小説ドラクエ10-19章(9) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

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 ナルビアに戻ったときに喜んでくれたのは、リリオルだけではなかった。イッショウが「よくやった、錬金名人。」と感無量の表情。
「錬金名人、よりもいい名前が思いつかねぇから、それでカンベンしてくれよ。とにかく、お前ほどの錬金術師はいねぇ。」
 ウマのホネ、宿なし、イソーローなどと呼んでいたイッショウが、イッチョ前だと認めるようになり、そして錬金名人と言うようになった。それでいて、それよりもいい呼び名をつけようとしているイッショウを見て、リリーネははじめの頃を懐かしくも思い、嬉しくも思った。つい最近ナルビアに来たばかりなのに。ほんのちょっと前まで全く認めてもらっていなかったのに。
「もう俺が教えてやれることはなにもない。よくがんばったな。」
 イッショウはリリーネの肩をポンと叩いた。「俺はお前を誇りに思うぜ。さあ、金の祠で、お宝を確認して来い。」
「うん。ありがとう、イッショウさん。いろいろ教えてくれてありがとう。」
 リリーネの言葉に「照れ臭せぇこと言うんじゃねぇよ。それに、今生の別れみたいにも言うんじゃねぇ。」とイッショウは言った。

 宝を持って見せに戻るね、と言ってナルビアを出たリリーネは、しかし、7つ目の祠、金の祠で真実を知ることになった。
 今まで冒険は、作られた箱庭の中の冒険であったこと。
 強くなったと思っていたのは、リリーネとは別の意思によってそうさせられていたこと。
 今まで倒してきた番人たちは、単なる様子見の手先にすぎなかったこと。
 金の祠には丸々と太った竜のような巨大な敵が待ち受けていた。だらりとだらしなく垂らした長い舌と、青い巨体に飾り程度の小さい羽根。2本足と太い尻尾で立ち、両手には巨大な棍棒が握られている。
「ついに我が前に現れたか。」と巨体の竜が言った。「セルゲイナスの呪いすら退けるとは、類稀なる錬金術師の才能を持つ者よ。」
 魔物はバルザックと名乗った。究極の錬金術から更に進化した秘法によって自らの姿を作り変えたのだと言う。
「私はこれまで多くの錬金術師を喰らい、その知識と技術をこの身に宿してきた。だが、喰うだけの価値のある錬金術師はなかなか現れぬ。ゆえに、私は自ら錬金術師を育てることにした。喰うに値する術師をだ。」
 魔物の赤い目がリリーネを品定するようにぎょろぎょろと動く。ライオンジュエルを持たせてアームライオンを白の祠に閉じ込めたのも、デーモンジュエルを使ってセルゲイナスを灰の祠に召喚したのも、ゴールドジュエルから錬金されたゴールドマンに黒の祠の番人をさせたのも、すべてはその3つのジュエルを揃えて、この金の祠の鍵を手にすることができるかどうかの試験。すべての番人を倒し、その3つの素材から鍵を錬金できるかどうかの試験。そして、それこそが、自分が喰らうに値するかどうか、という品定め。
「この地にある祠は、未熟な錬金術師にチカラをつけさせるために私が作り出した巨大な錬金釜だったのだ。そして、お前は、その素材だ。そうとも知らずお前は腕を磨き続け、こうして私の前に現れた。残念だが・・・いや、嬉しく思え。ここで我が錬金術のチカラの一部となることを!」
 そこまで言って、バルザックは棍棒を振りかざした。
 リリーネたちは、その一撃をサッと避ける。
 単純な攻撃なら、これまで何度も経験している。だけど、その口ぶりからは、それだけではないはず。リリーネたちは目を見合わせて、ササッと得意の陣形を取った。バルザックの正面にジャネット、それよりもずっと後ろにミミナとモモナ、そして、その中間、どちらにでも動ける位置にリリーネ。
「ズッシード!」
 リリーネが唱えた呪文でジャネットが鋼鉄のように重くなる。バルザックが、リリーネを喰らおうにも、その前に立ちはだかるジャネットを押し退けることができない。そうしている間にも、ジャネットはバルザックを斬り付け、後方からはミミナのメラが飛んで来る。
「グフフ。こうでなくてはな。これは喰らい甲斐があると言うもの。」
 バルザックは息を吸い込み、そして凍えるほどの猛吹雪を吐き出した。直線状に並んでいた4人に吹雪が吹き抜ける。
 リリーネとモモナは回復のホイミで手いっぱいになる。
 ジャネットの「直線はまずい!みんな散るぞっ!」という掛け声で、4人は4方へと散らばり、今度はバルザックを中央に囲い込むように位置取った。
「これで、吹雪の被害は小さくなるわ!」
 ミミナはそう言ってバルザックに駆け寄り、イオを唱えて光の爆発を起こした。その直角方向からはジャネットの剣がバルザックの巨体に斬り込む。
「グフフ。さすがさすが。なかなかどうして。しかし、吹雪だけだと思ってもらっては困る。」バルザックは、グルンと1周回転して、その太い尻尾をブンと振った。4方から取り囲んでいた4人は、その尻尾に叩かれて4方へと吹き飛ばされた。「さてさて。遠くに叩き飛ばしてしまったな。これでは私が歩かねばならぬ。お前たちのほうからやられに来てくれるとよいのだが?」
 誰も近寄って来ないのを見て「それもそうか。死にに来てくれるわけもないな、グフフ。」と笑う。「では、私から殺しに行かねばならぬが、さて誰から殺してやろうか。」バルザックはモモナのほうを向いて「小うるさく回復されるのも面倒だからな。まずはお前だ。」と言った。「私は好物を最後に食べると決めているのだ。最後に喰らってやるぞ、錬金術師よ。お前はそこで、仲間がくたばるのを見ているがよい。」顔ではなく、声だけがリリーネに向けられている。
「お姉ちゃん!」と叫ぶのは妹のモモナ。「行かせない!ラリホー!」ミミナとは対角線、バルザックの間後ろからモモナはラリホーを唱える。
「フン。効かぬわ。」とはじめは言っていたバルザックも、2度3度と唱えられるうちに、眠気が催してきたらしく、足取りが重くなる。「グウ、小賢しい奴め!」バルザックはぐるりと反転して僧侶ミミナに背を向けて、ラリホーの主モモナのほうへと足を進めはじめた。「まずは僧侶をと思っていたが、どうやらお前のほうが小うるさいらしい。」
 その間にもモモナはラリホーを唱え続け、巨大棍棒の射程圏内に入ろうかというところで唱えた5度目のラリホーにして、ついに巨体の足が止まる。
「小賢しい!小賢しいわ!」
 バルザックが怒号してグオオ!と咆えた。その衝撃波がモモナを吹き飛ばし、石柱に叩きつけられたモモナはがっくりと柱にもたれたまま動かなくなる。と、ラリホーの効果が失われ、バルザックの足取りが戻った。「ううぅ」というモモナのうめき声に「まだ死んでいなかったか。」と、再びバルザックが足を向けた。
 そして、モモナに棍棒を振り上げたところで、この戦いは決着した。
 リリーネのヒャダルコがバルザックの右腹を突き刺し、ジャネットのドラゴンスラッシュが左腹を斬り上げている。降り上がった棍棒は、モモナにではなく、バルザックの背中側へと落下した。バルザック自身の体とともに。




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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】



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