小説ドラクエ10-18章(9) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

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「ま、まさかバサグランデ様が・・・」
 そうか細い声を出したのはキャスラン。激戦を繰り広げた誰しもが、その存在を忘れかけていた偽りの占い師。「あ、あいつが言ったとおりにしたのに!なんなのよっ!バカみたいじゃないのよ!」
 捨てゼリフを吐いて逃げ去るキャスランを追おうとする者は誰もいなかった。
「キャスランは折りを見て僕が捕まえる。ヴェリナードにおいて、しかるべき刑罰を与えることにするよ。」と、オーディスが言った。「ありがとう、アディール君。キミのおかげで、母上もセーリアも救われた。いや・・・」オーディスは首を横に振った。「本当に救われたのは僕だ。僕のせいで母上が、ヴェリナードが失われたかもしれないと思うと、心を引き裂かれる思いだ。それをキミが助けてくれた。」
「アディールよ。」
 ディオーレもアディールに歩き寄った。「このたびは本当に世話になった。ぜひ礼がしたい。ともにヴェリナードまで来てくれ。」
「はい。」と頷くアディールと「ではワタクシのリレミトで。」と言って詠唱するパルポス。
「おや?」とパルポスは首をかしげた。「どうやら呪文の使いすぎで、魔力を使い切ってしまったようです。早詠みは楽ではありませんねぇ。」
「はは。確かに。」とオーディス。「あれだけの尋常じゃない早詠みだ。相当な魔法力を使ったのだろう。僕の魔力を使ってくれ。」オーディスはパルポスの肩に手を当てて自分の魔法力を流し込んだ。
「これは・・・パサーですか。おかげでまた魔法が使えそうですねぇ。助かりましたよ。」と言って、パルポスはリレミトゲートを作った。
「すまぬ。」「ありがとう。」「ありがとうございます。」と言ってディオーレとオーディスとセーリアはゲートから出て行く。
 アディールたちもそれについて脱出しようとしたときに、部屋の出口から喧嘩口調のような声が聞こえるのに気付く。女性の声。
「キャスランだ!」アディールたちは部屋の出口のほうへと走った。
「あんたが言ったんでしょ!」と、強い口調のキャスラン。「バサグランデ様の封印を解けば世界を支配できるって!それなのになによ!バサグランデ様は支配なんてどうでもいいって言うし!て言うかボンクラ王子にやられちゃったし!」
 キャスランの向かう相手は、柱の陰になってアディールからは見えない。
「ふむ。仕方のない。よもやここまでとは思わなかった。」聞いたことのある声。アディールは咄嗟にはその声の主を思い出せない。「いや、ここまでだったのだろう。そうでなければ、魔瘴竜玉を使ったピュージュがやられるはずがない。」声の主が柱から一歩前に踏み出す。アディールからその姿が見えた。
 悪魔神官!ピュージュが鏡を使って通信していた相手!
「どう責任取ってくれるのよ!?」と食いかかるキャスランの目の前に悪魔神官は掌を差し出す。
「ひとつなどでは全く足りぬが、無いよりはよいだろう。」
 そして無表情なまま悪魔神官はひとつの呪文を唱えた。「ザキ。」
 キャスランの体が、糸が切れた操り人形のように崩れ落ちる。そして、そのキャスランから湧き出たほのかな光を掌に納めた。
「十万、百万の魂を献上するはずが、このひとつでは到底冥王様に合わせる顔がない。そして」柱から歩き出た悪魔神官は、アディールたちを見た。「お前たちを冥王様のところに行かせるわけにはもちろんいかぬ。」
 悪魔神官は、ゆっくりとアディールたちに正対した。
「必要のないことかもしれぬが、一応名乗っておこう。私はガラトア。冥王様の参謀をする者だ。」その表情はひとつ目の仮面に隠れて全く窺い知れない。
「今の・・・キャスランをどうしたんだ?」アディールがガラトアを睨んだ。
「どうしたとは?」と、ガラトア。
「殺したのか?」
「当たり前ではないか。先のやりとりを見ていたのだろう?」
「なんて・・・なんて酷いことを・・・」
「酷い?そうか、現場を目の当たりにすれば酷くも見えるか。人間の魂は、我々魔族の食事なのだ。もちろん、ウェディもオーガも、だ。」
「それが酷いと言ってるんだ!」
「お前たちは草木を食べるのだろう?獣や魚を食べるのだろう?その命を奪うことを酷いと思うのか?」
「それは・・・」
「食物連鎖の下位の者は上位の者に喰われて死ぬ。下位の者を喰えない上位の者は時期が来れば死ぬ。どちらか一方は必ず死ぬのだ。わかりやすいだろう?」
「それにしたって、お前たちはアストルティア中の魔瘴や魂を吸い取ろうとしているんだろう!?」
「確かに我々は強欲でもある。ここにひとり分の食事があるのに、これだけでは満足しないのだからな。」ガラトアはそう言ってキャスランの魂を見せた。「しかし、なにぶん500年分の食事を調達せねばならんのだ。それに、冥王様は大食でおられる。ヴェリナードすべての魂を奪うつもりが、このひとつだけ。全く足りぬ。」
「それが弁明か?」
「弁明?なぜ弁明などせねばならぬ?お前は、自分が食する魚に弁明したことがあるというのか?」
「アディール。まともに話を聞いてはいけませんわ。」とキサラギが耳打ちをする。「ベルンハルトにも似た理屈屋ですわよ。」
「ベルンハルトか。」
 キサラギの声が届いたのか、ガラトアがそう口にした。「奴も戻らぬが、お前たちが倒したのか?」
「・・・ベルンハルトは死んだ。」アディールは細部までは話さなかった。
「そうか。口もそうだが腕のたつ信頼できる男だったのだが。これも一応聞いておこう。ピュージュもお前たちが倒したのだな?」
「それを知ってたから、僕たちが来ることを予言したんじゃないのか?」
「その口ぶりからは、ピュージュはすでに死んでいるのだな。私は予言したわけではない。可能性をあの女に伝えただけだ。もしピュージュが生きているのなら、お前たちが死んでいるということ。だとしたら、可能性が外れても、なんら困ることはない。逆にピュージュがやられたとすると、お前たちがこのヴェリナードへやってくることになる。そうなれば、逆に利用してやれとあの女に言ったのだ。」
「なぜいつもそうなんだ・・・なぜ自分でヴェリナードを滅ぼさずに、なぜ自分がバサグランデの封印を解かずに、人間やウェディに、過ちを犯させるんだ?」
「お前たちにはわからぬかもしれぬが、そう、お前たちの言葉で言うのなら、そうしたほうが旨いのだ。魂にも味がある、とでも言っておこう。雑然と食事をするよりは、スパイスの効いた料理を食すのが、お前たちはよいと思うのだろう?魔族にとって、その魂は、その者がどんな恐怖にかられて死んだのか、どんな罪悪に苛まれて死んだのか、それが旨さに影響するということ。その味付けのために様々な演出をする。そう、お前たちが様々な調理をするのと同じだ。さて、話はこれぐらいでいいだろう。どうせ死にゆく者。あまり長々と話す必要もないだろう。出でよ、地獄の使いたちよ。」




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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】




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