「どうした、ガラトア?悪い知らせか?」ベリアルはのしのしと封印の間の扉をくぐる。扉は、ベリアルの巨体でも十分に通れる大きさだった。
「いえ、ベリアル殿。ラズバーンの封印を解く方法がわかりました。」冷静なガラトアの声。
「なに!それは本当か!?」ベリアルの驚嘆の声が響く。
「封印の正体はアストロン。古代の聖呪文でございます。」
「バカな!アストロンは防御呪文ではないか!ならば、ラズバーンは自らを守るために身を固めたと言うのか!?」
「いえ。アストロンを使ったのはベルンハルト。こやつは自分の身を守るためではなく、ラズバーンを封じるために呪文を唱えたのです。」
「しかし、アストロンを500年も維持できるものなのか?」
「並みの術師ではなかったということの証明でしょう。しかし、術の正体がわかってしまえば、解除するのは容易いことです。ベリアル殿、波動を。」
「う、うむ。なるほど、どうりで光の波動が効果をもたらさなかったわけだ。よもや、ラズバーンに凍てつく波動を浴びせることになるとは、想像だにしなかったことよ。」言いながら、ベリアルは目を閉じて呼吸を整える。
「致し方のないことでございます。凍てつく波動は弱体の波動。味方に浴びせることなど、あり得ないことゆえ。」
ベリアルは、すー、と息を吸い、そして目を見開き、力を込めて腹部を激しく振動させた。その振動から生まれた波動が、ラズバーンを照らす。
金属の塊であったラズバーンの体に鼓動が戻り、薄紫色の肉体が封印から解き放たれた。
その途端「き、貴様!我を封印しようとも、我らの王はいずれ必ず!」と雄叫びをあげた。
「ほう。まだ状況が飲み込めておらんようだな、守護者よ。」ベリアルは動き出したラズバーンをしげしげと観察する。
「無理もありませぬ。こやつは500年前から時を止められたまま。500年が過ぎていることなど、知りようもありませぬ。」とガラトア。
ベリアルは、うむ、とひとつ頷くと、ラズバーンの前に歩み出た。ラズバーンの巨体が子供に見えるほどに、ベリアルの体は大きい。「守護者ラズバーンよ。戦いはもう終わっている。」
ラズバーンは、眼前のベリアルを睨み上げた。「なんだ、貴様は?」
「わしはベリアル。冥王様の僕となる者だ。」
「べ、ベリアル殿・・・」現魔軍の王でありながら、僕になる者、と謙譲の姿勢を見せるベリアルに、ガラトアは驚いた。もちろんその驚きの心境は、仮面の表情からは窺い知ることはできない。「あ、いや。私はガラトアと申す。同じく、冥王様に仕える者。」と、すぐに冷静さを取り戻した。
「ほほう?」ラズバーンは、腕を組みながら軽く顎を突き出す。続けろ、という意味だった。
「守護者よ、そなたの中、冥王様のタマゴには、十分な量の魔瘴が貯まっておる。それはわかっているであろう?」と、ガラトア。
「無論だ。今まさしく、我が王へ身を捧げようとしていたところよ。それをベルンハルトめが。・・・ベルンハルト・・・貴様、ベルンハルト!」鋼鉄の姿である魔道師ベルンハルトの像が視界に入り、ラズバーンは突然激昂した。
「待て、守護者よ。」と、それを諌めたのはガラトア。「あやつは今、自らのチカラの大きさゆえに身動きが取れぬ。ここは私とベリアル殿に任せて、そなたは冥王様誕生の儀を行うのだ。」
しばらくベルンハルト像とガラトアを見比べながら「いいだろう。それで?儀式はどこで執り行えばいい?」とラズバーンは言った。
ラズバーンの言葉に「王座の間はベリアル殿の・・・」と言いかけて、ハッとガラトアは口をつぐむ。今、王の座に就いているベリアルの前で、その席を奪うような発言にもなりかねない、と思ったのだ。
「よい。冥王様がお生まれになれば、わしは王でもなんでもない。玉座に座るべき王の誕生の儀、玉座の間で行うのが至極当然なことよ。」
