小説ドラクエ10-11章(2) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

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 ウルベア地下遺跡はカルデア山道からはるか西、岳都ガタラを越えた原野西部に位置する。遺跡は、ドワチャッカの古代文明を支えた二大大国のひとつ、ウルベア地下帝国のなれの果てであると言われている。ウルベアと同じ時代に栄えたもうひとつの大国ガテリア皇国との戦乱によって、両国は深刻な打撃を受け、それが原因で古代文明が終わりを遂げたとも伝えられている。アストルティアには、今でもウルベア通貨が出回っていて、当時のウルベアの勢力の大きさは、ドワーフのみならず、他国や他種族も知るところである。

 アディールたちは、ダストンを追って西へ西へと進んだ。困った城主ではあるのだが、だからといって見捨てるわけにもいかない。原野を進み、岳都を通り過ぎると、やがて大陸間鉄道の線路が見えてきた。線路はガタラから南に向かって延びていて、アディールたちが高架の下を通ったときに、ちょうど南向きの列車が通っていくのが見えた。海を越えた南には、プクリポの国プクランドがある。いずれ行くこともあるだろうと列車を目で追いながら、アディールは線路と直交してウルベア地下遺跡を目指した。
 遺跡の中は入り組んでいる上にところどころ壁や柱が倒れて道が塞がっていた。がれきの隙間をくぐって、アディールたちはダストンを探す。奥へ奥へと進むと、ダストンよりも先にポイックリンと出会った。
「あなたは!?」ポイックリンが声を上げた。
「まだ名乗ってなかったね。僕はアディール。ダストンさんを追って来たんだ。」
「私もちょうど同じだわ。さっき入り口であの人を見かけたの。捨てたはずの石板を持って、遺跡の奥へと走って行ったわ。」
 カルデア洞穴のときとは逆で、今度はポイックリンが、石板を持つダストンを追いかけていた。
「遺跡の奥には石板でしか開かない扉があって、そこには恐ろしいウルベアの古代兵器が眠っているの!お願いアディール!あの人を止めて!」ポイックリンが今にも泣き出しそうな声で訴えた。

 ポイックリンを加えて4人となったアディールたちは、最奥部の扉の前まで走り続け、そしてついにダストンを発見した。しかしそれに気付いたダストンは「邪魔はさせねえですよッ!」と叫んで急いで石板の封印を解いて扉を開いてしまう。
 扉の先には金属でできた機械の部品のようなものが積み上げられていた。「やっぱりガラクタの山でごぜえました!」と声を上げてダストンは喜び、そのひとつを持ち上げてぴょこぴょこ跳び上がって嬉しさを表現した。
「侵入者ハッケン。」
という声が聞こえた。抑揚のない機械音声。
「なんですッ!?」と、あたりを確認するダストンは、しかしそれでも手にしたガラクタを手放さない。
「排除シマス。」機械音が言うと、ガラクタの山だと思っていた機械の部品が、突然組み合わさって立ち上がった。
「ロボットだ!」アディールは咄嗟に叫んだ。「ダストンさん、それを放してっ!」ダストンが持つガラクタは、筒状の巨大金属部品。明らかにロボットの一部なのである。
「いやですッ!このガラクタだけは絶対離さねえですッ!」ロボットが迫っても、巨大なオノを振り上げられても、ダストンはその巨大筒を手放さないどころか、逆に体全体で抱え込んだ。
 オノが振り下ろされ、ダストンが弾け飛んだ。
 が、オノがダストンを弾き飛ばしたわけではない。ダストンを弾き飛ばしたのは「お父さん!」と叫ぶポイックリンだった。オノが降りかかる間一髪のところで、ポイックリンがダストンを救出していた。オノがかすめたのか、ポイックリンのマスクがちぎれて外れた。チリの素顔が晒されていた。
「おまえは!チリっ!?」ダストンはここにきて、やっとポイックリンの正体が娘であったことを知る。ダストンが手を離した巨大筒は、ロボットのほうへ吸い寄せられ、ガチャンと右腕部分に接続された。ロボットの右腕は大砲の形になっていた。
「お父さんは私が守る!アディール、そっちをお願い!そのロボットはウルベア技術の結晶、魔神兵よっ!」

