚えていない。それでも、妹の質問に 答えようとアディールは夢のことを思い出していた。「うーん・・・確か・・・」
考えながら、アディールは水場へと歩き、顔を洗った。水は冷たくて、一気に目が覚める。
「そうそう、カメ様の背中に乗ろうとしたら、アバ様に止められて、怒られて乗せてもらえなかったんだ。」
「なにそれ。カメ様はこの村の守り神だよ?乗せてもらえるわけないじゃない。あはは。」
笑っているリリーネを見て、アディールも肩をすくめた。
「わかってるよ。だから夢の話じゃないか。」
そう、わかっている。カメ様は村の守り神。巨大な体は硬い甲羅に覆われ、いつも寝ていて身動きすることなんてほとんどない。まして、背中に乗せることなんてあるはずない。でも・・・。
アディールは少し不思議な気持ちを感じていた。
でも、どうしてそんな夢を見たんだろう。なにか、この夢には特別な意味があるんじゃないのか・・・。
そう考えるアディールの思考を遮るようにリリーネが言う。もちろん、リリーネにそういうつもりはなかったのだが。
「でもお兄ちゃん。お兄ちゃんが生まれたときは、普段全然動かないカメ様が立ち上がって大きな声をあげたんでしょ?村の人がいつも言ってるよ、カメ様の申し子なんだって。お父さんとお母さんだって、すごく驚いてたんでしょ?」
「まぁ、見たわけじゃないから。自分が生まれたときのことなんて覚えてないさ。それに、お前は父さんと母さんのことも覚えてないだろう?」
「・・・うん、あんまり・・」
「もう10年も前のことだからな。お前はまだ小さかった。」
アディールは水場で髪を梳く。跳ねた硬い髪を梳き下ろす。ちょうど耳にかかる程度の髪。
「うん。まぁこんなもんだろう。」
髪を触りながら鏡に向き合い、自分を見つめた。リリーネよりもずっと深い色合いの黒髪。そして黒い瞳。
アディールは、その瞳で鏡越しにリリーネを見る。同じ色の目をした妹も鏡越しの視線に気付いたので、アディールは鏡の向こうのリリーネに話しかけた。
「それで、リリーネ?なにか言いたいことがありそうだな。」
「あれ、やっぱりわかっちゃった?それがね、今年もアバ様のために、ハツラツ豆を錬金しようとして失敗しちゃったんだー。」と、軽く舌を出すリリーネ。
「おいおい、また失敗か。これで2勝630敗じゃないか。」
「4勝628敗ですぅ、だ。」今度は唇を尖らせる。
「そんなのどっちでもいいじゃないか。」
「よくないよ!2勝も違うんだよ!」
「だいたい去年も錬金に失敗して、アバ様に怒られたんだろう?錬金だって、素材がいるんだぞ。失敗ばかりだと、素材がなくなる一方じゃないか。」
「そ。だから、アバ様に謝っといてね。私はこれから出かけてくるから。じゃね、お兄ちゃん。」
「おい、リリーネ。待てよ。待てってば。」
待てと言って待つような妹ではないことは、アディールも重々承知していた。颯爽と家を飛び出すリリーネを目で追いながら、やれやれ、とため息をついた。
リリーネの錬金の失敗で、アディールが謝りに行くことは珍しいことではなかった。
錬金ができるってのはいいことなんだけどなぁ。もう少し成功率を高めてくれないと、謝る身がもたないよ。いつも謝ってばかりいるけど、628回の失敗のうち、何回謝りに行ったことか・・・。
そう思って、アディールは指を折って数えた。もちろん数えきれない。指の数が全く足りなかったし、もうアディールの記憶でも、いつ何の錬金で失敗したのかもわからなくなっていた。
家を出て少し歩き、川に架かった橋から下を見る。よく晴れた朝日が、水面に反射してまぶしかった。ちょうど、家と教会の中間にある橋である。
教会のアバ様には何と謝ろうか・・・。
