ニコロイ王たちが去った後。
「またやってくれたねぇ。」どこから入ってきたともわからない少年がとことこと近付いてくる。顔には白化粧。その少年の本当の表情はうかがい知れない。「ジュリマリのときは退いたけど、今度という今度はもう許せない。」
「お前はピュージュ!ピュージュなのか!?」
ザーンバルフが驚くのも無理はない。ピュージュの顔の白化粧に描かれていた模様は道化師のものではない。赤い顔料で、怒りの表情をあらわす隈どりがなされていた。
「ボクはねぇ、やられっぱなしというのが大っキライなんだ。」ピュージュの声は、その隈どりが表す表情と同じように怒りを伴っている。
「それはこっちのセリフだ。」と言ったのはザーンバルフ。「ガートラントでは取り逃がしたが、ここで決着をつけてやる。」
「今すぐにでも片付けてやりたいところだけど、一応確認しといてやるよ。アディールたちはどうしたんだ?」
「アディールたちはドルワームだ。今頃ベルンハルトを倒しているかもな。」
「フンっ!あり得ないね!」ピュージュはぷいっと顔を逸らした。「アイツのことはキライだけど、ベルンハルトは強い。ここにいないということは、ドワーフのチビもアディールについているんだろうけど、でも、それでもベルンハルトに勝てっこないね。アイツはどんな呪文だって使えるんだ。古代呪文でさえね。オマエたちがみんなでかかっても、きっとベルンハルトには勝てない。」
「キライだと言ってるわりには、高評価ですねぇ。」
「だったら、俺たちはお前を倒して、アディールたちに加勢に行くだけだ。」
「フンっ!それもあり得ないね。ボクはねぇ、冥王様に新しいチカラをもらったんだ。」
ピュージュはそう言ってピカピカに磨かれた魔石鏡と、掌にちょうど収まるほどの大きさの黒い玉を取り出した。
「もういいですよね、ガラトアさま?」と魔石鏡に向かってピュージュが言うと、魔石鏡に映し出された白い仮面の神官が「冥王様から授かった魔瘴竜玉があるから問題ないとは思うが、無理をするでないぞ。」とピュージュに言った。
「無理なんて何もないですよ。これを片付けて、ボクもヴェリナードに駆けつけますよ。」とピュージュが言い「こちらのことは気にしなくてよい。それより、必要なら地獄の使いを遣わせるが?」とガラトアが言う。
「いいえ結構。ボクの不始末ですからね。ガラトアさまにも冥王様にも迷惑はかけませんよ。では。」
「待てピュージュ!」
ピュージュはそう言ってピカピカに磨かれた魔石鏡と、掌にちょうど収まるほどの大きさの黒い玉を取り出した。
「もういいですよね、ガラトアさま?」と魔石鏡に向かってピュージュが言うと、魔石鏡に映し出された白い仮面の神官が「冥王様から授かった魔瘴竜玉があるから問題ないとは思うが、無理をするでないぞ。」とピュージュに言った。
「無理なんて何もないですよ。これを片付けて、ボクもヴェリナードに駆けつけますよ。」とピュージュが言い「こちらのことは気にしなくてよい。それより、必要なら地獄の使いを遣わせるが?」とガラトアが言う。
「いいえ結構。ボクの不始末ですからね。ガラトアさまにも冥王様にも迷惑はかけませんよ。では。」
「待てピュージュ!」
ピュージュは魔石鏡をポイっと投げ捨て「お待たせしたねぇ。」と言って黒い玉のほうを口の中に押し込み、ぐびっと飲み込んだ。その途端、少年の姿が鋭いツメと牙を持つ巨竜へと変化した。
「冥王様にもらったこの竜玉で、ボクはドラゴンのチカラを手に入れたのさ。」
竜となったピュージュは大きく息を吸い込み、そして魔瘴の息を吐き出した。
「冥王様にもらったこの竜玉で、ボクはドラゴンのチカラを手に入れたのさ。」
竜となったピュージュは大きく息を吸い込み、そして魔瘴の息を吐き出した。
「いけませんわ!フバーハ!」
キサラギの反応が速かったおかげで、一瞬早くザーンバルフたちを包んだ光の衣が魔瘴をやわらげた。ピュージュが鋭いツメをパルポスに振りかざすと、ヘナトスを唱えてツメを鈍くされ、致命傷を与えることができない。その長い尻尾でザーンバルフを叩こうとすれば、棍をうまく使って尻尾を受け流される。