ベリアルはそう言って、ラズバーンとともに玉座の間へと足を向けた。
ガラトアは封印の間にひとり残り、懐から取り出した手帳に目を落とす。
「ふむ。使えるかもしれん。」
冥王誕生の儀は、タマゴの守護者による7日7晩の瞑想を要する。ラズバーンが瞑想を始めてから4日が過ぎた。
「これで、ついに冥王様がお生まれになる。500年・・・、下々の者たちはさぞ待ちくたびれたであろうな。」そういうベリアルもまた、長い苦しみを乗り越えたからこその安堵の表情を浮かべている。「時にガラトアよ。ベルンハルトを処分しないのはなぜだ?ラズバーンが蘇った今となっては、やつには存在価値がないであろう?術者を始末して術が解けなくなるという心配もなくなった。」
しかし、ガラトアの答えは、ベリアルには予想もつかないものだった。
「あやつをこちらにつけましょう。」と、ひとつ目の仮面のガラトアは言う。
「バカな!」ベリアルが驚きの声を上げた。「破邪舟の術が魔族にとって脅威であることを忘れたわけではあるまい!」
「お忘れですか、ベリアル殿。オーガの首はオーガに、人間の首は人間に絞めさせましょう。聖なるチカラと魔のチカラ。方向は逆を向いていますが根源は同じ。心の隙を突けば容易に転化できること。」
「しかし!」
「あやつには、もはや戦う理由がありませぬ。これをご覧ください。」
ガラトアは、懐の手帳をベリアルに差し出す。太い指でページをめくり、ほうほう、と頷きながら興味深そうに手帳を読んでいるベリアルを見て、ガラトアは一礼する。
「私にお任せください。」
凍てつく波動を浴びたベルンハルトの像は、その表面がまるで高熱で融解する金属のようにドロドロと流れ去り、柔らかな人間の姿を現した。若草色のローブ姿の壮年の魔道師は500年ぶりに動かした両手を眼前で開いたり握ったりしている。
「ほう。アストロンが解けたか。・・・して、お前たちは何者だ?味方ではなさそうだが?」ベルンハルトはひとつ目の神官と翼のある巨牛を交互に見つめる。
「味方でないこともない。」神官のほうが無表情に答えた。
「と言うと?」魔道師が警戒の表情を浮かべる。
「お前はなぜ戦う?」
神官の唐突な質問に、魔道師は戸惑い「どういうことだ?」と少し声を荒げた。
「何のために戦うのかを聞いているのだ。何を得るために戦う?何を守るために戦う?」
「・・・そんなことを聞いてどうする?」
「これを読んでみよ。」
神官が差し出す手帳を訝しげに受け取り、パラパラとページをめくる。
「それが何か、わかるだろう?」
「・・・これは・・・、日記・・・。カイの日記だ。」
「そう、お前の従者だった男だ。」
日記を読み進めるにつれ、ベルンハルトの表情は青ざめていった。
「どうした?なんと書いてある?」
ベルンハルトは答えられなかった。
「驚くのも無理はない。真実とは残酷なものであるからな。」神官はベルンハルトの前をゆっくりと往復しながら抑揚のない声で暗唱した。「かつて破邪舟を使って勇猛果敢にもひとりでレイダメテスに乗り込んだお前は、民衆の絶大な支持を受けてグレン城を出立した。そこに、そのときの従者カイとお前の子エルジュの誇らしげな心情が綴ってあるだろう?」チラリと魔道師を見て、続けた。「しかし、帰らぬお前を罵る声が増え、ついには国中がお前をホラ吹き呼ばわりをするようになった。あるときエルジュは、当時の城主シオドーアが公の場で平然と帰らぬお前を愚弄する姿に憤り、ナイフで斬りつけた。ナイフはシオドーアを仕留めることはできなかったが、エルジュは暗殺者として処刑された。」
ベルンハルトの足は震え、もはや立っていることもままならぬほどだった。
神官はさらに続ける。「そんなエルジュを見て、民衆はどうだった?処刑される子供を見て、意を唱えもせず、同情もせず、処刑台に石を投げつけた。国中が、だ。人間とは哀れな生き物だな。」
