小説ドラクエ10－14章(7)

　窓から太陽の光が差し込む中、ウェディの少女が椅子にちょこんと座り、長身の青年が少女の長い髪を梳いている。不器用な櫛使いで、黄金色の少女の髪はところどころこんがらがっている。

「どうだ、これでいいか？」

　青年がそう言うと「うん、ありがとう。」と少女は答えた。「髪ぐらい梳いていかないと子供たちに笑われちゃうからね。」

「おまえも子供だろうが。」青年はぶっきらぼうに言った。

「私は子供じゃないもん。ジュニアちゃんのお母さんだもん。」少女は椅子から降りようとトンと足をついた。しかしバランスを崩してよろけてしまう。少女の両腕は、力なくぶらりと垂れ下がっている。

「おい、気をつけろよ。」

「うん、ごめんね。」

「バカ、謝るな。」

「うん。ありがとう。」

「おい・・・」

「うん？」

「その・・・なんだ・・・がんばれよ。」青年は照れ臭そうにバンダナの後ろを掻いた。赤いバンダナの下からは、長い金髪が覗く。

「ありがとう。いってきます。」

　少女が出て行った後に、家のドアがノックされた。青年が扉を開くと、郵便配達員が小包を差し出す。

「お届けものです。やあ、あの子は感心ですなぁ。」配達員は言った。「こんな境遇に負けずに、子供たちに僧侶の教えを説いている。」

「あいつのは、そんないいもんじゃねえよ。」

　赤いバンダナの青年が小包を受け取りながらぶっきらぼうに言った。「あいつだってまだ勉強中なんだよ。」
　青年は煩わしそうに配達員を追い返し、小包を持って教会へと歩いた。

「おい、おまえ宛てになにか届いたぞ。」

　青年が言うと、教会の中から少女が走って出てきた。ぶら下がった手を動かせず、速くは走れない。

「なんだろう？」青年に駆け寄った少女は、小包を見た。

「開けるぞ？」と青年は聞き、うん、と少女が答えるのを待ってから小包を開いた。

　中から細長いビンと便箋が出てきた。ビンの中の液体がちゃぷりと揺れる。青年は便箋を開いた。

「なんて書いてあるの？」と少女が聞き「自分で読め。」と青年は開いた便箋を少女に向けた。

「あ、アディールお兄ちゃんからだよ！」少女の顔は喜びに満ちた。

「ほう。それでアディールはなんて？」

「ソーミャへ。旅の途中で世界樹の雫というものを見つけたよ。もしかしたら、君の手も治るかもしれない。よかったら使ってくれないか。ヒューザもいるなら、よろしく伝えておいてくれると嬉しい。アディール。」

「あいつめ。」青年はぶっきらぼうに鼻で笑った。「ま、試してみるのもいいかもな、世界樹の雫。」

「うん。」と少女が言ったので、青年はビンの蓋を開けて中の液体を少女の両手にふりかけた。

「どうだ？」

　少女の指がぴくりと動いた。

「ヒューザ兄ちゃん！ちょっと動いたよ！」

　少女は叫んだ。そしてまた、んー、と力を入れて、ゆっくりと右手を握っては開いた。

「ヒューザ兄ちゃん！ヒューザ兄ちゃん！」

「バカ。泣くんじゃねえ。」

「えへへ。うーん。ほら、左手も！」少女は両手を握って青年のほうに向けた。「見て見て！」

「そうか、よかったな。オレは先に帰ってるぞ。」

「ヒューザお兄ちゃん、どうしたの？」

「どうもしねえ。目にゴミが入っただけだ。」

　青年は去り、喜ぶ少女の周りに、教会の中から子供たちが出てきて集まった。子供たちは、よかったねソーミャ先生、おめでとうソーミャお姉ちゃん、と口々に言った。

「うん。ありがとう。」

　少女の手は、しっかりと便箋を握っていた。

カインの冒険日記