小説ドラクエ10-19章(7) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

ページをめくれば、そこには物語がある。

      読むドラゴンクエストの世界へようこそ。


 緑の祠から戻ったリリーネは、灰の封石をリリオルとイッショウに見せた。
「これで、灰の祠に行けるよ!」
 封石から錬金された灰の祠の鍵を持って、リリーネはイッショウの家を出た。
 リリーネが走って町を出ようとしたときに「あの!」と若い女性の声で呼び止められた。
「若い錬金術師の子がいるって聞いたんですけど、あなた知りませんか?」と女性は言った。
「えっと、それって私のことかなぁ。」と首を傾けるリリーネ。
「えっ!あなただったのね!あの、妹を助けるために、手伝ってほしいんです!」と女性は懇願した。モモナと名乗る女性は言う。妹はいつも命の危険にさらされていて、いつもは自分が助けているのだが、今度は自分のチカラだけでは間に合わない、と。
「どんな魔物に襲われているの?」とリリーネが問う。「私が相手にできるような魔物だといいんだけど・・・あ、でもジャネットさんもいるから、きっと大丈夫ね。」
 リリーネが言うと、ジャネットも親指を上に向けている。
「いえ、魔物・・・と言うより、呪いでしょうか。いえ、やっぱり魔物なのかも・・・。あ、いえ、でも、魔物を倒してほしいということではないんです。ホーリーランスを3本調達できれば・・・。」とモモナ。
「3本!?」リリーネも驚くが、ジャネットの驚きはもっと大きかった。「まさか、3刀流・・・いや3槍流なのか!?私は戦士として、その戦いに興味がある。私もその魔物と戦いに連れて行ってはもらえないだろうか。」
 リリーネの見たところ、モモナはか弱い女性のように見える。3本どころか、1本の槍を振るうのだって大変なのではないか、と思う。
 リリーネの予想は的を射ていて、モモナは戦うために使うのではない、と言った。「私は、聖なる儀式で、それを封印しようと思っているのです。そのためにホーリーランスが3本必要なのですが、この町には売ってなくて・・・。それで、錬金術師さんを探して、それで作ってもらおうとしていたのです。材料費と報酬はお支払いしますので。」

「えっと、レイピアと鉄鉱石と清めの水と・・・あ、でもレイピアは売ってないから、銅の剣と・・・えっと。」
 レシピを見ながら買い物に回るリリーネと、その荷持ちのジャネット。ひととおりの素材が揃ったところで、イッショウの家に戻り、錬金釜でポンっと3本の槍を作り上げた。
 槍を渡すと、モモナは「ありがとう!これで妹を助けることができるわ!私はさっそく儀式の準備に入ります。これはお礼です。」と喜んだが、リリーネが受け取ったのは、材料費と1枚の紙。紙には「必要あれば、私も戦いを手伝います。僧侶です。」と書かれてあった。
「・・・用心棒の無料券、ってところか?」と鼻で笑うジャネットは、地味なおかしさを感じたようで、何度も何度も鼻で笑っている。
「お金じゃ・・・ないんだね。」とリリーネも苦笑い。「でも、私たちの旅を手伝ってくれるのって好都合よね!」すぐに前向きな姿勢を見せ「儀式終わったら一緒に来てもらおうっと。」とぴょんと跳び上がった。

 儀式を待つ間に、少し風に当たる、とジャネットが言うので、ふたりは海岸へと足を向けた。すると、砂浜で、なにやら「えいっ!えいっ!」と叫んでいる女性がいた。
「うーん。なかなかうまくいかないなぁ。やっぱりこれじゃダメなのかなー。」と女性はひとり言を言っているようだった。
「あの?」とリリーネは声をかけてみた。「何をしてるの?」
「あ!あなた知ってる!錬金術師の子よね!私、召喚の魔法を覚えようと儀式してるんだけど。なかなかうまくいかないの。本当は小悪魔のナイフで魔法陣を描かないといけないんだけど、手に入らなくて、代わりに銅の剣を使ったの。でも、やっぱり上手く行かなくて。」女性はうなだれるように下を向いている。「あ、でも!」と急に顔を上げたかと思うと「成功したことがないわけじゃないのよ!?たまには成功するんだけど、でも、そういうときに限って、いつも邪魔が入っちゃって。邪魔と言っても、人とか魔物とかじゃなくて、風が吹いたり雷が落ちたり。せっかく召喚できても、それで吹き散らされちゃったりして。・・・ツイてないんだとは思うんだけど、でも、やっぱり会得したいの。もし、あなたが小悪魔のナイフを作ってくれたら・・・ううん、お礼をするから作ってくれないかな。」とまくし立てるように言った。