「もう、やめてくれ・・・」ベルンハルトの声が弱々しく響く。
意に介さず、話は続く。「その従者もまた、虐待に耐えかねて、心の拠り所もすべて失い。最後のページには遺書が書かれているだろう?」膝をつき、耳を塞ぐベルンハルトに、なおも話続ける。「その日記から500年の年月が経った。今では、グレン城はオーガの手により取り戻され、当時の人間による支配はとうに終わっている。無論、破邪舟の術も途絶えている。・・・そう、それから。お前が命をかけて戦っていたラズバーンだが、あやつもあと3日の命だ。我らの王の誕生のため、命をかけて儀式を行っている。仮にお前との個人的な私怨があったとしても、お前は、それを晴らす必要すらないというわけだ。」
両手両膝をつき、頭から垂れた長い髪は床まで届いている。振り乱れた髪に隠れて、もはや表情は見えない。
「お前が倒したかった者はもういない。お前が守りたかった物は、もう何もない。息子、従者、家族、国、正義、勇気、団結、名誉、もう何もない。」
ガラトアは軽く膝をついて、項垂れたベルンハルトの顔を見つめた。
「もう一度同じ質問をしよう。お前は何のために戦う?」
ラズバーンの瞑想が7晩目を迎えた。
玉座の間は、静寂に満ちていた。ベリアル、ガラトア、ベレス、ベビル、グレムリン。そして黒ローブの男。
誰も声を発せず、固唾を飲んでラズバーンを見守っていた。
静寂を破ったのはラズバーンだった。
「時は満ちた。」目をゆっくりと開き、ゆっくりと周りを見渡す。と、黒ローブの男に気がつく。「ほう。貴様がこちら側にいるとはな。ずいぶんと身なりが変わったではないか。」
「もうお前と敵対する理由がなくなったのでな。」黒ローブの男がラズバーンから視線を外さずに言う。
「よもや貴様に、このような形で最期を見られるとは思いもよらなかったぞ。」ラズバーンは不敵に笑い、そして儀式は最終段階を迎えた。
「王よ。我らが王よ。私を糧に、さあ目覚められよ。」
そう唱えたラズバーンの体は徐々に石のように光沢のない鉱物へと姿を変えていく。
そして。
ピシッ。ピシピシッ。
先ほどまでラズバーンであった鉱物にヒビが入り、頭部の表面が剥がれ落ちる。そしてその中からは、新しい顔が現れる。
紫白の端正な顔立ち。長いまつ毛。天を突くように逆立つ長い銀髪。額からは2本のツノが生え、耳は鋭く尖っている。目を閉じたままでも、その圧倒的な存在感に、一同は身震いをする。
「め、冥王様!」そう呼びかけるベリアルの声は震え、肌のイボのひとつひとつが鳥のような細かなイボに覆われている。
「冥王様!」ベリアルとほぼ同時に、ガラトアもその名を呼ぶ。
「冥王様!」「冥王様!」一同は口々に主の名を叫ぶ。
名を呼ばれた王の胴を覆うラズバーンの石体に大きくヒビが入る。
「冥王様!」「冥王様!」皆が皆、王の名を連呼する。
そして。
冥王の眼が唐突に開き、銀色の瞳が場を射抜いた。と、同時に、石の体が飛び散るように剥がれ、冥王の全身が露わになる。ラズバーンよりひと回り小さいものの、その威圧感はラズバーンと比べるべくもない。
「我が名はネルゲル。冥界より出でし冥府の王。」その声は高くも低くもなかったが、玉座の間全体に届くほど響きのある、研ぎ澄まされたそれだった。
ネルゲルは、ベリアルに視線を向けた。「ほう。我の目を直視してしまったか。」
ベリアルは、立ったまま眠るように意識を失っている。
ネルゲルは右手の親指と中指を合わせ、ベリアルに向けて軽く弾いた。と、その衝撃から、強烈な波動がほとばしり、ベリアルの巨体が照らされる。ベリアルは、はっ、と目覚め、「申し訳ございません!」と膝をついて頭を垂れた。
「よい。」ネルゲルは、それを右手で制す。
