ずいぶんと長い時間が経過し、アディールが目を覚ました。
「ここは・・・?」
アディールは体を起こして、水辺の草むらに寝ていることに気がついた。
「ここはオアシスの隊商宿だど。」
行商人にそう言われて周りを見回すと、オアシスの周りにいくつかのテントが並び、旅人が休憩をしたりバザーが開かれたりしている。とはいえオアシスの外は一面の砂世界。アディールのいるところは木陰になっているものの、木が生えているのもオアシスの周りのほんの一部だけ。それ以外は、アディールが倒れた砂漠となにも違いはない。
「ドドルは?もうひとり仲間がいませんでしたか?」
アディールが聞くと、行商人は「子供みたいなドワーフのことだか?おまいさんをここに休ませてから、宿のほうに行ったけどな。そういえば、もう長いこと戻って来ないだど。おまいさんがここに来てから、もう四半日経つだど。」と答えた。「それから、そんな薄着で砂漠を歩いちゃいかんだど。日射しを直接浴びちゃならん。分厚い外套でも買っていくのがいいだど。さて、ここは衣類の店だど。安くしとくけど、買っていくかい?お仲間のぶんも一緒に買っていくかい?」
うまい流れで外套を2枚買わされたアディールは、自分のぶんをサッと羽織った。外套の下はマタドールスーツ。それほど薄着であるとは思わないが、やはり背びれを露出させるのはまずいと、アディールも思っていた。背びれごと外套で覆うと、灼熱の日差しも、いくぶん和らいだ。ドドルのぶんを肩から提げて、アディールは宿のテントへと足を運ぶ。宿のテントでドドルはぐっすり寝ていた。
「ドドルがここまで運んでくれたんだよね。ゆっくり寝かせておいてあげよう。」そうつぶやいて、アディールはドドルの目覚めを待った。
ドドルが目を覚ましたときには、日が暮れて、星が輝く闇夜が訪れていた。アディールとドドルは、星明かりの下、ドルワームへと足を向けた。
「ドドル、昼間はありがとう。おかげで助かったよ。」
「おいらも、もうダメかと思ったんだ。ザーンバルフみたいにアディールの肩を支えて歩こうと思ったんだけど、全然動けなくて。そんなときにデザートランナーから襲われたんだ。ダチョウみたいに足が速くて、とても逃げられなかったんだけど、ムチで叩いたら混乱して。そしたら、倒れてたアディールを咥えて逃げ出したんだ。おいらそれを追いかけてきたら、ここに着いたんだよ。」
「そんな不思議なことがあったんだね。いや、でも助かったよ。」
砂漠の夜は寒い。昼間の灼熱が嘘のように冷え込んでいる。雪こそ降っていないものの、気温だけならランドン山脈とも同等であるようにも感じる。ビューと寒風が吹きつけると、昼間とは逆に今度はドドルの足が鈍る。
「アディール、おいら寒いのはダメなんだ。」
ドドルは、外套をギュッと握り、身を縮こまらせている。アディールは、自分の外套を脱いで、2つ折りにしてドドルの肩にかけた。
「ドドル、これを着なよ。僕は寒いのは大丈夫なんだ。」
ふたりがしばらく歩くと、オレンジ色のダチョウのような魔物が現れた。
「アディール!あいつだよ、デザートランナー!」
ドドルが魔物に飛びかかり「螺旋打ち!」と叫んでモーニングスターを叩きつけた。先端の鉄球がデザートランナーの頭部を捕え、魔物はクワー!と鳴いてのけ反った。態勢を立て直したデザートランナーは、アディールたちに襲い掛かるのかと思いきや、自分の尻尾に噛みつこうかとするかのように同じところをぐるぐると回っている。
「ほらほら、アディール!こいつら、混乱してよくわからない動きをするんだ。」そう言ってドドルはデザートランナーの背中に飛び乗った。
ドドルが乗っても、魔物は気にすることなく同じ動きを続けている。ドドルは鉄球でデザートランナーの尻を打った。
「クアーッカッカッカ!」
よくわからないが、ドドルがデザートランナーを乗りこなしているようにも見える。
「アディール!ほら、ここ乗れるよ!」と、ドドルが言うので、アディールも背中に飛び乗った。ふかふかとして、乗り心地のよい背中だった。
ドドルが尻を叩いてはデザートランナーが走り、障害物のない広大な砂漠を右に左に曲がりながらアディールたちは砂漠の中を進んで行く。
「ドドル、全然まっすぐ走ってないんだけど、君が操作しているのかい?」とアディールが聞くと「ううん。おいらも全然わからない!」と気分がよさそうにドドルが言った。アディールの心配にまったく気付いていないようである。
やがて夜が明け、また灼熱の炎天下が近付いて「アディール、これ着たほうがいいよ。」とドドルが外套を脱いでアディールに渡そうかというときになって、やっとふたりを乗せたデザートランナーはドルワームの入り口に辿り着いた。
「結局、どうやって来たのかよくわからなかったぞ。」と、ドドルが楽しそうに言って、ぴょんと飛び下り、それに続いてアディールも魔物の背中から降りた。
デザートランナーは、クワーと鳴きながら、また砂漠へと消えていった。
「結局、どうやって来たのかよくわからなかったぞ。」と、ドドルが楽しそうに言って、ぴょんと飛び下り、それに続いてアディールも魔物の背中から降りた。
デザートランナーは、クワーと鳴きながら、また砂漠へと消えていった。
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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