「なるほどねぇ。そうやって寸前のところでいつもいつも持ちこたえて邪魔をして。ムカつく。ムカつくよ。絶対ここでくたばらせてやる。」
ピュージュが牙やツメでザーンバルフを襲い、ザーンバルフが棍でそれに応戦する。ザーンバルフの傷をキサラギが癒し、その後ろから飛んで来るパルポスのメラミがピュージュを燃やす。
「ぐぅぅ。」とピュージュがよろけながら後ずさった。「なるほどねぇ。洗練されてるじゃないか。ムカつくね。だけど、わかったよ。キミたちの攻略法がね。」
「今頃わかったって遅いぜ、ピュージュ!」とザーンバルフが棍を叩きつける。「お前にはそんな余力はない!」
「ぐぅむぅ!痛い!けど、オマエの攻撃は痛いだけだ。痛いのをガマンすれば、オマエなんか怖くない!」ザーンバルフの棍撃を無視しながら、ピュージュは体から不気味な光を発した。そして「次の呪文で、オマエの魔法は封じられるんだ。」と言って「マホトーン!」と唱えた。すると、パルポスの体を魔法陣が取り囲み、その陣がパルポスを絞めつける。
「むぐぐ。ワタクシの魔法が・・・」
「フンっ。これでオマエはもう役立たずだ。」
「大丈夫ですわ!今マホリーを!」
そう言ってキサラギがパルポスに向かってスティックを突き付ける。
「ふふふ。そういうのを待ってたんだよね!」ピュージュが尻尾を激しく振って、そのキサラギのスティックを叩いた。スティックはパキッと音を立てて折れ、キサラギの手から離れた。
「えっ!?こ、これでは・・・」
「これでは強い呪文が使えないんだよねぇ?」キサラギに言葉をかぶせるようにピュージュが言った。「これでふたり目。倒そう殺そうとするからみんなやられるんだ。殺すのは最後でいい。ひとりずつ確実に封じていくのさ。ぐうぅぅ!」
ザーンバルフの棍は、ずっとピュージュを捕え続けている。「そんな余裕はお前にはないはずだ!お前が俺に倒されれば、お前の目論見も終わる!」
「ぐ!っふふ。そうかな?だんだん攻撃の威力が落ちてるじゃないか。蜘蛛にやられた傷が完治してないんだろ?」そう言ったかと思うと、素早くピュージュがツメを振り下ろし、ザーンバルフの腹部を突き刺した。
「ぐわっ!!」ザーンバルフの顔がゆがんだ。「う、う、うおおぉぉ!」ザーンバルフはまた棍を強く振った。と、同時に、腹部から大量の血が流れ出る。
「ぐぐぅ!そんな態勢から攻撃してくるとはね。でも、腹を刺されてそんなに強撃したら、傷口が広がるに決まってるじゃないか。回復したって血が戻るわけじゃない。蜘蛛にやられた後だ、出血が多すぎるんじゃないかなぁ?もうキミは動けないよ。」
ザーンバルフは、がくんと膝をつく。棍が手から離れた。ザーンバルフは、落とした棍を拾おうとするが、手に力が入らない。棍を握ることができない。「くそっ!」と小さく言って、ザーンバルフは腹這いに倒れた。
「これで3人。もうキミたちは何もできない。ボクの勝ちだ!どうだ!ザマぁ見ろ!」
「まだ終わっていませんわ!」キサラギがザーンバルフに走り寄ろうとしている。
「そうだった。キミたちはまだ元気だったんだっけねぇ。それにしても、スティックがないとベホイミを飛ばすことさえできないなんてねぇ。笑っちゃうよ。直接触らないと回復できないんだねぇ。どうせホイミぐらいしかできないんだろうけどね。でも、ホイミじゃ、もう間に合わない。ふふふ、もう終わりだよ!」
ピュージュは息を吸い込んだ。そして、吐き出そうとして、それを止めた。
「ああ、そういえばフバーハ使ってたっけねぇ。じゃあ、これが先だね。」
ピュージュはその巨体をぶるんと震わせた。すると、体から凍てつくような波動が広がった。その波動が、キサラギたちが帯びた光の衣をはぎ取る。「これでもうキミたちを魔瘴の息から守るものは何もない。」
ピュージュは息を吸い込んだ。そして、吐き出そうとして、それを止めた。
「ああ、そういえばフバーハ使ってたっけねぇ。じゃあ、これが先だね。」
