「おいら、あのイッドって奴キライだなー。」風車塔に向かいながらドドルがつぶやいた。
「ドドル、見かけだけで判断するのはよろしくありませんわ。」そう言うキサラギも、しかしイッドに好印象を抱いているわけではなさそうである。
「しかし、魔物が出るというのであれば、ワタクシたちが倒しに行くのは間違ってはいないはずです。」と、パルポス。
「プーポッパン王、イッド、フォステイル。いったい誰を信じればいいんだ。」ザーンバルフも難しそうな表情をしている。
アディールたちがキラキラ風車塔へと着いたときには、もう兵士と傭兵は揃っていた。
「遅かったな。」兵士のひとりが言い「準備はいいか?」ともうひとりが言った。
ふたりの兵士を先頭にして傭兵とアディールたちが続く。風車塔の中の昇降機を使って塔内部を上へ上へと昇っていく。アディールたちは最上階へと到達し、儀式の間の前まで来た。
「扉を開くぞ。」と兵士のひとりが左の扉に手をかけた。
「一気に飛び込むんだ。」ともうひとりの兵士が右の扉に手をかけた。
ふたりは同時に扉を開き、傭兵とアディールたちが部屋の中に流れ込む。
「どこだ!?」誰かが叫んだ。
「出て来い!!」別の誰かも声を上げた。
さほど広くない部屋であるのに、魔物の姿はどこにも見当たらない。隠れるような場所もなければ、上から攻撃してくる様子もない。
「なんだ?いないじゃないか。」最初に叫んだプクリポが剣を納めた。
「ここじゃないのか?」2番目に声を上げたプクリポも槍を背中に戻した。
「そういえば、この風車塔の人たちは魔物を恐れている風ではなかったぞ。観光客でにぎわってた。」
「王様の勘違いじゃないのか?」
拍子抜けしたように、傭兵たちの緊張感が一気に解けた。
「勘違いなどではない。」そう言ったのは、城就きの兵士。
「しかし、魔物なんていないじゃないか。」と、傭兵のプクリポ。
「この儀式の間にはもとより魔物などおらぬ。お前たち討伐隊を集めるためのウワサにすぎん。」兵士は腰の剣に手をかける。
「なんだって!おれたちを集めてどうしようってんだ!」
「どうもこうもない。全滅してもらうのさ。お前らは儀式のための生贄だ。」もうひとりの兵士は、背中のオノを握った。「我が名は魔兵タナト!」と咆えてオノをひと振りし、一度にふたりの傭兵を血まみれにした。
あわわ、と後ずさるプクリポたちの背中側から、もうひとりの兵士が「我が名は魔兵ヒプノス!」と唸って剣を抜き、ひと振りで2人の傭兵が錆となった。
ヒプノスとタナトの迅雷のごとき剣とオノの舞いに、アディールたち以外の傭兵は、誰も対処できずに血を流して倒れた。
「あと5人。お前は右から攻めろ、タナト。」と片方が言い「わかった、挟み込むぞ、ヒプノス。」ともう片方が言った。どちらがどちらかを見分けるのは困難を極めた。
アディールたちは、ふたりの魔兵によって挟まれた状態になった。
「しかし、考えようによっては悪くない。」ザーンバルフが言う。「俺がオノのほうを引き受ける。アディールとドドルは剣のやつと戦ってくれ。そうすれば、中心にいるキサラギとパルポスには敵の攻撃が届かないはずだ。要は背中を守れれば挟み撃ちは怖くない。」
ザーンバルフの作戦はうまくいった。オノ使いのタナトは、ザーンバルフのロストアタックに阻まれてなかなかテンションを上げれずに、剣兵ヒプノスのラリホーマもキサラギのザメハによって無効化されている。一方で、パルポスのヘナトスの効果でヒプノスの剣撃が鈍り、それに乗じてアディールがバイシオンでドドルを援護する。そして、勢いづいたドドルのモーニングスターの先端の鉄球がヒプノスを襲う。
「ぐあああっ!」ヒプノスはたまらず悲鳴を上げた。「くそ!タナト、一度退くぞ!」
そう言ってヒプノスは後ろに飛び退いた。タナトも、ザーンバルフの棍撃の勢いを殺すように跳び下がる。今度はヒプノスとタナトが互いの背後を守り合うようにアディールたちに半身で対した。
「おやおや。好都合ですねぇ。」パルポスが呪文の詠唱を始めた。「集まってくれたほうがやりやすいこともあるのですよ。ヒャダルコ!」パルポスの掛け声とともに、魔兵たちに氷の槍が降りかかる。と同時に、今度はアディールのバギが魔兵を襲った。風の刃がタナトを切り裂き、今地面に落ちたばかりの氷の槍のかけらが再度宙を舞ってヒプノスに突き刺さる。
「ぐおお!これはいかん、離れるぞヒプノス!」タナトがそう言って、ヒプノスと距離を取ろうとする。
「あ、そこはさっきおいらがジバリアを仕掛けたところだぞ。」
ドドルがそう言ったときには、すでに地面に描かれた魔法陣から無数の岩の弾丸が撃ち上げられていた。岩の弾丸は魔兵の堅い鎧を突き破り、タナトはドサリと地面に倒れた。
「おい!タナ・・・」ヒプノスは最後まで言葉を発することはできなかった。ザーンバルフの突き上げる棍が盾を弾き、間髪入れず振り下ろされる二撃目の棍撃によってふたり目の魔兵も地に沈んだ。
「終わったな。」ザーンバルフが手首をくるりと捻ると、まどろみの棍がぐるんと一回転してトン、と床に着地した。
「くっくっく。」倒れたままでヒプノスが笑っている。「見事だ。だが儀式の間はすでに討伐隊の血で汚された後。すべてはイッド様の計画どおり。」タナトも咳き込みながら肩を震わせる。「お前たちの血か我らの血か。いずれでも構わないのだ。これでイッド様の計画が成就されるのだ。」
「そんなことはさせない!」
アディールの力強い声に、ヒプノスは言う。「ならば王に報告するがよい。魔物などいない、すべてはイッドのたくらみだ、とな。だが王はどちらの言葉を信じるかな?」「イッド様の計画は、すでに完了しているのだ。」タナトはそう言いながら、黒紫の霧と化す。ヒプノスのほうは、すでに霧散してしまっていた。
アディールの力強い声に、ヒプノスは言う。「ならば王に報告するがよい。魔物などいない、すべてはイッドのたくらみだ、とな。だが王はどちらの言葉を信じるかな?」「イッド様の計画は、すでに完了しているのだ。」タナトはそう言いながら、黒紫の霧と化す。ヒプノスのほうは、すでに霧散してしまっていた。
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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