小説ドラクエ10-22章(10) | カインの冒険日記

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「遅くなりました。」と声が聞こえた。姿なき声。しかし何度も聞いた声。そう、光の声であり、カメ様の声であり、ペガサスの声。「今こそチカラを貸しましょう。」
 その声とともに、アディールたちの体がふわりと浮き上がり、ぐんぐんと舞い上がり、ついには冥獣王の胸元ほどの高さにまで到達した。そして、ふわふわとした感覚から、また地に足を着いた感覚が戻る。地面よりもずっと高い位置に作られた光の輪が冥獣王を取り囲み、そして、アディールたちは今その光輪の上に立っている。ここに来て、ついに、巨大な冥獣王の胸部や頭部を狙える位置まで来ることができた。
「私の今のチカラではここまでが限界です。あなたたちを支えることしかできません。あとはあなたたちのチカラに託します。」と、声は言った。
「支えるって・・・この光輪が今のカメ様の姿ってことですね!」ペガサスの発言の意味をアディールはようやく理解した。「僕たちはカメ様の背中に乗って戦っているんですね!でも、そんなことをしたら・・・カメ様までやられてしまったら、時渡りのチカラは・・・」
「・・・あなたがエテーネの最後の民です。私のチカラは、あなたが生き残らねば、もう受け継ぎようがないもの。さあ、私に乗って、戦うのです!」
 その言葉のやりとりの中で、アディールの脳裏にあるひとつの情景が飛び込んで来た。記憶の中?想像の中?いや、過去に見た夢の中!
 冥王と戦うよりもずっと前。仲間たちと会うよりも前。ウェディの姿に転生するよりもさらに前。平和だったエテーネのある日の朝見た夢。カメ様の背中に乗ろうとしたあの夢。それが、今まさに現実のものになった。あの夢は・・・この戦いを暗示していたんだ!
「ぐぁはは!」という冥獣王の笑い声で、アディールはふと現実へと意識を戻した。「まさか時渡りの本体が自らここへやって来るとはな!貴様を倒して、もはや魂を移し換えたりなどという小賢しい芸当もできぬようにしてやろう!」冥王はまたひとつ咆哮した。「我の前に立つ者すべてに等しく死を!」


 ペガサスの背、光輪の上に立って4人は冥獣王の胸元に迫ることができた。とはいえ、それだけで状況を打破できたかというと、必ずしもそう言えるわけではない。
 パルポスのメラミやヒャダルコは相変わらず冥獣王の右手によってもみ消されているし、アディールやドドルの攻撃もまた巨猿の左手によって防がれている。攻め手を失ったキサラギも、もしものときに手を打てるようにただ戦局を見つめるばかり。しかし、あの巨大な拳を一撃でも受けてしまえば、回復できるものなのかどうか。
「くそっ!あの両手をなんとかしないと・・・」
 そうは思うものの、アディールの頭の中でも、切り込みの方策が浮かばない。
 そんな中、冥獣王の唱えたイオグランデの光爆にアディールが巻き込まれてしまう。ぐあ、と叫びながら転倒するアディールに、巨猿の右手が振り下ろされた。
 しまった!と、その場の全員が思った。
 アディールにはもう避けることができない。そして、振り下ろされた拳からアディールを守ることができる者もいない。そう、素早さを高めることができるドドルさえも。攻撃を鈍らせることのできるパルポスでさえも。守備を固めることができるキサラギでさえも。
 しかし。
 アディールに振り下ろされるはずだった冥獣王の右の拳は、アディールには直撃せず、あらぬ方向へと飛んでいった。拳のみならず、腕全体が。
 突如空から舞い降りた赤い影が、巨猿の右腕を斬り落としていたのだ。そして、いま振り下ろしたのとは逆の手に持つ剣を振り上げて冥獣王の胸元をもえぐった。
「ぐわぁぁ!」と冥獣王が叫び声を上げてのたうったのは、赤い影がヒュンと飛び退いてアディールたちの前にスタッと着地したときだった。
 アディールの目に映っているのは体躯のよいワインレッドの体を持つ炎の目のオーガ。オーガは両の手に2本の剣を携え、切っ先の血を払うようにブンと剣を振った。
「ザーンバルフ!!」
「待たせたな、アディール、みんな。」炎の目のザーンバルフは4人を見回した。「みんな、姿は人間になったが、俺にはわかるぜ。」




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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】




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