17章 白き者
ザーンバルフとキサラギとパルポスの3人は、王都カミハルムイの土を踏んでいた。
王都カミハルムイは隅々まで整備が行き届いた街。よく整えられた敷石の道の曲がり角はすべて直角で、建物は木造で外観も統一されている。人々が集まってできた街ではなく、 住むことが決まっている住民が先にいて、それに合わせて造られた計画設計都市である様子が窺われた。というのも、この王都は50年前に移転して再建された街であり、それ以前は、北の夢幻の森にある城が正式な王居として使われていたという歴史がある。今、この王都の中央に鎮座するカミハルムイ城は、現王ニコロイが即位したときに建てられたものだという。以来50年に渡って、カミハルムイはニコロイ王によって治められていた。
「ここがカミハルムイか。」
「綺麗なところですわね。」
「ピュージュはどこにいるのでしょうねぇ。」
「まずは城へ行ってみようぜ。」
ザーンバルフたちは、その美しい街並みを中央に向けて進み、掘と石垣によって二重に護られた王城へと足を踏み入れた。
場内は床張りになっていて、その床は鏡のようにぴかぴかに磨かれている。
「いらっしゃいまし。」という声に振り向くと、掃除婦がぴかぴかの床にモップを這わせていた。モップが通った後は、さらにぴかぴかになっている。
「いらっしゃいまし。」という声に振り向くと、掃除婦がぴかぴかの床にモップを這わせていた。モップが通った後は、さらにぴかぴかになっている。
「あの。」とキサラギが掃除婦に声をかけた。「ここは靴を脱ぐところですかしら?」
「いえいえ。どうぞ履物のままお上がりください。」掃除婦はそう言って掌でぴかぴかの廊下を示した。
「ありがとう。」と言って歩を進めるキサラギに、ザーンバルフが「おい、靴脱ぐところなんてあるのか?」と不思議そうな顔で耳打ちをする。「ええ。エルトナでは、わりとよくあることですわ。」と、キサラギは笑顔で頷いた。
城内は、ぐるりと一周渡り廊下で繋がっていて、各部屋はその外側に位置し、渡り廊下に囲まれた内側には、池の周りに玉砂利が敷き詰められる、手入れの行き届いた庭園が広がっている。その美しい庭園の中でも、ひと際目を引くのが、中央にたたずむピンク色の花を咲かす巨木。風が吹くと、その花弁が雪のように舞い、庭の池にはらりと落ちて水面を微細に波立たせた。
「サクラ、でございます。」
そう言ったのは、さっきの掃除婦。ザーンバルフたちがサクラに見とれていたので、また床にモップを這わせながら寄って来ていたのである。
「サクラはこの国にだけ繁殖する新種。カミハルムイの若いハネツキ博士の発明なのでございます。」掃除婦は、少し自慢げに言う。「ハネツキ博士は魔瘴の研究もなさっていて、先日もドルワーム研究院の院長から論文の感想のお手紙を拝受しておいででした。」
「魔瘴・・・それはどのような研究なのですか?」と、パルポスが聞くと「詳しいことは存じ上げません。ハネツキ博士のお部屋はそこの突き当たりですので、直接お聞きすることもできましょう。」と、掃除婦はまた掌で奥の部屋を示した。
ザーンバルフがその部屋をノックすると「はぁい。」という若い女性の声が聞こえた。3人が部屋に入ると「なんでしょうか?」と若いハネツキ博士は聞く。
「魔瘴の研究をしていると伺いましたわ。」と、キサラギ。
「研究のことを聞きに来たのね。私は暗黒大樹と魔瘴の関連性の研究をしているの。この世界にはいくつもの不思議なものがあるわ。光の河とは何なのか。世界樹とエルトナ大陸はどのようなチカラをもってして互いに影響を与えているのか。アストルティアの外側にはどのような世界が広がっているのか。研究を始めようと思えば、テーマは数えきれないほどあるのよ。魔瘴の研究に限ったって、細分化すればどんどん狭く深く研究を進めることができるの。」
ハネツキ博士の口調がだんだん流暢になってきた。
「その中でも、私は暗黒大樹がどのように魔瘴を発生させるのかという研究を始めたの。それを解き明かすためには、まず魔瘴とは何か、を知る必要があるわよね。魔瘴とは何かしら?魔瘴という物質があるのかしら?それは、霧という物質があるのかどうか、と同じ疑問だわよね。霧という物質はないわ。水よ。すなわち、魔瘴という物質もまた存在しないと言えるわ。じゃあ、魔瘴の構成成分になり得ると思われる微粒子が存在するとして、仮に魔粒子と名付けることにするわね。この魔粒子が霧状に分散した状態が魔瘴であるのならば、その魔粒子はどこから来たのかしら?私たちの身の回りの物質が変化してできたのかしら?それとも突然湧き出たものなのかしら?その発生原理を確かめなければならないわね。もし、その魔瘴の温床である暗黒大樹の幹から魔粒子が抽出できたなら、どこから魔瘴が現れたか、という疑問にひとつの答えを提案することができるかもしれないでしょ?でもそうなると、次の疑問が生まれるの。それは・・・」
ハネツキ博士の口調がだんだん流暢になってきた。
「その中でも、私は暗黒大樹がどのように魔瘴を発生させるのかという研究を始めたの。それを解き明かすためには、まず魔瘴とは何か、を知る必要があるわよね。魔瘴とは何かしら?魔瘴という物質があるのかしら?それは、霧という物質があるのかどうか、と同じ疑問だわよね。霧という物質はないわ。水よ。すなわち、魔瘴という物質もまた存在しないと言えるわ。じゃあ、魔瘴の構成成分になり得ると思われる微粒子が存在するとして、仮に魔粒子と名付けることにするわね。この魔粒子が霧状に分散した状態が魔瘴であるのならば、その魔粒子はどこから来たのかしら?私たちの身の回りの物質が変化してできたのかしら?それとも突然湧き出たものなのかしら?その発生原理を確かめなければならないわね。もし、その魔瘴の温床である暗黒大樹の幹から魔粒子が抽出できたなら、どこから魔瘴が現れたか、という疑問にひとつの答えを提案することができるかもしれないでしょ?でもそうなると、次の疑問が生まれるの。それは・・・」
「あ、あの・・・」ザーンバルフがたまらず両手と声を上げた。「その話、あとどれくらい続くんだ?」
「なに?まだ序論の途中だからぁ、本論と結論はもうしばらく後よ。それで、次の疑問というのが・・・」
「ああ、いや、その。要はこう言うことだな。暗黒大樹のところに魔瘴が多い、と。」
「え?そうよ。でもそれは単なる常識的な事実であって、私の研究はその事実をどう考察して、私の仮説をどのように証明するか、ということなの。それで、次の疑問に続くのだけど・・・」
「いや、その、もう結構です。もういいだろ?パルポス?キサラギ?」そう言ってザーンバルフはそそくさとハネツキ博士の部屋を飛び出した。「学者に話を聞いたのが間違いだったな。冥王やピュージュだってそんな原理なんか知らないに決まってるぜ。」
「ワタクシたちが知りたかったのは、単なる常識的な事実であったみたいですねぇ。」
「私は楽しかったのですけれどね。でも、最初から王様のところに行くべきでしたかしらね。」
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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