「ベルンハルト!大丈夫か!?」
アディールは駆け寄った。
「ああ。・・・ごふっ!」ベルンハルトは口から血を吐き出した。「いや、大丈夫ではないな。どうやら折れたあばらが、内臓に突き刺さっているようだ。」
「すぐに治療を!」
「そう慌てなさんな。治療などしなくてよい。助かりたいわけでもない。」
「どうして・・・どうして僕たちを助けたりしたんだ。自分だけを守っていれば、こうはならなかったはずだ。」
「なんのことだ?」
「最初にあんたが拳を受けたとき、それであばらが折れたんだろう。あんたはあのとき、スクルトを使った。僕たちを守るためだ。自分だけだったら、速く唱えられるスカラのほうがいい。魔法力だって少なくて済むし、それに、そうしていればあの拳だってかわせたはずだ。」
「さて。そうだったか。」
「マホトーンだってそうだ。あんたはマホターンだってマホステだって使えるんだ。自分を守るためだったら、効くかどうかわからないマホトーンなんて使うはずがない。そしてベホマラー。ベホイミを使わずにわざわざベホマラーを使った。全部僕たちを助けるためだ。アストロンだって・・・」
「なぜ泣いている?」
「僕はあんたを止めに来たんだ。」
「だったら泣く必要などない。私はもう動けない。私はもう止まったのだ。お前の望みが叶ったのだ。」
「違う!僕が止めたんじゃない!僕のせいで止まらされたんだ!」
「同じことではないのか?」
「僕はあんたに導かれてここに来たんだ。メギストリスに行ったのだってそうだ。僕は自分で決めたつもりだったけど、それはあんたに誘導されていたんだ。だから・・・だから僕はあんたに勝ってなんかいない。僕はあんたを止めてなんかいない。」
「・・・面倒な奴だ。ではこう言い直そう。私はお前に変えられたのだ。お前が私を変えたのだ。なぜだろうな、スクルトを唱えようという気になったのだ。マホトーンを使わねばならぬ気になったのだ。今わかった。それは、お前と何度も会話を交わすうちに、私はお前に感化されていたのだ。お前自身の行動で私を止めてみせろと私は言った。しかし、それまでのお前の行動で、すでに私の考えは変わっていっていたのだ。お前は私が宿題を課する前から問題を解き終わっていたのだ。何も気に病むことはない。」
「でも・・・だけど・・・」
「ではなぜお前は私に味方する気になったのだ、などという愚問を私にさせたいのかな?私がスクルトを唱えるより前に、お前は私に味方することを決めていた。しかし、それはなぜかと問おうとは思わん。死にゆく私がそれを知る必要などない。お前が知っていれば、それでよい。私はもともとこの時代にいるべき者ではない。私が消えて、世界は正しい形へと戻る。古代魔法にはこのようなものもあるのだ。」
天に手を向けたベルンハルトに、陽だまりのような暖かい光がキラキラ降り注ぐ。
「皆が皆お前のようだったら、私も今こうしてはいなかったかもしれんな。・・・さらばだ。ニフラム。
光に包まれたまま、ベルンハルトは霧となって消えた。
天に手を向けたベルンハルトに、陽だまりのような暖かい光がキラキラ降り注ぐ。
「皆が皆お前のようだったら、私も今こうしてはいなかったかもしれんな。・・・さらばだ。ニフラム。
光に包まれたまま、ベルンハルトは霧となって消えた。
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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