小説ドラクエ10-18章(4) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

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 アディールたちはヴェリナード城へと足を進めた。
 旅人に女王謁見を義務付けるだけあって、王宮への立ち入りはどんな者に対しても自由であり、兵士たちはアディールたちを歓迎して女王の間へと案内しようとする。
「あ!アディールさん」という声が聞こえたので目をやると、ひとりの調査員が走ってやって来る。
「お久しぶりですね。ジュレットではお世話になりました。あれ、お忘れですか?ボクは知恵の眠る遺跡の調査を手伝ってもらったキンナーですよ。」そう言ってくるりと一回転してから紳士風のお辞儀をした。
「ああ!思い出した!」話し終わると決めポーズを取るキンナー調査員。アディールは、そのポーズを見て、やっとキンナーを思い出した。
「よかった。」とキンナーは笑顔で言い「ようこそヴェリナードへ。」またくるりと回って両人差し指をアディールに向けた。キンナーは「あとはボクに任せてください。」と言って案内の兵士を下がらせてから「では、こちらへどうぞ。アディールさん。」と、階段を上がって行く。
「この階には、調査や研究を担うボクたちの王立調査団の詰所と、治安維持や救助活動を任されている魔法戦士団のサロンがあるんです。他にもオーディス王子の部屋や厨房などがあるんですよ。」キンナーは歩きながら説明した。「ディオーレ女王様のお部屋は3階なので、こちらの階段を・・・」
「あの、キンナーさん。」アディールが唐突に声をかける。「ここの研究者というのは、その王立調査団だけなのな?」
「はい。」少し不思議な顔をするキンナー。「そうですが、どうかされましたか?」
「ちょっと調査団の部屋に連れて行ってほしいんだ。」
「はい・・・構いませんが。」
 軽く首をかしげながら案内するキンナーについて、アディールたちは調査団の詰所の扉を開けた。団員たちが、アディールたちのほうを振り向く。「キンナー調査員、どうした?」
「遺跡の調査で協力してもらったアディールさんが、調査団の部屋を見てみたいと。」
 キンナーの紹介を待ってから「はじめまして、アディールです。レーンの村から来ました。」と、頭を下げた。
「レーンですか。それは遠いところをよく来てくださった。それで、何か?」調査員のひとりが言う。
「いえ、挨拶に来ただけです。用と言うほどのことはないんです。」アディールはまた頭を下げて、そして部屋から出た。

 アディールについて慌てて部屋を出たキンナー調査員に、アディールはなおも質問する。
「キンナーさん。調査員の人は、今ので全員ですか?」
「はい・・・そうですね、今ので全員です。」
「そうですか・・・。ああ、すいません、女王の間は3階でしたっけ。」
「はあ、そうですが。こちらです、どうぞ。」
 釈然としなさそうなキンナー調査員の後をついて歩くアディールに、キサラギがひそひそと小声で話しかける。
「どうしたんですの、アディール?」
「うん。僕の両親がいるかもしれないと思って。」とアディールは答える。
「両親?」
「この体の持ち主のね。僕が生き返しを受ける前の、このウェディのアディールは、生き別れの両親を探してたんだって。それで、生前にそのアディールが言ってたのが、両親が研究者だった記憶がある、ということらしいんだ。聞いた話だけどね。」
「それで両親を探しているんですのね。でも、ご両親の顔を知っているんですの?」
「いや、わからないんだ。だけど、向こうは僕のことを知ってるはずだと思ってね。」
「ああ、それでレーンから来た、なんて言ったのですわね。」
「うん。子供の頃と顔が変わっていてわからない、なんてこともあるかもしれないから、行き別れた場所だけでも伝えることができればいいなと思ってね。それに、それ以外にこのアディールと両親を繋ぐものは何もないんだ。僕が探すことはできない。向こうに見つけてもらうことしか、ね。」
「それで、何かわかりましたの?」
「ううん。反応を見る限り、誰も僕のことを知らなそうだった。もちろん、知らないフリをしているだけなのかもしれない。だけど、知らないフリをしているのだったら、僕とは会いたくないわけだから、それでもいいかなと・・・いや、違う。向こうは僕の記憶がないことを知らないんだ。だから、もしあの場に両親がいたのなら、向こうは僕に見つかったと思っているはずなんだ。それで知らないフリなんてできっこない。・・・やっぱりいなかったんだ。」
「けれど、私たちは、もうアストルティア中の研究者と会いましたわ。ツスクルにもカミハルムイにも、ウェディの研究者はいませんでした。もう、アディールが知らない場所なんてないのではないんですの?」
「おいらもアグラニでウェディなんて見たことないぞ。田舎町だからな。」
「ワタクシも、プクレットでウェディを見たことはありません。それに、プクレットには研究施設などもありませんしねぇ。」
「そうか。そうだよね。ランガーオには行ったことがないけど、もう生きてないのかもしれないね。できれば、このウェディのアディールの望みも叶えてあげたいと思ったんだけどね。はは。まあ気にしないでよ。」
 そう言ってアディールは黙り込んで、キンナーについて歩くだけになった。やがて3階の女王の間へと到達する。「こちらです、どうぞ。」とキンナーが指し示したので、アディールたちは部屋へと入った。

