小説ドラクエ10-15章(2) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

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「王!どうかお考え直しください!魔瘴を退けたとしても、王を失えば我が国はおしまいです!」
 王の間での声が、廊下にまで響いていた。何事か、とアディールたちが王室に駆け込んだ。
 顔色の悪いプクリポの王が玉座に座り、その横で腰の曲がった人間の老人が王に必死に話しかけていた。
「イッドよ。魔瘴に触れたこの身は、もう長くはもたぬ。最後くらい好きにさせてくれ。」と、やつれた顔で王が言う。頬はこけ、細い目が落ちくぼんでいる。立派に蓄えられたはずの口髭も、力なく重力の為すがままに垂れ下がっていた。
「確かにこの大陸は魔瘴に滅ぼされようとしていますが、しかし王が儀式をしなくても、王家の者はもうひとりいるではありませんか。」イッドと呼ばれた腰の曲がった老人が進言する。頭髪は禿げ上がり、眉毛も口髭もあご髭も真っ白で、整えられた形跡もなくぼさぼさと伸び放題。まぶたが半分下りてきていて、その表情は眠たそうにも見える。
「何を言うか。王子はこの国の未来。死を待つだけのわしが儀式にふさわしい。この命ひとつでプクランド全土を救えるのなら安いものよ。」
 王は拳で胸を叩いて見せたが、自分の手で叩いただけでもゲホゲホと咳き込んでいる。
「その必要はありません。」
 部屋の入り口から声がした。アディールが振り向くと、端整な顔つきのプクリポがアディールの横を通って王のほうに歩いていく。先に行ったと思っていたが、どこかでアディールたちが追い抜いていたようである。リュートがひょこひょこと王の前まで進んだ。
「おや、これはこれはインチキ予言者のフォステイル殿ではありませんか。」イッドが憎らしげに吐き捨てる。「今度はどんな予言を聞かせてくれるのですかな?」
 フォステイルはむっとした顔をして「運命はあらかじめ定められたもの。ぼくの意志が選んでいるのではありません。」とイッドを見据えた。
「それはそれは。」イッドはニヤニヤと、しかし蔑むような目で言う。
 フォステイルは、それを無視して王のほうに向き直った。「プーポッパン王、あなたが塔に行くのは無理です。それよりも、アルウェ王妃が残したノートを探すほうが賢明です。」
「はっ。そんなノートが実在するのですかな?いかなる願いをも叶えるという伝説のノートが。」
 フォステイルはイッドのほうを見ずに王に言う。「この国のどこかにそのノートが眠っています。ノートがあればこの国が救われるのです!」
「そんな物はない!」しかし王は怒号を上げて玉座から飛び降りた。「出て行け。もう現れるな!」フォステイルを睨んだまま、指先は入り口を指していた。
 フォステイルは、それ以上言葉を口にすることなく、一礼してから王室を去った。

「おや。これは失礼した、旅の者。」フォステイルが去って、やっとアディールたちに気付いた王が言った。「話を聞いておったのかな?わしはこの国の王プーポッパン。わしはプクランドを守る儀式をするために、儀式の間へと行かねばならぬ。しかし、どうやら儀式の間には魔物が棲みついているようなのだ。もしその魔物を倒してくれたのならば、この国のキーエンブレムを褒美としよう。」
 アディールとしても、魔物を倒してキーエンブレムを手に入れてプクランドが救われるのならば協力を惜しむつもりはない。しかし、真っ向から衝突するプーポッパン王とフォステイルのどちらの方法がプクランドを救う方法なのか、アディールにはそれを判断することができない。
「もし、それに協力してくれるというのであれば、続きはそこのイッドに聞いてくれ。」
 王がそう言うと、老学者イッドが「ではついてきてください。」と、王室を出てアディールたちを先導する。腰が曲がっているわりには、すたすたと流れるように歩いていく。
「王はご自分の儀式でプクランドを守ろうとしておられる。」廊下を進みながらイッドが話し出した。「しかし、見てのとおり王の体は魔瘴に侵されております。このまま儀式をすれば命が危うい。私は若くて元気な王子が儀式をすべきだと王に進言しているのですが、なかなかお聞き入れもらえません。旅の人、どうか王にそのように言ってはもらえませんかな。」
「ラグアス王子は何と言っているんですか?」アディールが尋ねた。
「王子は部屋に籠って出て来ないのです。私たちは王子に会うこともできません。王子も王子だ。このような事態だと理解しておられるのか。」

 やがて、イッドとアディールたちは城の兵士詰所に着いた。部屋の中にはプクリポの戦士たちが待っていた。
「イッド殿。出番ですかな?」プクリポのひとりが聞いた。
「みなさま、お待たせしましたな。アディール殿たちに来てもらい、戦力も整いました。これより、キラキラ風車塔内部の儀式の間へと行っていただく。ここには傭兵のみなさまに集まっていただいたが、私の部下の城就きの兵士から2名を選抜してすでに風車塔に待機させております。風車塔に揃い次第、兵士たちの指示のもと魔物討伐を願います。それでは、解散。」
 イッドがそう言うと、参集していたプクリポたちはばらばらと散った。





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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】


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