小説ドラクエ10－18章(13)

　ヴェリナードに戻ると、長く苦しい戦いを強いられたアディールたちを女王ディオーレが強い感謝の意を示して労った。オーディスの提案を受け、国を救った英雄として、銀色の勲章、ヴェリナードのキーエンブレムをアディールたちに授与することも喜んで受諾した。しかし、その一方で、ディオーレはオーディスを叱責する。

「アディール殿のおかげで、こうしてこの国は救われたが、本来どうなっていたのかお前はわかっているのか？」
　オーディスは女王に目を向けられないでいた。
「この度のことは、お前の独りよがりな行動が招いたことだ。」

「言葉もありません。」オーディスは下を向いたまま言う。「ですが、僕はセーリアを見捨てることができなかった。」

「セーリア殿は自ら封印の巫女になることを受け入れたのだ。お前にそれを否定する権利などない。」そう言うディオーレは、しかし、もうオーディスを責める口調ではない。

「私は」セーリアが話に割って入る。「私はこの国のウェディを救うために封印の巫女になりました。しかし、王子はたったひとり、私を救うためだけに刹那の歌を唄ってくださいました。そして女王。」セーリアの目はディオーレに向けられている。「あなたがしたこともそれと同じことです。」

「そう。」ディオーレは否定することなくはっきりと頷いた。「わらわも同罪。息子を助けるために、多くの民の命を危険にさらすことを厭わなかった。わらわは民に謝罪せねばならぬ。わらわは、女王として、やってはならぬことをしたのだ。」

「いいえ。」セーリアは首を横に振る。「あなた方を責めることは誰にもできはしないでしょう。自分の命よりも大切な誰かを助けたいと願う気持ち。私の思いとあなた方の思いは、どちらも等しいものなのですから。」

「その言葉。救われる思いだ。」ディオーレは目を閉じて頭を下げた。

「この国は大きな危機から逃れましたが、王家の役目が終わったわけではありません。」と、セーリア。「王は国を治め、子が継いでいく。永遠にこの国を導いていく責務があります。」

「ならば案ずることはない。」ディオーレは鋭くも優しい視線を王子に向けた。「我が王家にはオーディスがいる。」

「永遠の水の中で、僕は母上の心を知りました。そんなこともわからず・・・勝手な僕をお許しください。」下を向いていたオーディスは顔を上げた。「僕は王になります。ですから、これからも、どんな困難にも負けないよう、僕を鍛えてください。」

　アディールたちが城を出て駅に向かおうとしているとふたり組の街の娘に声をかけられた。

「あら、旅の人かしら。ちょうどいいところに来たわね。今から女王様の恵みの歌が始まるわ。旅の記念に聞いて行ったらどうかしら？」

　アディールが城のバルコニーを見上げると、澄みきった歌声を響かせるディオーレ女王の横には手を振るオーディス王子とメルー公。そしてセーリアの姿。

「ねえねえ、あの女の人だれかしら？」ふたり組のもうひとりが言った。

「もしかして王子様の彼女？」と最初の娘。「だとしたら、あの人が次の女王様なのかもね。」「私じゃなくて残念。」「あんたはハンサムに目がないだけでしょ！」「えへへ。バレたか。」

「アディール、違うって言わなくていいのか？」と聞くドドルに「それは僕たちが言うことじゃないよ。」とアディールが言い「オーディス王子が自分でそれにふさわしいことを証明しなければならないことですわ。」とキサラギも答えた。
「王子なら、きっとそれができるとワタクシは思います。」パルポスの言葉とともに、アディールたちは踵を返し、恵みの歌を後ろに聞きながら、駅の列車に乗り込んだ。

　行き先は、グレン。

　そこでホーローが待っている。

カインの冒険日記

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小説ドラクエ10－18章(13)