小説ドラクエ10-15章(6) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

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 別荘の2階、アルウェの部屋には青白く光る扉がたたずんでいた。部屋と部屋を繋いでいるわけではない。部屋の中央に、どこにも繋がらない位置に扉は立っている。
「おい、あれ。」ザーンバルフが指すと「銀の丘の扉と同じですねぇ。」とパルポスが頷いた。
「この扉・・・どうなっているんだ?」フォステイルが扉に手をついた。すると、青白く光るその扉は、押しも引きもしていないのに、音もなくスーッと開く。
 扉の奥は、明らかにこの部屋とは別の空間に繋がっているようだった。
「あれは・・・死んだはずの王妃・・・。」フォステイルが扉の奥を見てつぶやく。「アディール、行ってみよう。」とフォステイルは扉の奥へと進んだ。
 アディールたちは、意を決して、その異空間に続くとも思える青白い扉をくぐった。

「フォステイルからノートもらっちゃった。」ぱっちりとした瞳の、スライムとも思えるプクリポがノートを手に飛び跳ねて喜んでいるのが見える。「なにをお願いしようかなぁ。うーんと、うーんと。そうだ、私お姫様になりたい。」
 そう言って、プクリポの姿は霧のように消えていった。

 アディールたちは、異空間の闇の中に立っている。
「今のは?アディール、きみにも見えたかい?これは・・・アルウェ王妃の記憶?」闇の中でフォステイルが言う。

 場面が切り替わって、今度は見覚えのある城の外観が見えた。丘の上のプクリポの城。メギストリス城。
 ぱっちり瞳のプクリポは、ドレス姿で豪華なベッドに横になっていた。「このノートって、ホントになんでも叶っちゃうんだー。次のお願いはなんにしようかなー。そうだ!プクリポをみんな救っちゃうようなイケメンな男の子が生まれますよーに。」
 サラサラとノートにペンを走らせるプクリポの姿は、また霧のように消えた。

 また場面が切り替わった。豪華な部屋の一室で、ぱっちり瞳のプクリポが、弱々しい子供のプクリポの頭を撫でている。
「んん?ラグアス、どうして泣いているの?」と、ぱっちり瞳のプクリポが言った。
「お父さんが僕のことキライだから・・・。」子供のプクリポがしゃっくり混じりに話す。「僕が予知した未来のこと言ったら、二度と予知なんかするなって。お父さんが怪我するのとかわかるから、教えてあげたいのに、嫌われるから言えない・・・。お父さん怖いから、もうおしゃべりしない・・・・。」そしてプクリポの子供はぱっちり瞳のプクリポを見上げた。「ねえお母さん。フォステイルのお話を聞かせて。」
 母親は、おとぎ話を聞かせながら「ねえ、ラグアス。」と子供を撫でる。「お母さんの宝物をあげるね。」
「え?宝物?」と子供が言うと「そう。ラグアスがフォステイルみたいに相手の目を見てしゃべれるようになったら、宝物をあげる。」と母親が言った。
「うん!これからはフォステイルみたいにしゃべるよ!だから、宝物ちょうだい!」子供は元気よく言った。
「じゃあ、ラグアスが大きくなったらね。今はまだダメ。私が死んだら、あなたにあげるわ。」
 母親は子供を何度も撫でながら言う。
「え?」と、子供は不安そうな顔をした。
「ふふふ。なんでもない。そろそろおやすみ、ラグアス。」
 子供が眠った後でも、母親はまだ何度も何度も子供を撫でている。
「ごめんねラグアス。お父さんも、ごめんなさい。」

 気が付けば、アディールはもとの部屋に戻って来ていた。アルウェの別荘の、部屋の中央の扉の前。その不思議な扉は、もう閉じられていた。
「この扉は、アルウェ王妃の記憶の扉?」フォステイルが険しい表情をしている。「しかしぼくはアルウェ王妃にノートを渡した記憶なんてない。」
「でも、これが王妃の記憶なら、やはり王妃は3つ目の願いをノートに書いて亡くなったということになりますわね。」
「そして、今のノートの持ち主は、ラグアス王子ということになる。行こう、ラグアス王子のところへ。」
 アディールがそう言うと「うん、行こう。」とフォステイルが走り出した。アディールたちも、それに続いて、いま来た道を走って戻った。


 メギストリス城に戻って来たアディールたちは、王の間には行かずに、ラグアス王子の部屋を目指した。王子の部屋の前まで来たアディールたちの目には、また青白く光る扉が映る。王子の部屋の扉が、淡く光っている。
「ここにも不思議な扉が。これも王妃の導きなのか?」フォステイルが扉に触れた。
 それに合わせるように、アディールも扉に手をついた。
 アディールたちの前に、また、誰かの記憶が流れ込んで来た。