唇に力を入れ、腕組みをしながら歩いているアディールに、教会の方から声が聞こえた。
「アディールさ~ん。」
アディールよりも少し若く、メガネが印象的な青年。いつも翼を模した飾りのついた帽子をかぶっている。
「あ、シンイ。今から行こうと思ってたんだ。えっと、その、アバ様の様子はどうかな?」アディールは。右手で首の後ろをさすりながら尋ねた。
「ええ。あまり良いとは言えません。」
「それって、リリーネのハツラツ豆のことだよなぁ?」アディールは、下を向いて目だけでシンイを見る。
「いえ。確かにそれもあるのですが、それとは別に、最近塞ぎこんでいるご様子なのです。どうやら、よく眠れていないようで、それでお機嫌を損ねているのではないかと・・・。」
「そうか。じゃあ、アバ様がよく眠れたときに謝りに行きたいものだね。」はは、と自嘲気味に笑い、アディールは肩をすくめた。
しかしシンイは「そうなんです!そこで、私も考えたんです!」と、勢いよく言う。
「どうしたんだ、シンイ?」アディールは少し驚きの表情。
「よく眠れる枕があれば、おばあさまもきっとお機嫌をなおすはずです。私は裁縫が得意なのですが、素材の干し毒消し草とフカフカのもみ殻を持ち合わせていないもので・・・。」
シンイが残念そうに言うと、アディールは自分の道具袋を開いて中身を見せた。
「それって、これのことか?よければ使ってくれよ。それでアバ様の機嫌がなおればオレも助かるんだ。」ほら、と腰紐を解いて道具袋ごとシンイに手渡す。
「助かりました。では、早速作りますね。すぐにできますから待っていてください。」
シンイはその場に座り込み、針と糸といくつかの素材を取り出して裁縫を始めている。その洗練された針裁きを見ながら、アディールは感心していた。
「裁縫できるってすごいよなぁ。」
「アディールさんも、練習すればすぐできるようになりますよ。」
「リリーネだって、錬金ができたりするんだ。・・・成功率は悪いんだけどね。」
「これから学ぶことだってできますよ。ただ、裁縫も錬金も、と欲張ると難しいかもしれませんが。」そう言いながら、シンイは大きめの結び目を作って糸を切った。「さあ、できました。安眠枕です。」よく眠れそうな枕が出来上がっていた。
「よかった。これでアバ様にも謝りやすくなるよ。」
という安直な考えは、教会での怒号によってあっという間に木端微塵に粉砕した。
「このたわけが!枕ごときの問題ではないわ!すぐにリリーネを呼んで来るんだよ!」
「ごめんなさいアバ様!オレ、あ、いや、僕すぐ妹を連れてきます!」
アディールは一目散に教会を飛び出した。一緒にシンイも飛び出していた。安眠枕さえあれば簡単に許してもらえるような気がしていたアディールも、そうではないことにやっと気付いた。
「すみませんアディールさん。こんなにお怒りだとは思わなかったもので・・・」と、シンイ。
「いや、こっちこそゴメン。やっぱり代わりに謝るなんてできっこなかったんだよ。オレ、リリーネを探してくるからさ。シンイはここで待っててよ。」
はぁ。そりゃそうだよなぁ、とため息をつき、アディールは村の北側へ向かった。リリーネの行き場は、だいたい見当がついている。
ひんやりとした森の中。草木の香り。ところどころの木漏れ日がまぶしい。
そして、その薄暗い自然の風景とそぐわないきらびやかな箱。
ライトブラウンの髪の少女はそこにいた。
少女は箱の中に、道具を詰めた。道具、と言っていいのかどうかわからない。それは、少女以外の誰が見ても、ガラクタにしか見えないもの、である。
「今度の錬金はうまくいくかなぁ?」
少女はひとりごとを言いながら、箱の蓋を閉める。手で箱を包むような動作。錬金のためのおまじない。
「えい!」
