小説ドラクエ10-18章(10) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

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 ガラトアが手をかざすと、空間に闇のゲートが開き、そこからガラトアとほとんど見た目の変わらないひとつ目の仮面の魔道士たちが現れる。その数5体。赤いマントのガラトアと、緑のマントの地獄の使い。
 アディールはガラトアに跳び寄って短剣で斬りつける。ガラトアは、それをサッと跳び下がって避けた。
「みんな!一旦通路へ出るんだ!6体同時に相手にするのは無理だ!」
 アディールの攻撃を避けたことで、さっきまでガラトアが塞いでいた入り口に、道が開けた。アディールに続いて、キサラギとドドルとパルポスも、跳び下がったガラトアの脇をすり抜けて通路へと走る。倒れたままのキャスランを通り過ぎて、さらに通路を入り口に向けて、来た道を逆に戻った。
 ガラトアたちを振り切った後、アディールにパルポスが提案する。「敵はみな呪文使いです。ワタクシならばマホカンタがある。ワタクシに行かせてください。」
 パルポスが狭い通路で待ち構えていたところに、地獄の使いたちが追ってきた。先頭の地獄の使いがメラゾーマを唱える。大火球はパルポスのマホカンタで反射して、呪文の主へと返る。ぐああーと悶える地獄の使いは、その自分の魔力の高さゆえに、自身の作り出した業火によって焼かれて息絶えた。「まずは1匹!」とパルポス。
 2体目は、1体目のような愚は犯さなかった。呪文で攻撃しようとはせずに、逆に自分にマホカンタを唱えた。
「これは・・・困りましたねぇ。これではワタクシも戦えない。しかし」パルポスは杖で殴りかかった。「悪魔払い!」杖で即頭部を叩かれた地獄の使いは、脳振とうを起こし、その場に倒れ込む。「トドメをお願いします!」
 パルポスの言葉でアディールが飛び寄り、ソードブレイカーで心臓を貫いた。瞬間、アディールの脳裏に、先のガラトアの言葉が蘇る。そして自問した。僕はあのガラトアに、魔族が人を殺すことを酷いことだと言った。でも、いま僕がしていることは、それと同じこと。いや、食べるためじゃない。食べられないためだ!でも、どんな理由があっても、殺すことを正当化することはできない。だけど・・・だけど、やっぱり僕たちは戦わなければならない。アディールは2体目の心臓から短剣を抜いて「2匹!」と言った。
 すぐに3体目がやってきた。もちろん、すでにマホカンタの光の壁を纏っている。そして、鉄の棍棒をパルポスに向けて振り下ろした。
 すんでのところで避けたパルポスだが、空振りに終わったその棍棒は床石をえぐっている。
「こ、これは・・・。呪文だけではなかったのですねぇ。」
 パルポスの額から一気に汗が噴き出る。一撃でも受けてしまえば、致命傷になりかねない。
 ちょうどパルポスがそう考えているときに、後ろからキサラギが叫んだ。「パルポス、代わりますわ!」
「しかし、今のを見たでしょう?キサラギさんも危ない。」
「今スカラで身を固めましたわ!マホカンタは私にもかけてもらえるのかしら?」
 パルポスは頷いてサッと退き、そしてキサラギに向けてマホカンタを唱えた。光の壁がキサラギの前に輝く。
 キサラギはパルポスの前に出ながら「アディール!盾を貸してもらえますかしら?」と左手を出した。てっきり、ザーンバルフから借りたまどろみの棍で戦うのかと思っていたが、キサラギの右手にはマジカルスティックが握られている。アディールは素早くキサラギの左手に盾を装着させた。
 ほぼ同時に3体目の棍棒がキサラギに振り下ろされる。
 ガキン!という金属音が響く。
 キサラギが盾で棍棒を受け止めていた。すぐに右手のスティックを頭部に叩きつける。「デビルンチャーム!」
 すると、頭部を殴られた地獄の使いが困惑した様子で、攻撃の手を止めた。
「うまくいきましたわ。この技は、敵を魅了することができますの。」
 魅了された3体目の術師は、すぐ後ろまで来ていた4体目に向けてメラゾーマを放つ。しかし、4体目ももちろんマホカンタの光に包まれている。そのマホカンタに跳ね返った大火球は、結局呪文を唱えた本人である3体目の地獄の使いを炎上させた。
「3匹目!」とキサラギが言った。
 4体目と5体目は同時に襲ってきた。狭い通路に肩を並べて、2本同時に鉄棍棒が降りかかる。
 キサラギは身を反転して1本をかわし、もう1本を盾で受け止めた。
