小説ドラクエ10-18章(2) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

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 アディールたちはジュレットで列車を降りた。
「ここがウェナ諸島ですのね。」
「これは美しいところですねぇ。」
「周りが水だらけだぞ。」
「そうか、みんなウェナ諸島ははじめてなんだね。いいところなんだ。そうだ、みんな少し街を巡って来なよ。実は僕も行きたいところがあるんだ。」
 アディールはそう言って、ひとりで街の北を目指した。やがて民家のひとつに辿り着き、その扉をノックする。ガチャリと扉が開いた。
「あ!アディールお兄ちゃん!」とウェディの少女がアディールに飛びついて来た。
「ソーミャ。手が動くようになったんだね。」
「うん!アディールお兄ちゃんのおかげだよ!ほらほら。動かなかったのが嘘みたい!」
「そうか。よかった・・・。本当によかった。」
「うん!」
「ヒューザはまだいるのかい?」
「ううん。私の手が治ったら、ヒューザ兄ちゃんはまた旅に出て行っちゃったの。」
「そうか。ヒューザらしいね。」
「うん。でも、ヒューザ兄ちゃんがいたときのほうが楽しかった。こんなことなら・・・」
「ソーミャ?」
「ううん。なんでもない。私ひとりでも強くなるって決めたんだもん。ヒューザ兄ちゃんみたいに強くなって、それでジュニアちゃんに会いに行くって決めたんだもん。」
「きっとできるよ、ソーミャ。君ならできるさ。」
「ありがとう、アディールお兄ちゃん。」
「じゃあ僕は行くよ。元気でね。」


 ソーミャと別れたアディールは、街巡りが終わった3人と合流した。
「ここ、いい街だぞ、アディール!」とドドルがぴょこぴょこ跳ねながら言った。
「そうだろ?僕もこの街が好きなんだ。」
「もう用事は済んだんですの?」とキサラギが言う。
「うん。待たせたね。」
「嬉しそうですねぇ。何かよいことでもあったのですか?」と言ったのはパルポス。
「ああ、うん。まあね。」アディールは「行こう、ヴェリナードへ。このジュレー島の北にあるんだ。」と言って東口から街を出る。キサラギとパルポスとドドルもそれに続いて街を出た。


 アディールたちは、ジュレー島上層から北上し、キュララナ海岸へと進む。
 と、やがて桟橋へと突き当たった。桟橋からは船が出ている。
「お客さんかい?」と渡し守がのんびりとした口調で言った。
「最近めっきり客足が遠退いてねぇ。と言っても、この船は公営だから給料に響くわけじゃないけどな。」渡し守はそこまで言って、ふとアディールの顔を見た。「おや、兄さん、どこかで見た顔だなぁ。」
「あれ?もしかして、レーナム緑野にいた・・・」アディールが思い出したように言う。「こっちに来てたんだ。」
「そうかそうか、思い出したぜぇ。アルミラージに追われてた泳げない兄さんだ。」
 渡し守はひととおり笑ってから「泳げないわけないんだけどな、ウェディだからなぁ。」そう言ってまた笑った。
「アディール、泳げなかったのか?おいらアディールが泳げるの知ってるぞ?」と、ドドルが言うと「うん。まあ、そういうときもあったんだ。」とアディールは首の後ろをかく。
「で、ヴェリナードに行くのかい、兄さん?」
「うん。お願いするよ。」
 アディールがそう言って、キサラギとドドルとパルポスも船に乗り込んだ。

 海に出て、オールを漕ぎながら渡し守が言う。
「そう言えば兄さん、ヒャドは使えるようになったのかい?」
「うん。おかげで、呪文の形を変えることもできるようになったよ。呪文はイメージだって、教えてくれたからね。」アディールはそう言って海に向かってヒャドを唱え、石や針や半球を作ってみせた。
「兄さん、いろんな形をイメージしてるんだなぁ。そういう意味で言ったつもりじゃなかったんだけどなぁ、でも、何にしてもそれをヒントにしてくれたってのは、嬉しいことだぜぇ。」
「アディールさんの呪文の師はこの方だったのですねぇ。」と、パルポス。
「師と言うほどのことはしてねぇよぅ。ただ、呪文を唱えるときは漠然とやるよりも、その効果をイメージしてたほうが早く習得できるってぇ話をしただけだぜぇ。それに、矢以外の形なんてイメージしたことなかったぜぇ。そんな形もあったんだなぁ。」
 
 やがて船は対岸に着き、アディールたちが船を降りる。
「まっすぐ北には進めねぇが、ここからまっすぐ北の方向がヴェリナードだぜぇ。」
 渡し守はそう言って、また船に乗ってジュレー島のほうへと戻って行った。
 渡し守の言うとおりに湾曲した道を迂回して北のほうへと進むと、やがてまた渡し船のある桟橋に辿り着き、アディールたちはその船に乗ってヴェリナードの城下町へと渡った。




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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】



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