小説ドラクエ10－15章(10)

　メギストリスに戻ると、ラグアスが今までのよりもひと回り大きな冠を頭に乗せて玉座についていた。座り心地に慣れないでもぞもぞしていたラグアスは「あ、アディールさん！」と、訪れたアディールを玉座を飛び降りて迎えた。

「あなたのおかげでメギストリスは守られました。ありがとう。」そう言ってラグアスは、紫色の勲章を差し出した。「風車塔のことを解決してくれたら、お父さんはこれを渡そうとしてたって聞きました。受け取ってください。」

　メギストリスのキーエンブレムが、アディールの手に納められた。

「ぼくは王としての重みをなにひとつ知らない。勇気がないばかりに、今までずっと逃げてきたんだ。だけど、アディールさんたちと一緒に行動して、ぼくも一歩踏み出そうと思ったんです。」

　ラグアスは、ふとアディールの表情が曇っているのに気付いた。

「思い詰めているのですか？でも、ぼくには見えますよ。思うままに進んでください。きっと目的が達成される日が来ます。それに、ぼくもメギストリスの人たちも、みんなアディールさんたちに感謝しています。もしも迷うことがあったら、アディールさんたちに助けられた人たちの顔を思い出してください。アディールさんたちの行いが正しかったのかどうか、きっとわかると思います。それから、駅を開放しておきました。使ってください。」

　メギストリスの城を出て、それでもまだ暗い顔をしているアディールにキサラギが声をかけた。

「アディール？ベルンハルトの言葉を気にしているんですの？」

「うん。それに、エテーネの村の結界を解いたのがベルンハルトだと知って、やっぱり僕はベルンハルトに強い憎しみを感じたんだ。」

「なんだ、それを気にしてたのか。」ザーンバルフの拳がアディールの肩をつつく。「それでいいんじゃないか？俺たちは駒じゃない。感情だってある。もしおまえが、冥王を倒すための道筋として、ベルンハルトの破邪のチカラを味方につけようと考えていたとしても、自分の気持ちを殺して進むべき道ではないさ。」

「アディールさん。ワタクシはみんなの心の闇を取り除きたい。それはもちろん、アディールさんの心の闇だって同じですよ。みんなが笑える世界を取り戻すためにアディールさんが犠牲になったりする必要はないのです。」

「うん、ありがとう。まだ、気持ちが整理できたわけじゃないけど、僕はベルンハルトを追わなければならない。でも、ピュージュも追わなければならない。いつだって正しい判断ができているかどうかわからない。ピュージュを追うべきなのに、個人的な感情でベルンハルトを追いたいと思っているのかもしれない。」

「よし、わかった！ピュージュは俺が追う。なんでもひとりで背負い込むんじゃねえよ、少しぐらい背負わせろ。お前はベルンハルトを追うんだ、アディール。」

「ザーンバルフ・・・」

「そんな顔をするな。俺たちは仲間だ。そしてお前がリーダーだ。ベルンハルトのやつは、協力関係こそ持っているが、仲間と一緒にいるわけじゃない。仲間の力だって、そう悪いもんじゃないってことをベルンハルトのやつに教えてやって来い。」

　こくりと頷くアディールに、ザーンバルフも笑顔を見せた。

「それじゃ、おいらはアディールについて行くぞ！」とドドルが飛び上がり「ワタクシはピュージュのほう。ザーンバルフさんについて行きますよ。」とパルポスがザーンバルフに寄った。

「私は・・・」と迷うキサラギに、アディールが言った。

「キサラギはザーンバルフのほうについてくれ。僕たちは自分で回復ができる。」

　キサラギが心配するまでもなく、アディールは迷いのない表情をしていた。

「わかりましたわ。」

「アディール！街の人たちはみんな嬉しそうな顔してるぞ！」ドドルが言った。

「プーポッパン王が亡くなっても、みんなラグアス王子の即位を喜んでいるのですよ。」

「うん。僕たちは間違ってはいなかったんだ。行こう！」

　アディールの言葉で、5人は駅に向かって一斉に走り出した。

カインの冒険日記

ページをめくれば、そこには物語がある。

　　　　　　読むドラゴンクエストの世界へようこそ。

小説ドラクエ10－15章(10)