小説ドラクエ10-22章(3) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

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 部屋の奥の玉座に、その声の主、冥王が足を組んで座っている。
 額から2本のツノを突き出した逆立つ銀髪の冥王は、玉座の肘かけを使って頬杖をついていた。そして、その玉座の両側にはアークデーモンにも似た巨大な黄色い牛の魔物と悪魔神官ガラトアが控えている。

 ようやく辿り着いた因縁の相手との対峙。アディールはついに冥王と相見える場へと辿り着いた。その冥王のニヤリとする冷笑に、アディールはエテーネを滅ぼされた時の恐怖と激昂した気持ちを思い出した。
「冥王!」その恐怖心を振り払うように、アディールは叫んだ。そうやって自分を鼓舞しなければ、恐怖に押しつぶされそうになったからだ。

「威勢のいいのは相変わらずだが、それもここまでの話。」冥王の研ぎ澄まされた声が響く。「この冥王に己が魂を捧げるために自ら現れるとは、よい心掛けよな。」
 牙城に踏み入られたというのに、冥王の表情は涼しげなもの。僕たちが攻め込んだと思っていたのは、本当は呼び込まれていたんじゃないのか。
 アディールのその心配は現実のものとなった。
 突然突き出された冥王の手から発された衝撃で、アディールたちの体の自由が奪われてしまう。冥王とアディールの距離は、声がかろうじて届くかどうかというほど離れているにもかかわらず。
「こ・・・これは・・・!」アディールの手足は、まるで見えない鎖に縛られているかのように、その空間に捕えられて身動きすることができない。横目に見えるキサラギとドドルとパルポスも、それは同じようであった。
「これが、この居城で我が無敵だと言った理由だ。」と研ぎ澄まされた声。「その冥府の縛鎖は死者たちの怨念で編まれたもの。生者には決して解くことはできぬ。」
 冥王の言葉どおり、アディールたちは縛鎖に動きを封じられ、何をすることもできないでいる。ただ「冥王!」と叫ぶだけしか。
「さて、これで終わりというのも少々興が削げるが、所詮はここまでか。」物足りなさそうな発言をしたかと思うと、冥王はキッと目を見開き、玉座を立ち上がって大鎌を握り「死ねっ!」とアディールへと投げつけた。それはベレスが持つよりもずっと大きな冥界の鎌。冥界の鎌は、ぐるんぐるんと回転しながら動けぬ身のアディールへと迫る。

 回転する大鎌がアディールを捕え、ガキンと音がする。
 アディールと冥王が同時に目を見開いた。
「何!?」「何だと!?」
 アディールを捕えたはずの大鎌は、アディールに触れる直前で跳ね返り、勢いを失って冥王のほうへと飛んでいく。その鎌をパシッと手に取り「どういうことだ?」とアディールのほうを睨んだ。
 そこには、ウェディとしてのアディールの姿があった。人間アディールの目の前に立ちはだかるウェディのアディールの霊。
「生者に解けない鎖も、死者になら解ける。」とウェディの霊は言った。「この鎖を生みだした死者たちの怨念は僕が引き受けた。」霊となったウェディがそう言うのと同時に、アディールたちの縛鎖がほどかれる。「これでもうキミは自由に動ける。怨念たちは、僕が一緒にあの世へ連れて行くよ。」ほどけた縛鎖とともに、ウェディのアディールはすぅっと消えて行く。「だからキミはネルゲルのほうを。」最後の声はそう聞こえた。

「ふははは!」縛鎖が解かれたのを見て、冥王はむしろ笑った。「よもや霊魂が我に逆らい冥府の縛鎖へも解き放つとは。これは珍しいものを見せてもらった。」クックッと笑い続ける冥王。「見事だ。エテーネの民アディールよ。」そして冥王の銀色の目がアディールを睨みつけた。「こうも見事にやられてしまうものとはな。エテーネを滅ぼしたつもりが、巨亀によって魂を隠され、各地で魔瘴を興させようとすればそれを個々に封じられ、見張りを置いていたにもかかわらずまんまと体を取り戻され、そして今また、冥府の縛鎖をも解きほどかれたのだからな。いや、それよりも、歴史を変えて破邪舟の術を現代に残し、この冥王の心臓まで乗り込んで来たことのほうが、よほど驚くに値することだろう。ことごとく我の読みの上を行く。見事と言う他ない。」
 誉め言葉とも取れる冥王のその言葉を聞きながら、しかしアディールの首もとはぐっしょりと汗で濡れている。冥王がそう言っている間にも、アディールは息苦しいほどの緊迫感に押し寄せられていた。
「いいだろう。どれ、この冥王がひとつ相手をしてやろう。」
 冥王がそう言ってアディールとの距離を詰めようとすると「お待ちください!」と後ろから叫ぶ声。アークデーモンにも似た黄色い牛。その声は低く、アディールたちが聞き取るのに苦労するほどの低音。
「ここは私めに行かせてください。私めの不覚により、歴史を塗り替えられてしまったのでございます。」悪魔神官ガラトアもそう言った。
 しかし、その臣下たちを冥王は鎌で制す。「ベリアル。ガラトア。少しは遊ばせろ。そこに座り続けるのにも退屈していたところだ。」と言って視線で玉座を示した。「どうやら、退屈しのぎになりそうだ。」
「冥王様!!」というベリアルとガラトアの声を待つこともなく、逆立つ銀髪のネルゲルは空中を滑るようにアディールのほうへと詰め寄った。



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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】



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