「冥王様。こちらをお召しください。」ガラトアは、漆黒の鎧と兜を冥王に差し出した。
「ふむ。それは興が削げる。」ネルゲルはそう言うと、左手の人差し指と中指を立てて、空気を裂くように空中で指を滑らせる。
すると、何もなかったはずの空間に裂け目が入り、破れた布のようにめくれた空間から暗黒の霧がこぼれ出す。ネルゲルは、その闇の裂け目に右手を差し込み、ひと振りの大鎌を抜き出した。自身の背丈よりもいくらか大きな冥界の鎌。
ガラトアはその鎌の放つ妖しい光に身をこわばらせた。その鎌をもってすれば、何ものも切れぬものはない、そうガラトアに思わせる輝きが、その鎌にはあった。
ネルゲルは大鎌を振り下ろしながら身をひるがえした。
次の瞬間、ガラトアは、あっ、と声をあげた。ガラトアが大鎌を目で追っている間に、ネルゲルはすでに着衣していたのだ。道化を思わせるような緑と薄紫の縞々の服。肩から羽織った黄色のマントが揺れる。服の上から髑髏の胸当て。確かに、興といえば興とも思える。
ネルゲルは、玉座のほうを振り向き、一瞬の後、おおよそ近いとは言えぬその玉座にふわりと腰を下ろした。跳躍でもなく飛行でもない。何のモーションもなしに、空間を滑るように、誰もが反応できないほど高速で鮮やかに飛んだ。一同は、ただ銀髪の王に見とれるばかりだった。
「さて、ガラトア。」ネルゲルの声が冷たく響く。
「は。冥王様。」玉座のネルゲルに跪くガラトア。
「世界を魔瘴で封印するにあたって、参謀としてのお前の意見を聞こうか。」
「参謀・・・ありがたきお言葉。では申し上げます。この世界には、冥王様にとって不都合なチカラが存在しておりました。いずれのチカラも今では途絶えておりますが・・・」ガラトアは冥王の表情を窺う。杞憂と言えば杞憂。冥王の存在感を知った今となっては、無駄な心配であったと思ったからだ。
「続けよ。」しかしネルゲルは、ガラトアの言葉に興味を持った。
「は。」ガラトアは頷き「まずは破邪舟の術。500年前に途絶えた、魔瘴を破る聖なる術でございます。ただ、ここにはあの男がおります。」と、黒ローブの男のほうをふり返る素振りをした。「500年前の破邪舟師ベルンハルトでございます。」
「ほう、あの人間が破邪舟師か。」ネルゲルは少し顎を上げ、ベルンハルトを下目で見据えた。
「破邪の術はそのまま破聖の術へと転換することができます。」ガラトアはそこまで言って声を細める。「あの男を洗脳すれば、破邪の術を恐れることなく破聖のチカラを意のままに操れましょう。」
「無粋な。」ネルゲルは目を閉じて首を横に振る。「臣下を率いるに際して、王が洗脳を行わねばならぬというのか。」そして、おかしそうにクックッと声を漏らし「そのような王が世界を牛耳れると、お前は思うのか。」と続けた。
「し、失礼いたしました。では・・・」ガラトアが上目でネルゲルを見上げる。
「そのままでよい。あやつは裏切らぬ。もっとも、」ネルゲルはまたクックッと声を漏らす。「我が斃れた場合は知らぬぞ。」
「ご、御冗談を!」
慌てるガラトアを右手で制す。
「話を続けよ。」ネルゲルが顎で促した。
「は。ふたつ目の脅威は時渡りの術。古代よりエテーネの民にそなわった時空を遡る術でございます。こちらも数百年前には術師が滅びております。そして3つ目に、」
「勇者のチカラ。」左手に頬を預けたままネルゲル言う。
「は。そのとおりでございます。しかし、これもまたすでに失われております。」
「隔世遺伝というものを知っているか?」
唐突な問いかけに対し、ガラトアは答えに窮した。