「でも、2匹同時には戦えませんわ。下がりますわね!」と言って、狭い通路を下がって、少し広がった大広間へと走った。
 走って追って来た4体目を後ろ目に見ながら、キサラギはサッと横に飛び退いた。急な方向転換に失敗した4体目は一歩踏み込んで鋭く切り返そうと地面を踏み締める。
 しかし、踏み締めたのは、石の床ではない。バナナの皮だった。ツルリと滑った4体目の地獄の使いは大広間の中央にある泉へと滑り落ちた。
「バナナトラップだぞ。へへっ!」とドドルが鼻の下に人差し指を当てた。
 泉に落ちた4体目が這い上がって来ることはなく、落ちた時の格好のまま固まって動かない。「そうか、この泉の水も永遠の水なんだな。」
 アディールが言うと、時を止められた4体目を見て「4匹だぞ!」とドドルが言った。
 5体目は床の上を注意深く探りながらそろりそろりと歩いて来た。無表情でも、同じ手は喰わない、と顔に書いているように見える。マホカンタに包まれ、頭を殴られないように両手に棍棒を持って身を固めながら、バナナの皮がないことを確認しながら、しかもアディールたち4人の位置を確認しながら歩み寄る。何もないことに安心した5体目の地獄の使いはニヤリ、としたかのような無表情でドドルに向けて「メラゾーマ!」と唱えた。
 その瞬間。
 地獄の使いが爆発した。
 「へへっ。」ドドルはまた鼻の下に指を当てた。「炎を使ったら爆弾が引火するんだぞ。」
 それを見てパルポスが皮肉たっぷりに言う。「バナナだけではなく、仕掛け爆弾のメガボンバーにも気をつけておかねばなりませんでしたねぇ。」
 ドドルは「やったぞ、アディール!5匹倒したぞ!」と喜んだ。
 ドドルが喜んだのとほぼ同時。
「ザオリク。」という声が聞こえた。ガラトアだ。
 5体目の地獄の使いの後から歩いて来たガラトアの呪文で、2体目の地獄の使いが蘇った。
「そ、そんな・・・?」パルポスが愕然とする。一体、どれだけ戦えば済むのか。倒しても倒しても、ザオリクで蘇らせてしまうのか。
「そんな天の理に逆らうようなことはさせませんわっ!」
 キサラギは、今度はまどろみの棍を振りかざした。「黄泉送り!」蘇ったばかりの地獄の使いは、また黄泉の国へと戻った。
「どこかで聞いたようなセリフですねぇ。」とパルポス。
「メギストリスのプーポッパン王が死ぬときに言ってたぞ。」とドドル。
 そう言う間に、1体目の黒焦げの地獄の使いがザオリクによって立ち上がっていた。
「くそっ!キリがない!あの1匹は僕が相手をする。その間に、残りは永遠の泉に落としてくれ!」アディールはそう言って最初に炎上した地獄の使いに向かって行った。
「なるほど!それは名案ですねぇ。時を止めてしまえば、ザオリクでは蘇らない。」
 パルポスはポンと手を叩いて納得してから、倒れている地獄の使いを泉まで引っ張る。「ただ、ワタクシには骨の折れる作業ですねぇ。」
 パルポスを手伝いながら、キサラギとドドルも、うんうんと頷いた。「私でも大変な作業ですわ。」「ザーンバルフがいてくれたらなぁ。」
 1体目に向かうアディールは、短剣を鞘に納め、代わりに6つの手玉を取り出した。そして、手玉を空中で器用にジャグリングしながら、地獄の使いとの距離を縮める。棍棒を振りかざそうと地獄の使いがアディールに踏み込んだところを「今だ!」と空中の手玉を振り落とすような仕草をした。と、今まで軽々と投げ上げていた手玉が鋼鉄のように堅く重くなり、地獄の使いに降り注ぐ。6つの鋼鉄の手玉の直撃を受けた地獄の使いは、自分の鉄の棍棒で6度殴られたようにぐちゃぐちゃと身を潰され、絶命した。すかさずアディールは、その死体を引きずって泉の中に投げ入れた。
「今のは!?」とパルポスが驚いたような表情。
「ああ。キラージャグリングさ。プディンの見よう見まねでね。ナブナブ大サーカスの。」
「プディンは5つの玉でもまともにジャグリングできていませんでしたよ。」パルポスが笑うと、アディールも「向き不向きがあるのかもね。」と言って笑った。
「さて。あとは。」
 アディールの正対する廊下のずっと先に、ガラトアの姿があった。アディールはキッと睨んだままガラトアのほうへ廊下を進んだ。




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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】



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