「なぜだアルウェ!お前になにがあった!?」
 若かりしプーポッパン王が叫ぶ姿が見えた。精悍な目つきに張りのある肌つやが、今の王とは似ても似つかない。
 そこに弱々しい子供のプクリポが歩き寄った。その姿は、アルウェ王妃の記憶の中のラグアス王子と同じである。
「あの・・・お父さん。」幼い王子の言葉に「すまぬラグアス。母を失ったお前は、わしよりずっとつらかろう。」と王が言う。
 しかし、王子は気丈にも「ぼく、平気だよ。」と言った。
 王ははじめ、王子の頭をやさしく撫でていたが、王子が「ぼく、知ってたから。お母さんのこと、知ってたから。」と言うのを聞いて態度を一変させた。
 王は「知っていた、だと?ふざけるな!なにが予知だ!母が死んだのを言い当てたのがそれほどうれしいか!」と、王子を振り払った。
 王子はしりもちをついて「フォステイルが、予知してるの、聞いたんです。」と、か細く言う。
 しかし、王の怒りが納まることはなかった。「まさか自分の母親の死まで予言ごっこの材料にするとは。ラグアス、もう二度とわしに話しかけるな!」そして王は、声を荒げて部屋を去った。
 それから王子は、部屋から一歩も外に出なくなった。来る日も来る日も塞ぎ込んで泣いているばかりの日々。
 ある日、侍女が扉の向こうから声をかける。「王子様、いいかげん出てらっしゃいまし。あれから半年、もう王様も冷静になっているはずです。直接お会いして謝れば許してもらえます。」
 しかし、王子は返事をしなかった。
 それからもずっと、王子は部屋から出ようとはしなかった。
 またある日、家庭教師が王子の部屋を叩いた。「王子、もう1年も部屋に籠っているというではありませんか。お勉強もなさらないと、将来この国を治めるのにも支障がありますぞ。」
 王子は耳を塞ぐばかりだった。誰が来ても、どれだけ呼んでも、王子は部屋からは出ずに、返事もしなかった。
 それから何年もしたある日、王子は引き出しの奥からノートを取り出した。
「お母さん。このノートをぼくに託した理由がようやくわかりました。」
 ノートに向かって王子は話す。「見える。辺境に視察に出かけたお父さんが魔瘴に侵され、そして命を落とす。プクランドも、王と運命をともに・・・。」
 王子はノートを持ったままうろうろと部屋の中を歩き回った。「お父さんを止めたいけど、でもお父さんはぼくの言葉には耳を貸さない。だけど、ぼくじゃなくてフォステイルの言葉だったら・・・。」
 そして王子はペンを取った。「もう、この国のためにはこれしかない。お母さん、そうですよね?」そう言って王子はペンを走らせた。
 そこで、王子の姿は霧となって消えた。

「ああ!そうだ。思い出した。」
 フォステイルが突然頭を抱えて座り込んだ。「これは・・・ぼくの記憶・・・。ぼくはあの日、フォステイルになりたいとノートに書いた。ぼくは・・・ぼくの本当の名はラグアス。ぼくがこの国の王子なんだ。」
 アディールが見たとき、そこにあったのはフォステイルの姿ではなかった。赤い王族服に身を包み、白い巻き髪の上に、不釣り合いなほど大きな冠が乗っている。プクリポの王子、ラグアスの姿だった。背中のリュートは背負ったままである。
「ぼくはノートのチカラでフォステイルになり、予知を王に伝えた。でも、フォステイルの姿を借りても王は耳を貸してはくれず、王は魔瘴に触れ、不治の病に侵された。」そこまで話して、ラグアスは階段に向かって叫んだ。「誰だ!?」
 階段を上って来る老人の姿があった。腰の曲がった白ひげの老学者。
「これはこれはご機嫌うるわしゅう。まさかあのインチキ予言者があなた様だったとは、驚かされましたぞ。くっくっく。」
「イッド!」
「ラグアス王子。せっかくあなた様が本性を現されたのです。私のほうも真の姿をお見せしましょう。」
 老学者がそう言うと、ドロンと煙が上がって、学者の姿が魔物へと変わった。直立したカエルのような姿に、紫のローブを纏い、緑色の頭部からは2本の触角が伸び、べろりと長い舌を垂らしている。
「我がまことの名は魔軍師イッド。」
 そう名乗り、片手を上げてラグアスが飛びかかるのを制した。
「ここで戦っても手遅れですぞ。王はすでに儀式の塔へ出発した後。」魔軍師はニヤニヤしながら言う。「なぜ私が儀式の間で討伐隊を殺させたかわかりますかな?儀式の間が生贄の血で汚されたとき、塔の聖なるチカラは邪悪なるチカラに変わるのです。その状態で王家の者が命を捧げたならば、塔のチカラは大陸中に呪いをまき散らすのです。私はここで退散しましょう。愚かな王の犬死にするところを見物せねばなりませんからな。」話し終えると同時に、イッドは紫の霧となって消えた。
「イッド!」すでに霧と消えているにもかかわらず、ラグアスは叫んだ。そして次に出たのは、弱々しく悲痛な声だった。「そんな・・・もうダメなのか・・・」
 そのとき、ラグアスの背中のリュートが光った。
「これは・・・?」
 光りながら、リュートが形を変えていく。やがて、それはノートの形となり、ぱさりと床に落ちた。
「ノートだ。ノートがリュートに姿を変えていたなんて。」
 ラグアスは床のノートを拾い上げた。「アディール。まだ間に合う。ぼくと一緒に来てくれ。王を止める。」
 走り行くラグアスの姿は、先ほどまでのフォステイルの姿のときと同じように凛としていた。とても、アルウェやラグアス本人の記憶の中の弱々しいプクリポの子と同じだとは思えないほどに。





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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】


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