「能力が滅びたように見えても、血が途絶えない限りは、いつまた覚醒しても不思議はないということよ。血脈を断ち切らねば、能力が滅びたことにはならぬ。無論、覚醒したのが時渡りであったなら、過去に遡って破邪舟と勇者のチカラを後の世に残す可能性すらあろう。すなわち、エテーネの民を滅ぼして時渡りの血脈を絶ち、レンダーシア全土を魔瘴で覆い、未来永劫に渡って3つのチカラをすべて封ずる必要がある。なあ、参謀?」
「おっしゃるとおりでございます。加えさせていただきますと、エテーネの血脈がエテーネの中にしか存在しないとは断言できませぬ。エテーネを出たエテーネの子孫もまた滅ぼす必要がございます。」
「うむ。よかろう。我の留守はベリアルに任せよう。主として、ここレイダメテスを見ておくのだ。」
突然のことに驚くベリアル。「まさか、冥王様ご自身がお出になるのですか!?下賤の民を滅ぼすことなど、我々でも十分でございます。冥王様のお手を煩わせる必要などございません!」
「ベリアルよ。お前はまだ興がわからぬのか?」ネルゲルの視線がベリアルを刺す。
「は。し、しかし・・・、では、どうぞ供をお付けください。」
「ふむ。供が必要だとも思えぬが、いいだろう、お前の心配心がわからぬわけでもない。よし、そこのお前たち、我に同行せよ。」ネルゲルの視線は、グレムリンとベビルに向けられていた。
「はいー!」「はいー!」思いもよらぬ指名にビクリとした返事。
今度はガラトアが驚く。「こ、こやつらは冥王様のお役に立てるような者たちではありませぬ!」
「そうか。では、お前たちにチカラと知恵を授けよう。」
ネルゲルはまた親指と中指をパチンと弾く。と、グレムリンの体が見る見る巨大化し、翼が伸びる。ベリアルにも似た姿形。アークデーモンだった。
「こ、これは・・・。チカラがみなぎってくるようです、ネルゲル様。」アークデーモンの声は低く、口調は明瞭で、先刻までのグレムリンとは似ても似つかない。
ネルゲルは、今度はベビルに向かって指を弾く。ベビルの手足は伸び、翼が伸び、尾が伸び、耳が伸び、最後に体毛が白銀色へと変化する。銀白の猿、シルバーデビル。
「ネルゲル様。私どもはネルゲル様に忠誠を誓います。」シルバーでビルの声はやや高いものの、やはりベビルとは似つかないものだった。
「これでどうか?」ネルゲルは、ガラトアとベリアルに向き直る。
「は。御意に。」
「ただ、これでは参謀から部下を奪ったようでもある。」
ネルゲルはそうひとりごとを言い、ふんっ、と漆黒の鎌で空を裂く。裂かれた空間の切れ目から黒い霧が流れ出し、緑のマントにコウモリ柄の服を着たひとつ目の神官がぞろぞろと降りてくる。ガラトアと同じ衣装。マントの色が同じであったなら、誰がガラトアかわからなくなったであろう。
「地獄の使いだ。好きなように使うがいい、参謀。」ネルゲルが言うと、地獄の使いたちはガラトアに対して膝をつく。
「ありがたき計らいでございます。これで私の研究も捗ります。」
「そして」ネルゲルが左手の人差し指を立て「出てこい、ベドラー。」と指を軽く手前に倒す。
キヒヒ、と緑色の体が現れる。
「お前にもエテーネ殲滅の任を与える。我に同行する必要はない。好きなように動け。」
「仰せのままに。ヒヒ。」ベドラーはそう言うや否や、今出てきたばかりの空間の裂け目に再び飛び込み、姿を消した。
「破聖師よ。」ネルゲルは黒ローブの男に呼びかける。「結界は得意か?」
「もちろん。」男は怪しく微笑んだ。「ここにはすでに闇の結界を張っている。それから」少しもったいぶってから言う。「聖なる結界を破るのも、もちろん得意だ。」
黒い短髪と黒いローブ。ベルンハルトには、もはやかつての破邪舟師としての風貌は、かけらも残っていなかった。
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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