ランドン山脈の裾野を踏みしめて、アディールたちはやっと打倒冥王を果たした実感が湧いてきた。
「さっきは、喜ぶ暇もなかったですものね。」とキサラギ。
「急に大きな黒い手が追いかけてきたもんなー。」とドドルも言った。
「それよりも」話に乗るかと思っていたザーンバルフが、話題を変えるように手を上げた。「さっきのことだが、レンダーシアに行くってのはどういうことだ?」
「アディールさんだけがもとの体に戻ってしまいましたねぇ。ワタクシたちは人間のままなのに。」
パルポスのその言葉で、各々がそれぞれを見合わせる。ワインレッドのオーガ、ザーンバルフ。紅色の髪の人間の少女、キサラギ。くりりとした目のあどけないドドル少年も人間の姿。長身長髪の学者風の青年、パルポスも人間の姿をしている。そして、今またウェディの姿を取り戻した、ネイビーブルーの髪の青年アディール。
「うん。」とアディール。「神殿から飛び降りた後ね。落ちている途中、僕の中のウェディのアディールと約束したんだ。ウェディの両親を見つけるってね。だからまた体を貸してほしいってね。」
「それがレンダーシアですのね!?」「わかったのか、アディール!?」キサラギとドドルがほぼ同時に言った。
「うん。ウェディのアディールは言った。両親と一緒にいたのは、人間の国だったんだって。」
「それでレンダーシアってわけだな!」納得顔のザーンバルフ。
「冥王が斃れて、レンダーシアの霧も晴れているのかもしれませんねぇ。ワタクシも、ピリッポとの約束があります。レンダーシアの劇場で会おう、と。」長身のパルポスが言った。
「もちろん、それは俺も同じだ。」とザーンバルフも。
「おいらも、ドワーフのときのドドルのお宝探しの夢を叶えてあげたいぞ!レンダーシアでお宝を見つけに行きたいぞ!」
「私も、勇者の光について知りたいとずっと思ってましたの。」とキサラギ。「私は世界の理の一部である、運命や生死について少しだけわかった気がしますの。光の河のことはまだよくわかっていないのだけれど、でも、レンダーシアにいるはずの勇者のことも知りたいと思いますわ。」
「キサラギ。光の河について、だけど。僕はこう思うんだ。」アディールは、今まで旅をしてきた中で、ひとつの自分なりの答えを見つけていた。「ベルンハルトに会って僕たちは知った。聖なるチカラは邪のチカラに変えられるのだと。イッドも同じことをしようとしてた。逆に、ドルワームのドゥラ院長は、魔瘴石から聖なるチカラを持つ太陽の石を作り出してもいたんだ。だから、つまり正と負のエネルギーは表裏一体なんじゃないかと思うんだ。一歩間違えれば、逆のチカラに変わってしまう。」
「そう言えば、光の河のことを恐れる人もいれば、病の治療に役立つ話を聞いたこともありましたねぇ。」
「そう。きっと、聖なるチカラとして使うこともできるけど、悪用しようとすれば、そういうチカラとして使うことができてしまう。そういうエネルギー流体なんじゃないかと、僕は思ったんだ。」
「もしかしたら」と今度はザーンバルフ。「魔瘴や闇の根源と似たようなものなのかもな。姿なきエネルギー体。」
「うん。そうだと思う。光の河自体に明確な意志があるわけではない。どういう理由で発生したのかはよくわからないけど、ただ、そのチカラを僕たちは利用してるだけなんだ。」
「良く使うか悪く使うかはワタクシたち次第というわけですねぇ。」
「発生原理は、学者先生たちに任せようぜ。」とザーンバルフ。「カミハルムイにいた、なんだっけな、あの若い博士。」
「ハネツキ博士ですわね。」
「きっと解き明かしてくれると、ワタクシは思いますねぇ。」
「まぁ、でも僕たちが知りたいことは、そういうことではないよね。」
「アディールの説明で、私は納得しましたわ。」謎を投げかけたキサラギも、それで十分だという表情。
「ともあれ、みんなレンダーシアに行く理由があるってわけだな。」ザーンバルフがそうまとめた。
5人はランドンの雪を踏み鳴らしながらグレンへと引き返す。
向かうはレンダーシアの玄関口、港町レンドア。
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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