「みなの者、よくぞこれだけの魔瘴石を集めてくれた。」
水晶宮。王座の間。ウラード国王の渋みのある声が響く。「特にルナナとやら。これほどの石を持ち帰るのは苦労したであろう。後ほど好きな褒美を授けよう。」
「なんて見事な魔瘴石だ。これだけの魔瘴石があればドルワームは永遠に安泰だ。」ドゥラ院長も目を丸くして感嘆の表情で「ありがとう、あなたのおかげで夢が叶う。」とルナナに頭を下げた。「さあ、我らが太陽よ。永遠に輝きたまえ!」
そのとき、ドタドタと駆け付けたウェディとドワーフがいた。
「誰だ、騒々しいぞ!」国王ウラードは部屋の入り口へと目を向ける。「なんだ、アディールではないか。今はドゥラ院長の儀式の最中だ。静かにされよ。」
「待ってください王様!待ってくださいドゥラ院長!」アディールが叫ぶ。
「またあなたですか。」ドゥラ院長はため息をもらした。「今から私の研究でドルワームが救われようとしているのです。なにを待てと言うのです?」
「院長!その魔瘴石は危険だ!」
そう言うアディールに「いいかげんにしてください!」とドゥラも声を荒げる。「邪魔だけはしないでくださいと言ったはずだ!」ドゥラは魔瘴石のほうに振り返り「さあ、そのチカラを私たちに!」と両手を開いた。
一瞬の静寂が流れた。今から起こるであろう歴史的瞬間を見逃すまいと、その場にいる全員が息を飲んで魔瘴石だけを見つめた。
しかし、魔瘴石に変化は見られない。
しかし、魔瘴石に変化は見られない。
「・・・どうしたんだ?なぜだ?」
ドゥラ院長は何度も儀式を試みた。しかし、やはり黄金へと色を変える兆しは見えない。それどころか、石が発する魔瘴がみるみる増えていっている。
ドゥラ院長は何度も儀式を試みた。しかし、やはり黄金へと色を変える兆しは見えない。それどころか、石が発する魔瘴がみるみる増えていっている。
「くっくっく。」
姿のない声。
「愚かしいな。実に愚かしい。」
声は魔瘴石の中から聞こえている。石はシューと一気に魔瘴へと昇華し、その魔瘴の霧の中から緑色の巨体が現れた。ぎょろりとした目が3つ光り、くちばしとトサカを持つ天狗にも似た魔物。魔物がバサリと両翼を広げると、その巨体が一気に3倍ほどに膨れ上がったように見えた。
姿のない声。
「愚かしいな。実に愚かしい。」
声は魔瘴石の中から聞こえている。石はシューと一気に魔瘴へと昇華し、その魔瘴の霧の中から緑色の巨体が現れた。ぎょろりとした目が3つ光り、くちばしとトサカを持つ天狗にも似た魔物。魔物がバサリと両翼を広げると、その巨体が一気に3倍ほどに膨れ上がったように見えた。
「こ、これは!」ウラードの声が震えている。「天魔・・・天魔クァバルナ!」
天魔はウラードの声が聞こえていないかのように、ドゥラ院長に向かって言った。
「ドゥラよ、礼を言おう。再び地上に出ることができたのは、おまえのおかげだ。」
「なんだと!?」ウラードは今度はドゥラ院長に震える声を向けた。「院長!こやつの言うことは本当なのか?そなたはこの天魔のために儀式を行ったというのか?」
「ち、違います国王!私はこんなやつは知らない!私の研究はドルワームのためにあるんだ!」
「ふふふ。ドゥラよ、自分でも気付いていないのか?思い出せ、太陽の石を作るために魔瘴石のチカラを利用することを思いついた日のことを。」天魔はニヤニヤしながら言った。
「なんだと!?私は・・・私は天啓を受けたのだ。魔瘴石のチカラを使えという声を聞いたのだ。・・・まさか!?」ドゥラの顔色がみるみる青ざめている。
「気付いたか?おまえが聞いたのは神の声などではない。我の声だ。そしておまえは、我が思うとおりにカルサドラ火山にある魔瘴石を掘り出した。我が魂が封印されていた魔瘴石をだ。魂が蘇った今、肉体さえ戻れば、もはや我を縛るものはなにもない。ふあはははは!」