ポン!と音がして、箱が少し跳ねた。箱の中で何かが起こった。
「何ができたかな~?」
少女は嬉しそうに箱を開けて目を輝かせる。
「あはは。できたできた~。」
そのとき、後ろの茂みからザッという音が聞こえた。
ギクリとした少女は振り返る。
「誰!?」
振り返った少女の視線の先には、黒髪黒目の青年がいた。少女は、その青年のことをよく知っている。それも当然。ほんのさっきまで、一緒に家にいたのだ。
「お兄ちゃん!」と、ホッと胸を撫で下ろす少女。
「リリーネ、あのなぁ。村から出ると危ないって、いつも言ってるじゃないか。」と言ったのが青年。
「えへ。ごめんね。でも、錬金でこんなのができたんだよ。」
少女リリーネは箱から何かを取り出して、それを青年アディールの頭にかぶせた。
「なんだ?なにをかぶせたんだ?」
手で頭の上のものを触ろうとしたアディールをリリーネが止める。
「ダメダメ、脱がないで。お兄ちゃんには見えなくていいの。あはは。お兄ちゃん似合うよ。ご機嫌な帽子、だよ。」
「ご機嫌、ね。お前はいいなぁ。アバ様もご機嫌になってくれるといいんだけどな・・・。とにかくリリーネ、アバ様が呼んでるんだ。一緒に来るんだ。」
そう言うアディールのため息の意味は、しかしリリーネには届いていなかった。
「え!私の錬金術もついにアバ様に認められたってこと?」と、リリーネはむしろ嬉しそう。
やれやれ。アバ様の機嫌がもっと悪くならないといいんだけどな。「さあ、帰るぞ」とアディールが手を引こうとすると、リリーネが思い出したように言った。
「ねえお兄ちゃん。この森の奥に、よくわからない石碑があるの。オーガとかウェディとか、何のことを書いてあるかわからなくて、いつも気になってるの。ちょっとお兄ちゃんも見てくれる?」
村につれ帰ろうと思ったのに、逆に森の奥へと手を引かれるアディール。奥まで連れられて、アディールは石碑の前に立った。
「これだよ、この石碑。ね、これなんだろ?」
リリーネの言う石碑には、こう書かれていた。
炎の民オーガ。大きな体を持つ力強き者。強きを尊ぶ彼らは、好戦的で、仲間のために命をかける。
地の民ドワーフ。雄大な山々に恩恵を受け、大地と共に生きる者たち。小柄ながら高い技術力と高度な文明を持つ。
花の民プクリポ。器用さと強い魔力を合わせもつ小人。彼らは楽しさを求め、物作りを好む。
風の民エルフ。自然を愛し、森と共に生きる可憐な者たち。英知に富む彼らは、優れた呪文を使い、世界の理を知る。
水の民ウェディ。自由を好み、歌と恋を大切にする者たち。速く強い彼らは、愛する者を全力で守る。
「なんだ、これは?人間以外の種族がいる、という意味なのかな?」
「ねえねえ、こっちにもあるの。」
勇の民人間。彼らが持つ強さをこう呼ぶ。勇気と。
空の民竜族。遥かかなたより世界を見守る聖なる者たち。彼らはたちまちにして戦乱を治める力をもつ。
「どうやら、人間以外に五つの種族と竜族が存在する、ということが書いてあるみたいだ。」アディールは腕組みをしながら言った。
「でも、私たちの村には人間しかいないし、この世界にはエテーネの村以外なにもないんでしょ?」
「そう。そう教えられた。でも、自分で調べたわけじゃない。世界を回ったわけじゃない。」
「じゃあお兄ちゃんは、私たちの知らない世界があると思ってる?」
「それはわからないさ。だけど、今はそんなことはどうでもいい。まずはアバ様のところだ、リリーネ。」
「はぁい。」
少し不満気な妹の手を引いて、アディールは今度こそ村へと足を向けた。「アバ様がお前を呼んでいるのは誉めてるんじゃなくて・・・」「えー。やっぱりそうなのかなぁー。」
