アディールたちは、王の部屋に残って院長の到着を待った。
「太陽の石のことは知っているだろうか?」
国王の言葉に「はい。古代の秘石で、この国のエネルギーの源だと聞きました。」とアディールが答えた。
「そのとおり。それ、そこの上に浮かんでいる大岩。それが太陽の石だ。」
国王が頭上を指差した。天井の高い部屋の上のほうに、黄金に輝く石が浮かんでいる。石が浮力を失って落下したら、アディールたちはまず助からないだろうと思うほど、巨大な秘石である。
「心配するな。あれはまだ落ちては来ない。エネルギーを取り出すごとに輝きが失われていくが、あれにはまだチカラが残っている。」と、王は心配そうな顔のアディールに言った。「昔はいくらでも掘り出せたらしいのだがな。今ではまったく採掘できなくなった。それが最後のひとつ。最後の頼み。最後の灯だ。」悲痛な悩みが垣間見える話しぶりだった。「そういう事情があって、我が国では新しいエネルギーの開発に国を挙げて積極的に取り組んでいる。ドルワーム研究院も、そのための機関なのだ。今日の発表というのも、そのことだ。研究院の院長はドゥラ院長と言ってな、齢16歳にして優秀な研究者だ。私の子ラミザも同じ年齢なのだが、院長を見習わせてやりたいものだ。」ウラード王は目を閉じたまま軽く首を横に振る。「あ、いや、すまぬ。息子のことは関係のないことだった。」ついつい愚痴が出た、という口ぶりだった。
「失礼します、ウラード王。」
「おお、来たか院長。」
院長と呼ばれたドワーフは、研究者らしい白衣と白帽子を着用している。16歳とは思えないほど、りりしい顔つきで、目元に力がある。
「国王。報告します。」と院長は頭を下げた。そして「こちらの方たちは?」とアディールたちに目を向ける。
「そちらは旅のアディール殿だ。構わず話を続けてくれ。」
ドゥラ院長は、アディールたちからぷいっと目を外し、国王に向き直った。
「はい。ついに太陽の石に輝きを戻す方法を見つけました。」
「なに!?」ウラード王は驚いて玉座を飛び上がった。「本当か!?しかしそんなことが可能なのか?」
「まずはこちらをご覧ください。」
そう言ってドゥラ院長は手に持っていた風呂敷を開いて黄金色に輝く石を差し出す。
「そ、それはまさか太陽の石!?」
「そう、太陽の石です。」
院長は石を軽く投げ上げた。石はキーンと神秘的な音を響かせて、その浮力で部屋を昇っていく。やがて頭上の巨大な秘石にぶつかり、秘石を強く輝かせてから、同化してその輝きの一部となった。
「しかし、いったいどうやって枯渇した幻の石を手に入れたのだ?」
国王のその問いに、院長は胸を張って答える。
「創り出しました。実際にやってみましょう。」
院長がそう言うと、数人の研究員が黒紫色の霧を発する石を持ってきた。
「院長!それは!」国王の渋みのある声が、少し高音になっていた。
「はい。瘴気の塊、魔瘴石です。ですが、直接触れないように、この魔法布の上に置いておけば問題ありません。でははじめます。」
ドゥラ院長は、目を閉じて手で印を結び、ぶつぶつと古代語のような言葉をつぶやいた。すると、魔瘴石の下の魔法布に陣が現れ、黒紫の石が徐々に色を変えていく。やがて石は黄金色の輝きを発した。
「こ、これは!!魔瘴石を太陽の石に変えたというのか!?」
「はい。魔瘴石と太陽の石。陰陽の違いはあれど、どちらも強いチカラを秘めた石。私の研究を活かせば、そのチカラを簡単に転じることができます。もっと多くの魔瘴石があれば、頭上の太陽の石にさらなる輝きを取り戻せます。」
「な、なるほど。見事だ、院長!」王は手を叩いてすぐに部屋の兵士に言った。「それでは国中に御触れを出す。魔瘴石を持ち帰った者には褒美を与える。より大きな石には、より大きな褒美をつけると書いておくのだ!」
「待ってください、王様!」と、アディールが叫んだ。
「おお、どうしたのだ?」
「魔瘴石を持ち帰って来るのは危険です。ベルンハルトはそれを狙っているのかもしれない。」
「しかし、各地からは魔瘴がなくなり、この王室では太陽の石が出来上がるのだから一石二鳥ではないか。ドゥラ院長は魔瘴を封じようとしているのだぞ?そなたも、むしろ願っていることではないのか?」
「聖なるチカラと邪なるチカラを転換させるのはベルンハルトのやり口です。メギストリスでも、奴は聖なる儀式を邪悪なものに変えてしまったんです!」
「ふうむ。だが、それこそがまさしくドゥラ院長のやろうとしていることの正しさを証明するものではないのかな?その対なるチカラは転換ができるのだろう?そなたはそれを見たのだろう?」
「はい、この目で見ました。だから今回のこの魔瘴の転換がベルンハルトのやり口に似ていると思うんです。」
「そなたは、この方法を考えたのがドゥラ院長ではなくベルンハルトだと言うのか?院長に対する侮辱は私が許さんぞ。」
「いえ、そういうわけでは・・・。でも、なにか・・・いやな予感がするんです。」
「国王!このようなよそ者に、ドルワームの何がわかりましょう!」そう言ったのはドゥラ院長。「あなたがたは、私たちの研究の何を知っているのですか?そうやって口を挟むのは容易いが、ならば他にこの国のエネルギーの枯渇問題を解決する方法を提案できるとでも言うのですか?所詮は、この国に身を置かない者の軽口。私たちは確かな科学的根拠を持っている。あなたの言う予感という不確かな言葉では、私たちの正しさを否定することはできない。」院長はウラードを向き直して言った。「だいたい、この者たちがドルワームのことを考えているのかどうかも疑わしいものです。ドルワームのことは私たちドルワーム人が解決せねばなりません。」
「うむ。ドゥラ院長の言うことがもっともだ。アディールよ、そなたがベルンハルトという者のことで心配するというのであれば、ともに魔瘴石の採掘場に行って確かめて来てはどうかな?そなたがベルンハルトを止めることができれば、そなたの心配も晴れるということなのだろう?」
「話はまとまりましたね。採掘場に行くのも魔瘴石を持ち帰って来るのも構いませんが、私たちの邪魔だけはしないでいただきますよ、アディールさんとやら。王様、魔瘴石はカルサドラ火山に多く埋まっています。どうぞ、御触れにはそのようにお書きください。」
散会し、王の部屋を出ようとするアディールとドドルに、ドゥラ院長が後ろから追い越しざまに声をかけてきた。
「ドルワームを救うのはあなたじゃない。この私だ。」そう言って院長は早足で階段を下りていった。
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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