小説ドラクエ10-18章(12) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

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 しかし。
 業火はアディールまでは届かなかった。
 寸前に飛び込んで、アディールの前に立ちはだかる者がいた。その者は業火に身を包まれながらも、前進を続け、そして握りしめたレイピアを強く突き出す。
「オ、オーディス王子!!」
 砂色の髪のヴェリナードの王子。その突き出したレイピアは、ガラトアの横腹に突き刺さっている。
「キミたちがなかなか出て来ないから心配して戻ってきたんだ。来てよかったよ。」
「な・・・なんだと・・・?」ガラトアのうめき声。
「僕の鎧に呪文は通じない。」オーディスが纏っているのは紫に光る魔法の鎧。「どんなにお前の魔力が高くても、どんなに魔法の効果を打ち消そうとも、この鎧を纏った僕には呪文は通らない。」
 オーディスがレイピアを引き抜くと、ガラトアの白いローブが次第に赤く染まってゆく。
「今の一撃は会心の手応えだった。お前はもう戦うことはできないだろう。」
 オーディスの言葉は的を射ていた。ガラトアはドクドクと流れる血液を手で押さえるようにして後ずさっている。
「ここまでか・・・。無念だ・・・申し訳ありません、冥王様。・・・すまぬ、ピュージュ。」
「さらばだ!」とオーディスがレイピアを高く掲げたとき。

 轟音とともに、そのレイピアに雷が落ちた。
 はじめアディールは、オーディスが雷のチカラのフォースを使ったのかと思った。しかし、そうではなかった。オーディスの手からレイピアが滑り落ち、オーディスもまたバタリと倒れ込む。
「こ・・・これは・・・」
 驚いているのはガラトアも同じだった。「これはギガデイン!」
「間に合ってよかった!ご無事ですか、ガラトア様!」
 上空からバサリと翼をたたみながら銀白の猿が舞い降りる。「申し訳ありません。先ほどからこのチャンスを狙っておりました。ヤツが剣を振り上げたときにしか、ギガデインが通じないと思い。あの鎧には魔法が通じませんが、剣には雷が通ります。鎧を伝うことなく、剣から直接手へと流れ込めば、と。ガラトア様にトドメを刺そうとヤツが剣を振り上げるまで、私にも手が出せなかったのです。申し訳ありません。」
「よく来てくれた、シルバーデビル。賢くなったな。以前からは考えられぬことよ。しかし、私はもう助からぬ。」
 ガラトアの血がシルバーデビルの銀白の毛並みを赤く染める。「冥王様に伝えてくれ。申し訳ありませんと。ヴェリナードではこのひとつの魂しか手に入れることができなかった私をどうかお許しください、と。」ガラトアがキャスランの魂を手渡そうとする。
「お断りします、ガラトア様!」と銀白の猿が叫ぶ。「ガラトア様は生きてネルゲル様のもとへ帰るのです!その魂はガラトア様がお持ちください!さあ、ここから!」シルバーデビルはゲートを開いた。
「出血が多い。もはや助からぬ身。お前ならば、その5人にトドメを刺すことができよう。私はもう動けん。頼む。」
「お断りします、ガラトア様!」
 そう叫びながらシルバーデビルは、ガラトアの手を握る。すると、まるで生気を吸い取るかのように、ガラトアの呼吸の乱れが戻り、体の動きが戻る。
「もうよい!シルバーデビル!これ以上パサーをしてはお前も危ういのだ!もうよすのだ!」
「いいえ、ガラトア様。それもお断りします。ネルゲル様よりチカラをもらったゆえにガラトア様にたてついてしまうことをお許しください。どうあっても、ガラトア様のその命令には従えません。」
 ガラトアの回復とともにシルバーデビルはやつれてゆく。体が縮み、手足が縮み、翼が縮み、尾が縮み、そして耳が縮んだ。もはやその白銀色の体毛さえも抜け去り、赤い子供のような魔物の姿へと変わっていた。
「ガラトア様ー。」話しぶりも子供そのもの。もうシルバーデビルの面影はどこにもない。
「お前は・・・お前はもうベビルの姿に戻っているではないか・・・」
「ぶじでよかったですー。元気になってほしかったですー。」ベビルは小さな羽をパタパタと動かした。
「すまぬ・・・すまない・・・」ガラトアは頭を垂れた。
「ガラトア様はまだ戦っちゃダメですー。ここはぼくがくいとめますー。」ベビルはそう言うなりガラトアに体当たりをして、ゲートへと押し込んだ。思わずキャスランの魂を手から離す。魂は、スゥーっと迷宮の奥へと消えて行った。
「待て!お前も戻れ!戻るんだ!」ガラトアが通過したゲートは、ベビルだけを残して閉じた。
「おまえたちの相手はぼくだー!」と言ってベビルは起き上がったドドルに突進し、双竜打ちの前に敗れ去った。鋼の鞭の二閃を受けたベビルはもう再び動くことはなかった。
 みんなが立ち上がるのを待ってから、ドドルがぼそりと言う。
「今のベビル・・・アイツ悪いヤツだったのかな・・・」
 しばらく、誰も何も言えなかったが、やがてアディールが口を開いた。
「僕たちの戦いは、そういう戦いなんだ。」
 それ以上発言する者は誰もなく、一行は黙ったままヴェリナードへと戻った。




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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】



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