そんな会話をするふたりの背後から音もなく近付いてくる影があった。アディールはリリーネに、リリーネはアディールに意識を向けていて、後ろを振り向く気配もない。それを確認したかのように影はそろりそろりと近付き、そしてアディールの背中に飛びかかった。
「ピキー!」
ドン!アディールは不意を突かれ、よろめいた。
「スライム!」
リリーネが叫ばなければ、アディールには何が起こったのかわからなかったところである。
「くそっ!」
アディールは振り返り、鞘に手をかけ、剣を抜こうと柄を握った。いや、握れなかった。剣の柄はそこにはなく、アディールの手は空を掴んだ。
しまった!さっきの体当たりで、剣が・・・
剣は、スライムよりもリリーネよりも遠くに弾き飛ばされていた。
くっ!どうする!?このまま素手で戦うか?いや、それはムリだ。素手じゃ戦えない。じゃあ、剣を取りに行くか?それも簡単じゃない。剣は敵よりも遠くにあるんだ。それじゃ逃げる?でも、リリーネも逃げれるかどうかはわからない。どうすれば・・・
スライムは、アディールが悠長に考えるのを待ってはくれなかった。次なるターゲットであるリリーネに飛びかかる。
「危ない、リリーネ!」
今度は咄嗟に体が動いた。スライムとリリーネの間に割って入る。
ドカ!アディールはまた吹き飛ばされて、木の幹に頭を打ち付けた。一瞬、目の前が暗くなった。いや、暗くなったのか明るくなったのかよくわからない。星が見えたのか月が見えたのかもわからない。
雲が見えている。雲を囲むように木々の葉も見えている。でも焦点が合わない。見えていることを認識できない。黒くも見えるし、白くも見える。視界が広いようでもあり、狭いようでもある。手足の感覚がなくなり、意識が遠のいていく間際、リリーネの声が聞こえた。
「ホイミ!」
体の周りを優しい光が包んだ。痛みがなくなり、合わなかった焦点が合うようになる。雲にピントが合った。焦点はどんどん下ってきて、今度は木々の葉に合った。
どうやら、大の字になって仰向けで気を失うところだった、と今になってアディールはわかった。
手足が動く。起き上がれる。立ち上がろうと地面を触ったときに、掌に当たる棒状のものがあった。
「お兄ちゃん大丈夫!?」
「ああ、大丈夫さ。」アディールはその棒をぐっと掴んだ。「ちょうど剣のところに吹き飛ばしてもらったよ。」そしてぐっと掴んだ棒状の柄を持つ剣の刃先をスライムに向けた。
「ピキピキー!!」
剣を向けられたスライムはアディールを威嚇した。
「残念だったな。」
アディールは威嚇には動じなかった。なぜなら・・・
「人間には勇気があるんだとさ!」
アディールは剣を振り下ろす。
切れ味の鈍いその剣はスライムを叩き潰し、地面に跳ね返ったスライムは後方へと弾き飛んだ。そのまま放物線を描くように後方に2回転して地面で弾み、さらに1回転半して岩にぶつかる。アディールはしばらく剣を構えて待ったが、スライムはもう動かなかった。
アディールは剣を鞘に納めてから振り返った。
「さあ行くぞ、リリーネ。」
「おばあさま、もう少し待ってください。すぐにアディールさんがリリーネさんを連れて戻ってきますよ。」
こちらは教会。
シンイが困惑したように、長い白髪の老婆に訴えている。老婆の白髪は頭の両側でそれぞれ結ばれていて、その毛先は、腰の位置にまで届く。
「そういつまでも待ってられないんだよ!シンイ、お前だけには先に言っておくよ。この村は時期に滅びるのさ。」
白髪の老婆の唐突な発言に、シンイは驚きを隠せない。
「そっ、それはどういうことですか!?」
老婆は、それには直接答えず、右手の人差し指を立てて見せた。
「ひとりじゃ。」その目線は、シンイとは別の方向を向いている。「生き残れるのは、おそらくひとりじゃ。」
シンイの喉がゴクリと鳴った。