 結局、リリーネはその頼みを引き受けることにした。モモナの儀式を待つ必要もある。すぐに次の祠に旅立つ必要もない。リリーネとジャネットは、また町を走り、錬金釜をポンと言わせ、召喚師の女性に小悪魔のナイフを届けた。
「ありがとう!これ、お礼ね!」と、お金を手渡す。そして1枚の紙が添えられている。お金は素材代だけしかなく、紙には「誘ってくれれば、私も戦いを手伝うわ。魔法使いです。」と、書かれていた。
「これ・・・また無料用心棒券。」と、ジャネット。
「もしかして、モモナさんの妹って・・・」
 リリーネがそう言うときには、すでに召喚の儀が始まっていた。
「さあ、小悪魔よ!召喚されて私の召し使いになりなさい!!」召喚師の言葉によって空が一部だけ暗くなり、魔法陣から何かが出てこようとしている。とても邪悪な気配がする。
 と。
 天から3本の光が降り注ぎ、魔法陣に突き刺さる。すると、魔法陣が消滅し、出現しかけた邪悪な小悪魔は、サッと消え去った。
「ああー!また!」と召喚師の女性は喚く。「いつもこうなの!成功したときに限って!」
 天から注いだ3本の光をよく見ると、ホーリーランスだった。やっぱり、とリリーネとジャネットは頷いた。
「あの、あなたの名前を教えてくれる?」とリリーネが聞いた。
「なんで?私はミミナだけど?」
「あなたのお姉さんはモモナさんでしょ?」
「そうだけど?」
「私、あなたを助けるようにってお姉さんに協力したの。」
「え!じゃあ今のって?」
「私が作ったホーリーランスなの。」
「ええ!じゃあ、いつも召喚のときに邪魔が入るのって・・・」
「きっと、あなたが悪魔を召喚して身を滅ぼそうとしているのを止めようとしたんじゃないかな。」
「そんな・・・。モモナお姉ちゃんが私のために、いつもそんなことをしてくれてたなんて・・・。」
 がっくりとうなだれるミミナを見て、なんと声をかければいいのかと迷っていると「まいっか!」とミミナは明るい笑顔で言った。
「また召喚しようとしても、どうせお姉ちゃんが邪魔するんだろうし。それより、ねえ。私を連れて行ってよ!」
 さっきまでがっくりとしていたとは思えないほど元気よく言うミミナ。立ち直りが早すぎることに驚きながらも、リリーネはミミナを仲間として歓迎した。
「もうホーリーランスが降って来たってことは、モモナさんの儀式も終わったってことだよね。」
 モモナのもとに走るリリーネと、それに続くジャネットとミミナ。
 そして、すぐに仲間になったモモナを加えた4人は、町を出て灰の祠へと向かった。
 途中「心配したんだから!」「ゴメンねお姉ちゃん。」というミミナとモモナの会話が聞こえてきたが、リリーネには、もうどちらがミミナでどちらがモモナかわからなくなっていた。どちらかが僧侶で、どちらかが魔法使いであることはわかっている。途中出会う魔物たちを相手に「ムムナさん攻撃を!」と言えばミミナがイオを唱え「メメナさん回復を!」と言えばモモナがホイミを唱えている。名前はあまり重要ではないのかもしれなかった。





続きを読む

前に戻る


目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】



ドラクエブログランキング


読者登録してね