ピュージュはその巨体をぶるんと震わせた。すると、体から凍てつくような波動が広がった。その波動が、キサラギたちが帯びた光の衣をはぎ取る。「これでもうキミたちを魔瘴の息から守るものは何もない。」
「間に合って。」キサラギは倒れているザーンバルフへと駆け寄り、膝をついた。
「さあ、ホイミを使いながら死ぬといいよ!」空気がピュージュの口の中に吸い込まれている。
「借りますわよ。」キサラギはザーンバルフに短く言い、落ちているまどろみの棍を握った。そして、そのままピュージュに向かって突進した。
「なんだ!?回復するんじゃないのか!?」
不意を突く形でキサラギはピュージュに棍を振りかざす。「ぐぅわぁ!」
「氷結!」キサラギはそのまま棍を回転させて2撃目を繰り出し、それがまたピュージュを捕えた。キサラギの動きはまだ終わらなかった。「乱撃!」キサラギの棍は回転を続け、ピュージュにさらに2発の棍撃を叩きつけた。
「ぐぅぅぅ!そ、そんな・・・」背中からどしんとピュージュが倒れて仰向けになった。
「私、棍も扱えますのよ。さあ、ザーンバルフの治療がありますの。時間をかけられませんわ。さようなら。」
キサラギの第5撃が冷徹に振り下ろされた。
「ううう・・・」と震えながら、ピュージュの体が小さくなっていく。そして、竜の体から、少年の体へと戻った。「くそっ!もう少しだったのに!」仰向けのまま叫んだ。
「キサラギさん。もうワタクシのマホトーンは解けました。あとは任せてください。ザーンバルフさんの手当てを。」
パルポスの言葉でキサラギはザーンバルフのほうへと走って行った。
「ピュージュ!どうした?戦いは終わったのか?」
魔石鏡から、悪魔神官ガラトアの声が響いた。ピュージュがのそりと立ち上がって、魔石鏡の前まで行った。「ええ。終わりましたね。」
魔石鏡から、悪魔神官ガラトアの声が響いた。ピュージュがのそりと立ち上がって、魔石鏡の前まで行った。「ええ。終わりましたね。」
「その姿はどうした!?無事ではないのか?」
「アイツらは強いですねぇ。」
「やられたのか!いや、しかし今はそれはいい。すぐに戻って治療をするのだ。カミハルムイのことはもうよい。」
「いいえ。ガラトアさま。ボクにだって意地があるんですよ。」
「つまらぬ意地を張るな!神殿に戻れ。また冥王様が新しいチカラをくださる!」
「ヴェリナードに行けなくてすいません・・・。でも、アイツらにも行かせません。」
「どういうつもりだ、ピュージュ!?お前、まさか!?」
「では、ごきげんよう。そして、さようなら・・・ガラトアさま。」
「ピュージュ!戻るんだ、ピュージュ!ピュー・・・」
プチっと交信を切って、ピュージュは魔石鏡を置き、パルポスに向き直った。
「と、いうわけさ。ボクは負けた。ボクは死ぬんだ。だけど、ひとりでは死なない。キミたちと聖地も、ボクと一緒に死ぬんだ。」
「もうおやめなさい、ピュージュ。」パルポスが言う。「あなたのしようとしていることはわかっています。だからワタクシは、おやめなさいと忠告する。」
「わかっているんだったら、忠告じゃないだろ?お願いだろ?本当はわかっていないんじゃないの?」
「いいえ、忠告です。ワタクシがわかっていないのではなくて、あなたが気付いていないのです。あなたの望みは叶わない。」
「そんなわけないだろ?はっ!」ピュージュは手刀で自分の心臓を突き刺した。「はっ、さあ、ボクの心臓が生贄だ・・・。この生贄のチカラで、ボクの魔力は爆発する。」ピュージュは心臓を強く掴んで叫んだ。
「メガンテっ!!」
「メガンテっ!!」
パルポスは首を横に振った。「だからおやめなさいと忠告したのです。」
「な・・・なんで・・・?まさか・・・いつのまに・・・マホトーン・・・」
ピュージュは心臓を掴んだままドサリと倒れ、そして風化するように魔瘴となって消えた。
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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