 古代の機械兵は、動きこそ遅いがとてつもない破壊兵器だった。ドシンドシンと歩いては、巨大なオノを振り下ろしてアディールを襲う。幸い、ドドルのピオラのおかげでオノの直撃を受けることはなかったが、その衝撃で床や壁がえぐれて破片が飛び散り、アディールたちにがれきが降りかかる。
 自分の体ほどもあろうかという巨大ながれきが、ドドルをかすめた。ドドルは、それを必死にかわしたが、足をもつれさせて転んでしまう。それを見た魔神兵は、ドドルに向けて足をドシンと踏み出した。
「まずいっ!キサラギそっちを頼む!」アディールはそう叫んで、魔神兵の注意を引こうと懐に飛び込んだ。アディールが腕を振ると、硬い装甲と短剣がぶつかり合う金属音が響く。アディールが素早く後ろに飛び退くと、魔神兵が方向転換し、アディールのほうに向かってきたので「ひとまず成功。」と、ドドルとキサラギに目配せをした。
 とはいっても、相手は金属の塊。アディールの短剣では、なかなか致命打を与えられない。一方で、魔神兵のほうは、回転斬りや魔力砲でオノや大砲を振り回す。アディールはじりじりと押されていた。
 そんな状況を打開したのは、ドドルだった。
「アディール!離れて!」
 ドドルの声に、ばっとアディールが跳ね退いて魔神兵から離れた。瞬間、ドドルの鞭が地面を打った。「地ばしり打ち!」という叫び声のとおり、鞭の衝撃が電撃となって神速で地面を這う。その雷撃は魔神兵に届き、金属のからだ全体を伝った。魔神兵はしばらく停止したかと思うと、プスプスと黒煙を出してドシンを膝をついた。
「停止シマス。」
 そう言って魔神兵は動かなくなった。
「今のうちだよ!どこかにスイッチがあるはずだ!」ドドルが叫んだ。
 アディールはサッと魔神兵に駆け寄り、機械の体をまさぐった。背中に電源オフのボタンがあるのを見つけ、それを押すと、ピーという音がなり「電源オフ。分解シマス。」という言葉を最後に、魔神兵の体はバラバラと崩れ、またはじめのガラクタへと戻った。
 と、同時にアディールもどっと疲れて座り込んだ。「手強かったー。ドドル、やるじゃないか。」
「へへっ。おいらだって戦えるんだい。」ドドルは嬉しそうに人差し指で鼻の下をこすった。
 そうしていると「でかした、ポツコン軍団!ガラクタに戻ったですよッ!」と、さっきまでチリといたはずのダストンが走って魔神兵の部品の山に飛び込んだ。「こんなガラクタと出会えるなんて、わしは幸せ者でごぜえますッ!」大喜びだった。
「いいかげんにして、お父さん!」とチリの叫び声。「アディールたちが助けてくれなかったら、今頃どうなっていたか!」
「誰が助けてくれなんて頼んだですかッ!余計なことをしないでくださいッ!」ダストンはチリに背中を向けたまま言った。
「もうちょっとで死ぬかもしれなかったのよ!?」
「わしにはこのガラクタが大事なんですッ!このガラクタだけは誰にも渡さねえですッ!わしは自分の命なんかより、ガラクタのほうがずっとずっと大事なんですッ!わかったようなことを言わないでくださいッ!!」
「え?」
「おまえはわかってないです。自分の尺度でものを言ってほしくないでごぜえます。わしが大切にしているものが、おまえにはわからないのでごぜえます。だからおまえは、そんなに簡単にわしの大切なものを捨てられるのです。」
「お父さん?」
「お父さんなんて呼ばないでくださいッ!おまえはわしのことを何もわかってないのです。命より大切なものを捨てられた気持ちなんてわかってないのでごぜえます。」
「お父さん・・・わたし・・・」
「わしに子供はいねえです。」ダストンは一度も振り向かなかった。
「そうね。ごめんなさい。それほどまでにガラクタを大切にしているなんて思わなかった。」
 チリはそう言ってダストンに背を向けた。去りゆくチリにダストンはこう伝えた。
「おまえはおまえの大切なものを守ればいいです。」
「うん。」
 アディールはチリを追いかけた。「チリ、これでいいのかい?」
「いいの。私は私の大切なものを守れたんだから。あの人は私のお父さんなんだもの。」そう言ってアディールに振り返って>サインを作った。「これにて任務完了。華麗に退散ですわッ!」チリは出口へと走り去った。
 チリが出て行くと、それを追うわけではないだろうが、ダストンがガラクタのひとつを持ってよろよろと出口に向かう。アディールが手を貸そうとすると、ダストンが首を振って制止した。
「こんなにガラクタを作ってくれるなんて、アンタはただのデキのいいお人ですから、もうポツコンでもわしの助手でもないですッ。それから、キーエンブレムもアンタに差し上げるでごぜえます。役に立たないものと思って持っていましたが、どうやら意外と役に立つものらしいでごぜえますからねッ!それに、このガラクタが手に入ったから、あれはもう要らねえです。ポツコン1号に言って、勝手に持っていってください。」
 こうしてアディールは、黄色の勲章を手に入れ、ガラクタの城を後にした。