「それは・・・」と、シンイが次の言葉を発するより早く、バタンと勢いよく扉が開き、部屋に飛び込んでくるふたりがいた。
「アバ様!リリーネを連れて戻りました!さあ謝るんだ、リリーネ!」
「ご、ごめんなさいアバ様!ハツラツ豆の錬金に失敗しました!」
アディールとリリーネである。矢継ぎ早に謝ろうとするふたりに、白髪の老婆アバが言う。
「いや、そのことではない。豆などどうでもいいのじゃ。それよりアディール。」アバの視線は、アディールの頭の上を向いていた。「お前のかぶっているのは何じゃ?この深刻な場面で、ふざけておるのか?」
「え?」
アディールは慌てて頭に手をやり、帽子を脱いで、それを見て驚いた。赤と黄のしま模様の帽子の上に、六枚の花びらが付いた造花がくっついている。他人をバカにしているとしか思えないほどの派手な帽子。こんなものを知らずにずっとかぶっていたのかと思うと、顔から火が出るほど恥ずかしくなった。
リリーネ!!アディールは心の中で、リリーネに怒鳴りつけていた。
アディールのそんな心境を知ってか知らずか、アバはその帽子についてはそれ以上追及せずに「シンイ。」と声をかけた。「皆をここに呼ぶのじゃ。」
「皆の者。」
教会の前。村人たちの前で、アバはこう切り出す。
「わしはカメ様からのお告げを賜る巫女として、託されたお告げをありのままに伝える!」
村人たちがざわつくのが、アディールにもわかった。お告げに対して、ある者は期待をし、ある者は不安を感じていた。しかし、お告げの内容は、彼らが思いもつかぬほど残酷なものであった。
「この村は大いなる災厄に見舞われ、滅びる!」
村人たちは騒然とした。
「この町を守ってきたわしの結界が、すでに破られておる。先ほど町に魔物が入ってきおったわい。のぅ、シンイ。」
シンイが俯きながら言う。「しかしご安心ください、その魔物はすでに退治しました。」
シンイの声は弱々しかった。結界が破れた今、魔物が押し寄せるのが時間の問題であることは、誰にでもわかることだった。ただ一匹の魔物を倒しただけで、解決するものではないことが、村の誰にでもわかっていた。
「結界を破ることができるのは破聖のチカラ。邪悪な何者かがこの村を狙っているということじゃ。じゃが」アバがひとつ呼吸を置いて「お告げにはまだ続きがある。」と、続けた。「光明が残されていないわけではない。ここより北の、立ち入りを禁じられた清き水の洞窟に、伝説の霊草と呼ばれるテンスの花が咲いておるはずじゃ。それを持ち帰ってくれば、滅びを止めることができるかもしれん。カメ様はそう言われておる。花を採りに行くのは、アディールとリリーネ。」
「はい!」「はい!」
アバはアディールとリリーネをしげしげと見つめる。「お前たちは、時期に自分に隠されたチカラを知ることになろう。お前たちの運命は・・・」アバは考えるように間をおいて「いや、それはわしが言うことではないな。さあ、気をつけて行っておいで、アディール、リリーネ。」
アバの言葉は、アディールが今まで聞いたこともないほど優しかった。そしてアバの表情は、今まで見たこともないほど切なげだった。アバの心情を知るべくもないアディールであったが、しかし、なにか異常な事態であることを察するには十分だった。
「私も一緒に行きます。おばあさま、必ずテンスの花を持ち帰ります。必ず。」
いつも控え目であるシンイもまた、事の重大さを感じ取り、アディールたちとともに、強く足を踏み出した。
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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