「みんな、散るんだ!」アディールの言葉で4人は素早く四散する。4人は冥王を取り囲んだ。しかし、それは、ベリアルとガラトアに背を見せる、ということでもある。
「余計な手出しはするなよ?」という冥王の言葉がなければ、アディールは、冥王とガラトアとベリアルに、逆に囲み込まれていることだろう。
冴え渡る冥界の大鎌をドドルのピオリムのおかげで必死にかわしながら、アディールは鎌の内側へと潜り込み、王家のナイフで横薙ぎに斬りつけようとする。が、冥王の動きもまた素早く、小回りの利くアディールの短剣ですら冷笑するネルゲルを捕えることができない。その間にも、一撃でも受ければ致命傷を負ってしまうであろうほど鋭く振られる冥王の鎌は執拗にアディールを追い続ける。それを防ぐべくパルポスは、ずっとヘナトスを使い続けているが、冥王の鎌を鈍らせることはできていない。ドドルもその素早い冥王の動きを封じようとクモノの陣を描くものの、空中を滑り続け、着地をしない冥王が陣を踏むことはなく、もちろんバナナの皮を踏むこともない。
棍を持つキサラギもまた、浮かんでいる冥王の足を払うことができず、素早い冥王の動きを止めることができないでいる。せめて自分を斬りつけて来たときに反撃をしようと天地の構えを取ってはいるものの、フフンと冷笑する冥王はそれに鎌を向けることはなく、カッと目を見開いてキサラギをひと睨み。キサラギはその冥王の瞳に意識を奪われ、立ったまま眠るように目を閉じて動かなくなった。
「くっ!」とアディールは冥王から目を切り、キサラギのほうに走る。手の甲でキサラギを叩き、目覚めたキサラギに「冥王の目を直視しちゃダメだ!」と叫ぶ。と、同時にがくんと崩れ落ちるアディール。冥王の鎌に背中を斬られていたのだ。
「無防備にも程があろう。」
そう言う冥王の冷笑を止めることはできず、目を覚ましたキサラギはアディールを回復させることで手いっぱい。アディールは立ち上がることができたが、冥王の鎌が再び振り下ろされる。
それを庇うようにキサラギが棍で鎌を受けようとするが、冥王の鎌の切れ味は、キサラギが思うよりもずっと鋭かった。鎌はザーンバルフから預かったまどろみの棍を真っ二つに斬り裂いていた。キサラギが一瞬呆然としたときには、冥王はすでに次の動きへと入っている。背中から攻撃を仕掛けるつもりだったドドルとパルポスのほうにクルッと振り返ったかと思うと、その動きと連動してぐるんと鎌が水平に半円を描く。鎌に触れてもいないのに、その衝撃でドドルとパルポスは後方へと弾き飛ばされて地面に背中をついた。
それを庇うようにキサラギが棍で鎌を受けようとするが、冥王の鎌の切れ味は、キサラギが思うよりもずっと鋭かった。鎌はザーンバルフから預かったまどろみの棍を真っ二つに斬り裂いていた。キサラギが一瞬呆然としたときには、冥王はすでに次の動きへと入っている。背中から攻撃を仕掛けるつもりだったドドルとパルポスのほうにクルッと振り返ったかと思うと、その動きと連動してぐるんと鎌が水平に半円を描く。鎌に触れてもいないのに、その衝撃でドドルとパルポスは後方へと弾き飛ばされて地面に背中をついた。
アディールたちは、攻めるどころか、後手後手に回って、冥王の動きに翻弄され続けていた。
「さて。」冷笑というよりは呆れ顔の冥王。「もう少し楽しめると思っていたのだが。」と、攻撃の手を止め、アディールたちからすぅっと離れて、空中を滑ってもとの玉座へと戻った。アディールたちがはじめに見たのと同じように足を組み頬杖をついている。「興が醒めた。お前たち。もうよいぞ?」と冥王が言うと「は!」「御意に!」とベリアルとガラトアが、やっとか、という顔でアディールたちの前にはだかった。その表情や動きを見ると、やっと出番が回ってきたのか、ではなく、やっと冥王の興が覚めたのか、といったところであろう。王が戦っているのに、臣下の自分たちが見ているだけでよいのか、という忠誠心がその安堵感を生んだのかもしれない、とアディールには見えた。
「お前たちをここまで来させただけでも、私の罪はいかなる闇夜よりも深いというのに、それを今一度お前たちを倒す機会を与えられたのだ。」とガラトアが言う。感謝してもし足りない、とでも言わんばかりに。
そしてグフフと低い笑い声を上げながら、三つ又の槍をぐるぐると回して歩み寄るベリアル。
冥王には歯が立たないばかりか、今その臣下であるとはいえ2体の魔物と対峙することになっている。冥王は玉座で頬杖をついてはいるが、いつ気が変わって襲って来るのか想像もつかない。アディールたちの緊張感は否応なく高まらせられた。今アディールたちが生きているのも、冥王の興が醒めたという理由にすぎない。命拾いをしたアディールたちだったが、苦しい局面を逃れることができたわけではない。
しかし、どちらにしても冥王とベリアルとガラトアをすべて倒さなければいけないことには変わりない。冥王が斃れそうになっても、それをベリアルやガラトアが身を呈して守ることが目に見えているからだ。冥王軍のネルゲルへの忠誠心は計り知れない。ベルアルもガラトアも、冥王を守るためには命を捨てるだろう。ピュージュがそうであったように。シルバーデビルがそうであったように。
ならば、今この状況はチャンスだと考えたほうがいい、とアディールは思う。ベリアルとガラトアの戦いが終わるまで冥王はただ見ているかもしれないが、冥王が苦しい戦いをしていればベリアルとガラトアが参戦することは疑いない。この状況なら2体を相手にすれば済むが、逆の場合なら3体同時に戦わないといけない可能性があるのだ。現状は苦しいが、冥王が油断している今なら状況は好転している。アディールはそう考えた。
態勢を立て直したアディールたちと、いま参戦したベリアルとガラトア。仕切り直すように再び戦端が開かれた。
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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