天魔は両翼をぶるんと震わせて身を包むと、紫の霧となってそこから姿を消した。
「な、なによこれ!こんなのがいるなんて聞いてなかったわよ!」ルナナが甲高い声を上げている。「私が悪いんじゃないわよ!魔瘴石を取って来いって言ったのは、そこの院長なんだからね!」そう言い残したルナナの姿は、もう見えなくなっていた。
「そんな・・・」とドゥラは膝をついた。「私が・・・私の研究が利用されていたなんて・・・」
「なんということじゃ。伝説の魔物、天魔クァバルナが復活してしまうとは。」ウラード国王の表情は悲痛なものだった。「お前ほどの者が功を焦り魔物につけ込まれるとはな。富、名声、知識、それらを求めすぎたドワーフたちの末路を知らぬわけではあるまいに。」
「私はどうしても国を救いたかった。救わねばならなかった。」ドゥラの声は弱々かった。
ウラードはドゥラを見据える。「なぜだ?なにがお前をそこまでかき立てたのだ?」
「あなたを見返すためだ!」ドゥラはウラード王をキッと睨んで突然叫んだ。「ウラード王、あなたに謝罪させるためだ!」
「なんだと!?」
「国王、この3つのほくろに見覚えがあるはずだ。」ドゥラはそう言って開いた手を王に向けて突き出した。その掌には、等間隔に、正三角形を描くように3つのほくろがある。「私はあなたに捨てられた3つの星を掴む子です。無能な兄ラミザに変わってドルワームを救い、私を捨てたのは間違いだったとあなたに謝罪させたかった。」
「え・・・ドゥラ君がボクの弟・・・?」突然名前を呼ばれてラミザはうろたえた。「じゃあ、捨てられた兄弟というのは・・・ドゥラ君のこと?」
ウラード王は、ドゥラとラミザの顔を交互に見て「愚かな・・・」とつぶやいた。「話は後だ。今は天魔をなんとかせねばならん。ドゥラよ、ドルワームを救いたいというそなたの気持ちは変わっておらぬと思ってよいのだろうな?」
ドゥラは下を向いたまま王とは目を合わせずに、こくりと頷いた。
「ふむ。」とウラードも頷く。「伝承によると、その昔ドルワームを恐怖せしめた天魔クァバルナは魂と体を分離されて封印されたとある。封印された場所までは伝わってはいないが、せっかく分離させたのだ、近くに封印したのでは意味がない。魂のあったカルサドラ火山とは遠く離れた場所に封印したに違いない。」
「そういえば、ボロヌスの穴の泉に悪魔の体を封印した、という古文書を見たことがあります。もしかしたら、それがクァバルナのことかもしれません。」とドゥラが言う。
「ボロヌスか。確かにそれならばカルサドラ火山から十分に距離がある。可能性は高いだろう。」 ウラード王はラミザのほうを見て言った。「よし。ラミザ、騎士団を率いてボロヌスの穴へと向かえ。わかっていると思うが、ゴブル砂漠の遥か西、ボロヌス溶岩流の北の穴だぞ。それから」ウラードはドゥラのほうに顔を向けた。「おまえも行くのだ、ドゥラ。」
「はい。」
深々と一礼をして、ドゥラはアディールのほうを見た。
「あなたが言うことが正しかった。なぜ私は悪魔のささやきだと気付かなかったんだ。これは私の責任。命に変えても、私がこの国を守る。」
ドゥラの目には危ういほどの力強さが戻っていた。王の部屋から退室するドゥラを見て「ドゥラ君、待ってよー。」と言ってラミザ王子が続いた。
「なあアディール。アイツ死ぬつもりなのかなー。おいらアイツのこと少しだけ好きになったんだ。助けに行きたいぞ。」
「もちろんだよ、ドドル。彼を死なせはしない。絶対に。」
アディールとドドルも、王の前から下がり、水晶宮を後にした。日が沈み、星が輝く夜が訪れていた。
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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