小説ドラクエ10-15章(9) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

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 王子の後を追おうと出口へ向かうと、ラグアスと入れ替わりのように黒ローブの男が手を叩きながら儀式の間に入ってきた。
「見事見事。やるではないか、アディール。」
「ベルンハルト!」
「プクランドが滅びると思って息を引き取ったイッドも、さぞ無念であることだろう。しかし、そんなことはどうでもよい。イッドが死のうが生きようが、プクランドが滅びようが支配されようが、そんなことはどうでもよいのだ。私たちの目的は魔瘴なのだからな。」
「イッドも・・・イッドをも利用していたというのか!?」
「別に捨て駒だと思っていたわけではないぞ?言っているだろう?協力だ。どちらが部下でどちらが頭だという関係ではない。イッドとも協力関係。冥王とも協力関係。私は私だ。誰の部下でもない。誰の指示で動いているわけでもない。イッドが魔瘴を吸い出してくれそうだったのでな、そこに先んじて魔瘴石を投資してやったのだ。それに、イッドは聖なるチカラと邪なるチカラを転換させようとしていたのでな、それに関する情報を少しくれてやった。おかげで、魔瘴をそこそこ吸い出すことができた。しかし吸い尽くせはしなかった。今回は痛み分けというところだろう、アディール。よい戦いを見せてもらったぞ。」
「ベルンハルト、あんたは冥王に協力する理由があると言った。いや、人間に協力しない理由があると言った。でも、それはもう埋めることができないものなのか?もう一度人間に、いや、僕たちにその苦しみを話してくれないか?」
「おいおい。まさか私を仲間に引き入れようと思っているのではないだろうな。お前は冥王に時渡りの血を滅ぼされた。私は人間に破邪舟の血を滅ぼされた。私がお前に、冥王との溝を埋められないのかと提案したならば、お前はそれを受け入れることができるというのか?」
「それは・・・」
「それに、知らないようだから教えておいてやる。お前がいたエテーネ村の結界を解いたのは私だ。」
「なんだって!?」
「言っただろう、聖なるチカラと邪なるチカラは転換できると。破邪舟の術師だった私のチカラは、今は破聖のチカラへと変わったのだ。お前の村の聖なる結界は私の破聖のチカラで壊してやった。さすが時渡りの秘術を守ってきただけある。よい結界師がいるではないか。苦労させられたぞ。それももう過去のことではあるがな。」
「それじゃ・・・アバ様の結界はあんたに・・・」
「私は別にお前に私怨はないが、お前は私に私怨があるのではないか?無論、私はそれで戦うのが悪いなどとは言わない。正義ぶったお前がどう考えるかは知らんがな。」
 アディールは何も言えず、ぐっと拳を握っている。ベルンハルトは続けた。
「ひとつ教えておいてやろう。このように世界に魔瘴がはびこるのが誰のせいか知っているか?」
「それはあんたたちのせいだろう!あんたや冥王が吸い上げているからだ!」
「違うな。人間たちのせいだ。いや、人間に限定する必要はないな。オーガでもウェディでも、アストルティアに生きる者たちすべてのせいだ。このメギストリスで悲劇が起ったのはなぜだ?人間だったイッドの邪悪な野心のせいだ。それを引き入れたプクリポの王のせいだ。ガートラントではどうだった?欲にくらみ、チカラを欲して魔瘴を手に入れたジュリアンテとマリーン。やつらも人間よ。もちろん私も人間のひとり。自分だけが違うなどと言うつもりはない。すべては心の隙よ。みな心に隙を持っている。私たちは、隙だらけの亡者の際限ない欲望を満たすのを手伝ってやろうとしているにすぎん。」
「ワタクシたちが!」ベルンハルトの言葉を遮るようにパルポスが声を上げた。「ワタクシたちが人々の心の闇を取り払ってみせます!」
「そうだ。みんなが心の底から笑える日が必ず来る!そのために俺たちは戦う!」ザーンバルフもパルポスの言葉に続いた。
「ほほう。おもしろいことを言う。よい仲間を持っているではないか、アディール。では、その言葉が本当かどうか、試させてもらおう。ピュージュ!」
 ベルンハルトが言うと、子供のような道化師が部屋に入ってきた。
「気安く呼ばないでほしいねぇ。オマエと一緒に仕事をするなんて、ボクははじめからイヤだったんだ。」
 その姿を見て、アディールとザーンバルフが同時に叫ぶ。「お前は!」「ピュージュ!」
「私はどちらでも構わないのだ。好きなようにすればよい。」ベルンハルトが道化の子供に言った。
「イッドがやられたのはボクの責任じゃない。オマエがあいつらをのさばらせていたからだ!」道化の指はアディールに向いていた。
「確かに。否定はしないが?」しかしその表情は、責任を感じる風ではなく、楽しんでいるようにさえ見える。
「ボクはカミハルムイに行く。そっちの調査が進んでるんだ。」ピュージュが言った。
「なるほど。ずいぶんと手回しがいいじゃないか。それで?ひとりでいいのか?」
「当たり前だ!誰が好き好んでオマエなんかと組むか!」
「それは結構。では私はドルワームへと向かうとしよう。」
 ピュージュが懐から石を取り出して高々と掲げ、風を切る音とともに空へと消えた。
 ベルンハルトも石を取り出す。
 そして「止めたくばドルワームへ来い。ドルワームの闇が、果たしてお前たちに拭えるかな?」と言って飛び去った。






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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】



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