アディールたちは、今エテーネの村に立っていた。冥王に滅ぼされたエテーネの村。家々は焼け落ち、教会には落雷の跡が残っている。
「ここが・・・エテーネの村ですの?」とキサラギ。
「そうか、キサラギたちは、この村を知らないんだね。」とアディールが言った。
「でも、ここがおいらたちの本家なんだな。」ドドルが言うと「ワタクシも、この村ははじめてですねぇ。」とパルポスも。
そんなアディールたちの前に、ひとりの老婆が現れた。いや、生きている老婆ではない。老婆の霊。
「よくぞ戻ってきたのう。」と老婆が言う。
「アバ様!!」と叫ぶアディール。
腰までもある長い白髪を頭の両側で結んでいるエテーネの巫女。その姿は生きているときとほとんど変わらない。
「死して後もわしはこうしてずっとおまえを待っておったのじゃ。おかえり、アディールや。」アディールに会えたことを霊となった今でも嬉しそうな顔ぶりのアバ。「ようやくおまえにこのことを話せる日が来た。わしが幼い頃、ひとりの若い錬金術師がこの村を訪れ、わしを救ってくれたのじゃ。その者は、時渡りの術で、遠き未来より過去に飛ばされ、滅びの運命を逃れたエテーネの民。」
「まさか・・・その錬金術師って・・・」
「そうじゃ。おまえの妹、リリーネのことじゃ。わしは、リリーネが生まれたときから、そう名付けられたときから、それがあの錬金術師だと気付いておった。いや、知っておった、と言ったほうがよい。かつて錬金術師リリーネ本人に、そう聞いたことなのじゃからな。いや」アバは軽く首を横に振る。「それよりも前、おまえがカメ様の申し子として生まれたときから、そうなることがわかっておった。それはカメ様がお告げをくださったからではない。仮にお告げがなかったとしても、わしは知っておったのじゃ。」
その言葉を聞いたときに、ホーローとはじめて出会ったときのことをアディールは思い出した。ホーローは、アディールとはじめて会ったときから、アディールがエテーネの民であることを知っていた。それもまた、過去に遡ったリリーネの言によってなのだと、アディールはいま気付いた。
「おまえたちの成長を見守りながら、わしはかつて錬金術師が語った滅びの運命が我らに近付いていることを悟っていたのじゃ。」息継ぎをするように、アバはひと呼吸置いた。「さあ、ついてくるがよい。」と言って村の隅に向かって歩き出す。歩いているように見えてはいるが、実際には空中をふよふよと浮いたまま進んでいた。「お前が帰ってきた目的はわかっておる。すべては今日の日のためにあったのじゃからな。」
アディールたちがついて行くと、そこには、昔と変わらぬ姿で巨亀がたたずんでいる。
「カメ様・・・」という言葉がぼそりとアディールの口から漏れた。
巨亀の後ろには、ひとりの人間の体が安置されていた。黒い髪、中背の若い人間の姿。そして、アディールのよく知る姿。もう二度と見ることのできないと思っていた姿。
「僕の・・・体・・・」
アディールの目から涙がこぼれ落ちた。今のウェディの姿に愛着がないわけではないが、本来の、人間としての自分の姿を前に、アディールは歓喜する。
アディールの目から涙がこぼれ落ちた。今のウェディの姿に愛着がないわけではないが、本来の、人間としての自分の姿を前に、アディールは歓喜する。
「このとおり、魂の抜けたおまえの体をカメ様が守っていてくださったのじゃ。この体に触れれば、お前の魂は自然ともとに戻れるはず。さあ、触れてみるがよいぞ。」
アバの言葉に従って、アディールは自分の、人間としてのアディールの体に手を触れる。すぅっと人間の体に吸い込まれるような感触だった。
ウェディとしてのアディールの姿は揺らめくように消えてなくなり、人間の体に戻ったアディールが目を開いた。手足を少し動かしてみて、体の自由が利くことを確認してアディールは立ち上がった。
「おお!戻った!戻ったぞアディール!」アバが飛び跳ねて喜ぶ。ふよふよと空中に浮かんだまま。「さあ後は、カメ様に目覚めていただき、おチカラをお借りすれば。」とアバは一輪の花を取り出した。ユリにも似た青白く光る花。伝説の霊草、テンスの花。「この花はカメ様の真のチカラを呼び覚ますためのものじゃ。そして、後ろの3人も」とキサラギとドドルとパルポスにも目を向ける。「カメ様が目覚めれば、おまえたちの体をも元に戻せるはずじゃ。」
そして、アバがテンスの花を掲げて、巨亀に祈ろうとしたとき。
「まさかとは思ったが、ネルゲル様のおっしゃるとおりだった。」と上空から声が聞こえてきた。アディールたちが見上げると、そこには翼のある牛の魔物。アークデーモンがバサリバサリと羽ばたいていた。
「やっぱり。ホーローが言ったとおりだった。」とアディールも言う。「みんな、準備は?」
「できていますわ。」「いつでも大丈夫だぞ。」「今日のワタクシの呪文は冴えていますよ。」
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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