小説ドラクエ10－19章(4)

　ここナルビアの南にはサザミレ草原が広がり、草原の西にはポルネア山が、南には谷間の広場がある、とイッショウが言った。そして、青、白、緑、灰、赤、黒、金の七つの祠が点在するのだと言う。

「一番近けぇのは青の祠だな。ほれ、あれだ。」
　イッショウが指差す先には、小高い丘の上の建物が見えた。「この七つの祠はな、錬金術師の修行の祠とも言われてるんだ。お前も錬金術を極めたいんだったら、そこで修行するのもいいだろう。」

「うん・・・。でも、私、修行よりも先にエテーネの村に帰らないといけないの。」しかし、そうは言ったものの、絶海の孤島と言われるナルビアからエテーネへの道筋は、まるで見当がつかない。

「でも、リリーネがいなくなったとわかれば、村の人たちも探してくれるんじゃないかしら？」とリリオル。「この町には舟はないけど、エテーネの村から舟で迎えに来てくれるかもしれないし。」

「ううん。エテーネの村は、冥王ネルゲルにやられちゃったんだ。だから、私を助けに来ることもできない・・・と思う。」リリーネの声は弱々しい。

「めいおう？」イッショウが首をかしげた。「なんだそりゃ？」

「悪魔って言うか、魔物って言うか、とにかくそんなの！空を飛んでて、怖くて、お兄ちゃんが助けてくれて。・・・それで・・・」リリーネは下を向いてしまう。

「ああ、わかった。」とイッショウが話を遮るように掌を向けた。「あんまり思い出したくないみてぇだから、それは聞かねぇことにする。しかし、そうなると、別に行くあてもないんだろ？」

「なら、ここにずっといてもいいのよ？」と笑顔のリリオル。

「ううん。」リリーネは首を横に振る。「やっぱり、私その祠に行ってみる。何もしないよりもいいと思うし、それに、修行しないとアバ様にまた怒られちゃう。」

「そうか。」腕組みをしたイッショウ。「無事だといいな、そのアバ様も。」

「うん。ありがと。」

　町を出たリリーネは、サザミレ草原を南下して丘を登り、青の祠へと辿り着く。祠の扉を開くと、細い岩肌の通路が奥へと伸びていた。

「洞窟だったんだ。」

　洞窟は下り坂になっていて、リリーネが進もうと思わずとも、足が自然と前へ前へと下っていく。時折、ホイミスライムや腐った死体といった魔物たちがリリーネに襲い掛かり、リリーネはそれを振り切って逃げながら奥へ奥へと進んで行く。

「魔物が出るんだ・・・。私、こんな恰好でよかったのかなぁ。」

　自分の装備と言ったら、エテーネの服と腰布。テンスの花を取りに行ったときに魔導鬼ベドラーと戦ったこともあるとはいえ、それはアディールとシンイがいてのこと。ふたりが戦う後ろからホイミを唱えていればよかった。しかし、今リリーネはひとり。魔物のいる洞窟へ踏み込む姿としては、非常に危険だと言うほかない。

「でも、もうこんな深くまで来たんだし・・・」

　サザミレ草原の小高い丘を登ったのと同じぐらいの下り坂をおりてきている。おそらく、今いるのは、サザミレ草原と同じ程度の標高だろうと思えた。

「ええい！進んじゃおう！」

　と思ったとき。洞窟は行き止まっていて、もう先へは進めないところまで来ていた。袋小路になっていたが、その行き止まりにはゆらゆらと玉のような光が揺らめいている。

「これ、なんだろ。あ、でもこっちには宝箱。」

　揺らめく光のかたわらにある宝箱を開くと、白い石と分厚い本が入っていた。本をパラパラとめくっていくと、武器や防具の作り方が書いてある。

「これはレシピ帳ね。こっちの石はなんだろう？ま、いっか。帰ってイッショウさんに聞いてみよう。それと、この光は・・・」

　リリーネが光りに触れようとすると、ぐるんと一瞬目が回るような感覚がして、いつの間にか洞窟の外、青の祠の扉の前に立っていた。

「これって、なんかエテーネ村からここに来たときみたい。ゆらゆらの光に触れば、別の場所に行けるんだ、きっと。でも私・・・これで修行をしたことになるのかなぁ。」

カインの冒険日記