 アディールとキサラギとドドルの3人は酒場に来ていた。ガタラ原野には獣や鳥がよく生息し、水辺にはカニが繁殖しているため、岳都ガタラでは水陸空の産物が詰め込まれた郷土料理が好んで食べられている。アディールは、ポツコンの役割を終えたドドルを冥王打倒の旅に誘い、ドドルのほうも喜んでそれを受け入れた。
「そういえば、ドドルの話の途中だったね。」
「よろしければ、アグラニからの冒険の話も聞きたいですわ。」
 アディールとキサラギに促されて「うん。」と頷き、ドドルは話しはじめた。
「アグラニの町で事故があったんだ。岩が落ちてきて、それに巻き込まれたドドルっていうドワーフが、そこで命を落としたみたいなんだ。オズルーンだったおいらは、天の声に導かれるままに、そのドドルの体を使って生き返しを受けたんだ。」
 アディールとキサラギが、うんうん、と相槌を打ち、ドドルは話を続ける。
「生き返った途端、おいらルナナの下僕にされちゃったんだ。」
「下僕!?」アディールは唐突な話にすっとんきょうな声を上げた。
「ルナナとは誰ですの?」キサラギのほうは冷静である。
「うん。アグラニの神父さんの娘だって言ってたんだけど、いばってて、嫌な感じの人間。アグラニの救世主となってお父さん以上の英雄になるんだって、アハハハ!って笑ってた。あ、女の人だよ。」
 それで、ドドルを下僕に。よほど高飛車な性格なのだろう。しかし、下僕といいポツコンといい、ドドルの冒険は、やや不遇であるようにもアディールには思えた。
「ルナナは親方とケンカばっかりしてたんだ。ブロッゲン様にまでボーゲンだったんだ。」
 アディールは親方とブロッゲン様とボーゲンについて尋ねた。ボーゲンとは暴言のことだと、尋ねながら気付いてはいたのだが。
「ホッツィ親方は鉱山を掘るのを見る人だよ。みんなホッツィ親方の言うことを聞いて掘るんだ。ブロッゲン様はドワーフの賢者様なんだ。ブロッゲン様はいつも歩きながら眠ってて、代わりに杖が話すんだよ。ブロッゲン様はなにを言われても、ぐうぐう、って答えるんだ。」
 親方の監督のもと採掘作業をする。ドワーフの賢者ブロッゲンは常に眠っていて、杖が眠りの賢者の言葉を代弁する。そういうことだろう、とアディールは頭の中を整理した。
「ルナナは、今まで掘っちゃいけなかったところを掘ろうって言い出したんだ。災いが起こるなんて迷信なのに、それを怖がって新しいところを掘らないなんてバカだって言って。」
「それで親方とケンカしていたのね。ブロッゲン様はなんて言ってたのかしら?」
「ブロッゲン様はルナナを怒ったんだ。山の神に守ってもらってるのに、そんな自分たちの欲のままに戒めを破ってはいけないって。そしたら、ルナナも怒って。ブロッゲン様ともケンカしちゃったんだ。」
「それで、ルナナは掘ったんだね?」
「うん。おいらブロッゲン様と一緒に戒めの地に行ったら、ルナナたちはもうそこを掘ってたんだ。そしたら、どろどろなのが出てきて、おいらたちを襲って来たんだ。ルナナたちはすぐ逃げちゃって、おいらと親方とブロッゲン様が協力して、どろどろをやっつけたんだ。でも、どろどろはまだ死んでなくて、膨らんで爆発しようとしたから、ブロッゲン様がそれを止めようとして。だけど、ブロッゲン様が止められなくて、もうダメだっていうときに、勇者の光に助けられたんだ。」
「ブロッゲン様は無事だったのかしら?」
「うん。無事だったんだけど、旅に出て行っちゃった。勇者のこと調べるんだって。」
「ルナナはどうしたんだい?」
「わからない。そのあとどっか行っちゃったみたい。」
「それでドドルもアグラニを出たのね。」
「うん。ドワーフのときのドドルがね、世界を股にかけてとんでもないお宝を掘り出すんだ、って言ってたみたいなんだ。おいらはこの体をもらったお礼に、とんでもないお宝探しを手伝うつもりなんだ。それで、ガタラにやってきて、ガラクタ城に来たら、ポツコン2号にされちゃったんだ。」
 アディールはぷっと吹き出して言った。「宝探しに来て、ガラクタ城に行っちゃったんだね。」
「とんでもないお宝って、ガラクタの中に埋まってるかもしれないと思ったんだよ!」
 ドドルが口を尖らせたので、ごめんごめん、とアディールが言う。
「でも、そのおかげで私たちは出会えたのですわ。」
「そうだね。ドドル、よろしくね。」
 アディールが手を差し出すと、ドドルがその手をさっと掴んで嬉しそうに言った。
「アディール、おいら頑張るよ!」




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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】



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