「母上。なぜ禁断の地の存在を教えてくれなかったのですか?」
 女王の部屋に入るなり、赤いマントの青年がディオーレ女王に食いかかっている場面に遭遇した。
「教える必要がない。」と、短く言うのは女王ディオーレ。青年の言葉を拒絶するかのように目を閉じたまま顔を背けている。
 青年は、女王を睨みつけてから、ぷいと踵を返して部屋を出て行った。
「これはこれは、お見苦しいところをお見せしました。」
 恰幅の良い丸顔の男がアディールに寄ってきて頭を下げた。女王の従者だろうか、とアディールが思っていると、恰幅の良い男は「妻と息子の仲がこじれて困っておるところでした。」と言う。
「妻・・・というのは?」アディールが、意味がわからない、という表情を見せる。従者の妻と息子の話がなんだというのだろう?
「これは失礼しました。妻と息子、というのはディオーレとオーディスのことです。今しがたのお目汚しのことです。」と礼儀正しく頭を下げる従者風の男。
「え?それって王様ってことですか!?」アディールは遅まきながら、その男が従者ではないことに気付いた。あまりに低姿勢であるが故に、とても王だとは思わなかったのだ。
「まあ、そういうことにもなりますが、政治など国のことはみな妻に任せておりますので。申し遅れました。私はメルーと言います。」メルー公はまた頭を下げた。
「よく参られた。わらわがこの国の女王。」メルー公の後ろから、ディオーレ女王がアディールに声をかける。メルー公とはまるで違う威厳のある風体をしている。「そなた、名は何と申す?」
「僕はアディール。それから、キサラギとドドルとパルポスです。」
「そうか、アディール。・・・アディール?どこかで聞いた名であるな?」女王は首をかしげた。
「これはこれは。あなたがアディール殿でしたか。キンナー調査員からの報告を伺っております。波紋の音叉の修理に協力していただいた方だとか。」メルー公が低姿勢で言う。
「おお。そのアディールであったか。おかげで、わらわの歌がウェナ諸島全体に届くようになったのだ。感謝しておる。」ディオーレ女王は、メルー公とは違う、威厳のある声で言った。「その節は世話になった。ゆるりとして行かれるとよい。」
 アディールは一礼して、女王の間を出た。すると、それを待っていたかのように、赤マントの青年が話しかけてきた。
「君は相当な手練の冒険者だね。すれ違ったときにわかったよ。僕はオーディス、この国の王子だ。君たちは4人組だね。もうひとり、オーガの仲間はいないかい?」
 オーディス王子の予言染みた口ぶりに戸惑いながらもアディールはひとつ頷いた。
「やっぱりそうか。彼女の言うことがまた当たったな。名前を聞いてもいいかな?」
「僕はアディール。それから」と、キサラギとドドルとパルポスを紹介する。
「アディール、折り入ってお願いがあるんだ。僕の部屋まで来てもらえないか?」
 オーディス王子に言われるまま、アディールたちは部屋までついて行く。部屋に着くと、王子は扉を開けて「キャスラン。」と呼んだ。
 呼ばれて出てきたのはオレンジ色のカーディガンとオレンジ色のターバンを纏った女のウェディ。「私は旅の占い師のキャスラン。オーディス王子を占いに、この国に来た者です。」と女は名乗った。
「このキャスランの占いで、君のことはすでに知っている。」とオーディス王子は言った。
「ええ。私の占いでそう出ています。5人組の旅人、白亜の城に現れる。ウェディに連れられた4種族。王子はともに目的を果たす。・・・あれ?あれあれ?でも5人組じゃない?」
「いや、キャスラン。もうひとりオーガの仲間もいるんだそうだ。それで5人組。アディールの他に4種族。間違いない。」オーディスはアディールに向き直る。「キャスランは禁断の地として隠された永遠の地下迷宮の存在を教えてくれたんだ。」
「禁断の地?さっきディオーレ女王と言い争っていた・・・」
「そう。母上はなぜかそのことを話そうとしない。解決しようとしない。だから僕が、救わなければならない。君も来てくれないか。頼む。」




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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】



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