小説ドラクエ10-17章(11) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

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「やはりピュージュでしたか。これなどよさそうですねぇ。」パルポスは魔道士の衣を体にあてた。
「そのようでしたわね。私はこれにしますわ。」マジカルスティックを振りながらキサラギが言う。
 装備品を整えたパルポスとキサラギは、ザーンバルフの眠る宿に戻った。包帯に包まれたザーンバルフが「よう。」と手を上げる。
「ザーンバルフさん、どうでしょうか?」パルポスの表情は険しい。
「手にな、力が入らないんだ。」ザーンバルフが手を握ろうとするが、拳にならない。「利き腕がここまでしか動かない。」
「もう少ししたらきっと戻りますわ。私たちも、それまでここで待ちましょう。」
 キサラギはそう言ったが「いや。」とザーンバルフが制するように手を出した。その手には力が感じられず、ぷるぷると細かく震えている。
「俺を置いて先に行ってくれないか?ベルンハルトのこともある。アディールたちには加勢が必要だ。」
「しかし」と言うパルポスをザーンバルフはまた力ない手で制した。
「ピュージュを見て思ったよ。あんな奴だけど、あいつは単なる怒りで自分のために戦ってるんじゃなかった。蜘蛛やイッドとは違う。あいつも、俺たちと同じように仲間のために戦っていたんだ。俺たちを巻き込んで殺そうとしたのだって、自暴自棄になって自爆したのとは違う。冥王のため、仲間のためだ。俺たちと同じなんだ。」
「ピュージュの最期は壮絶でしたねぇ。ワタクシ、あの表情は忘れられません。白化粧をしていても、彼の表情が悲痛なのはよくわかりました。」
「自分の心臓を犠牲にしてメガンテを使うなんてな。考えただけでもゾッとするぜ。」
「50年前の事件を調べ、5年前のことを調べ、アラグネについて調べ、そしてニコロイ王に近付き。周到に準備をしていたピュージュは、その段階では自分の命をかけるなどとは思っていなかったはずです。ですが、いざその場面になったときの覚悟はすさまじかった。鏡の向こうの悪魔神官の言うとおり、彼はまだ帰ろうと思えば帰れたわけですからねぇ。」
「ピュージュはリタ姫と同じことをしたのですわ。ニコロイ王を守るために、自分の命をかけて怪蟲アラグネを討ったリタ姫と。」
「はい。彼の気性もあるのでしょうが、やはり冥王や仲間たちとの繋がりは深いのだとワタクシは思います。」
「ピュージュは、そしておそらくベルンハルトも、冥王に操られていたわけじゃない。仲間や冥王への信頼や忠誠心で、自分から率先して行動しているんだ。」
「ピュージュは、嫌いと言いながらもベルンハルトの強さを認めていました。仲間としての信頼は厚かったということでしょうねぇ。」
「パルポスの機転で俺たちは事なきを得たが、やつらの仲間を想う気持ちは強い。そして、やつらの結束は固い。」
「ワタクシたちの結束が固くても、それだけで勝てる戦いではなくなるというわけですね。」
「そうだ。今アディールたちがベルンハルトと戦っているとしたら、やはり仲間の助けは必要だ。俺たちは結束がなければ勝てない。それに、やつらはヴェリナードの攻略にも入っている。ゆっくりしているわけにはいかないだろう。俺のことは気にするな。ニコロイ王にでも頼んで、なんとかしてもらうさ。」
「わかりましたわ。」とキサラギが言った。「また必ず会えますわよね?」
「当たり前だ。すぐに回復して駆け付けるさ。それと」ザーンバルフは壁に立てかけている棍を指差した。「まどろみの棍を持って行ってくれ。ああ、遺品みたいに扱うんじゃないぞ?俺が駆け付けるまで預かっておいてくれ。棍も扱えるんだろ?」
「ええ。」キサラギはその大きな棍を背中に背負った。「次に会う時まで、大事に使いますわ。」キサラギは頭を下げて宿を出た。
「ザーンバルフさん。ワタクシたちは一緒にレンダーシアの地を踏めるのですよね?」
「もちろんだ。レンダーシア劇場でピリッポにも会うんだからな。」
「はい。」パルポスもそう言って宿を出た。
 ひとりになったザーンバルフは、ベッドに寝転がって自分の手を見ながら歯ぎしりをした。「くそっ!俺の旅はまだ終わっちゃいないんだ!こんなところでっ!」そして力のない手で目を覆った。「くそっ!」


「思い詰めないといいのだけれど。」駅に向かいながらキサラギが言う。
「ザーンバルフさんは必ずまた戻ってきます。運命がワタクシたちを捕まえているのですから。」と言うのはパルポス。
「詩人のようなことを言いますのね。」
「以前、賢者エイドスにそう言われたのです。キサラギさんも前に言っていたじゃないですか。ワタクシたちが生まれ変わることはワタクシたちが命を落とすよりもずっと前から決まっていた、と。だとしたら、きっとこれももう定められたことですよ。ザーンバルフさんは戻り、ワタクシたちは冥王を倒す。」
「そうでしたわね。私たちは目覚めし五つの種族。賢者ホーローに言われましたものね。」
「そうですよ。それではワタクシたちは、ドルワームへ行きましょう。」
「ええ。アディールとドドルと、力を合わせて戦いに。」
「はい。ザーンバルフさんの分もワタクシたちが。」
 ふたりはドワチャッカ行きの列車に乗り、カミハルムイの地を後にした。





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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】




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